<ハノキア踏査編> 94.ダンの策略
94.ダンの策略
ミネルヴァース社の役員たちは皆はミネルデバイスの将来性への理解と期待値が膨れ上がる一方で、ミネルデバイスの開発の過酷さや法に触れるギリギリの研究を知り、直接関わることを避けつつ美味しいところに噛み込むという狡賢い選択をした。
さらに会社として早期にアルファテストへ進むための支援を行うことも決定し、会社から予算が増額されただけでなく、いくつかの部署が秘密裏に協力することも承認された。
その数日後、また呉人の手配でとあるホテルに雪斗と頭応留美が呼び出された。
「上手くいったな」
「いや、そうでもないんだよね実は」
「どういう意味だよ呉人」
呉人はソファにだらしなく座りイラつかせる話し方で言ったのに対し、雪斗もまたイライラしながら質問した。
「いやぁねぇ、僕らは踊らされたってことだよ」
「だからどういう意味だっつってんだよ!」
「私から説明するわ三神くん」
頭応留美が呉人の代わりに説明し始めた。
「実はね、正直私とダンの研究は行き詰まっていたの。研究には多くの試験体が必要になるのは知ってるわね。これまで言うなれば、ダンが非合法に入手し続けた状態だったの。資金は私の会社から出せたけど、試験体だけはどうにもならなかったのね。そしてダンも頭打ちになってきた試験体入手方法をどうにかしなければならないと考えたわけ。そこでダンはミネルヴァース社の力を利用しようと考えたわけね」
「ミネルヴァース社の力?」
「ええ。IITT社の力なんて高が知れている。所詮はベンチャーだし。でもミネルヴァース社は今や大企業。当然様々な方面にコネクションがあり、それなりの金銭も流れているわ。その構造をダンは調べ尽くし理解したのね。つまり、ミネルヴァース社の関係各所への繋がりの力を使って試験体を準備させる計画を立てたの。経営企画部署にネイツァーブラストとミネルデバイスの話を伝え、役員にアルファテストの実施を提案させたのね。その先は三神くんも知っている通りの筋書きね」
「ダンはおれ達をも利用したってのか?!」
「それは分からないけど、誰かが僕らのような行動をすると予測していた、もしくはそうならなかったとしてもダンが上手く誘導して同じ結果を引き出したんだろうね」
「‥‥‥‥」
(なんてやつだサンバダン!‥‥だがデバイスの研究がこれほどまでにグレーだったとはな‥‥)
「でもまぁ僕らの目的にとっても良い方向になったと思うよ」
「ダンの恐ろしさが役員に伝わったってことか?」
「うん。役員の老害たちもダンを警戒するだろうからね。そしてミネルデバイスの技術が完成するタイミングを見計らってダンを排斥するんじゃないかな。あの技術を取り上げられたら流石のダンも混乱するんじゃない?その隙に彼を捕らえてミネルデバイスの技術でダンの人格の精神だけを抜き取る。この作戦に移行できるよね」
「甘いぞ呉人」
「?‥‥どうしてだい?」
「ミネルヴァース社の役員がダンを扱えると思っているのか?役員すら食われるぞ」
「!‥‥さすがは3Gさん‥‥と言いたいところだけど、そうはさせないよ。だからこその三人の協力体制なんだからね」
「余裕ぶっているが、この後のプランはあるのか?」
「あるよ」
呉人は説明し始めた。
「あるよ、といっても基本線は変わらない。あとは様子を見ながら臨機応変に対応するだけかな。取り敢えず僕はプログラマーとしてネイツァーブラストの開発に携わりながら社内の動きを探り続ける。頭応さんは研究を続けつつダンを監視だね。今後試験体がどんどん入ってくる可能性があるから、研究の進捗度合いを僕らに共有してほしい。もちろんダンに不穏な動きがあったらそれも探ってもらう。無茶は無しだけどね。そして3Gさんにはマーケティング領域のリードとして役員含めて動きを見てもらうのと、何よりあの仲の動向を監視してもらいたい。彼はミネルヴァース社で最も怪しい人物だからね」
「分かった」
雪斗はすぐに返事をしたが頭応留美は少し俯いて返事を躊躇していた。
「どうした頭応さん」
「あ、いえ、なんでもないわ。もちろん私もその作戦の通りに動くわ」
「じゃぁ決まりだ。長期戦になるかもしれないし、頻繁に会うことも難しくなるだろうから、定期的なメッセージのやり取りに止めるかつ、暗号化を忘れずに」
雪斗と頭応留美は頷いた。
それからしばらくして解散した。
帰路で雪斗は現状に不安を感じている自分に気づいて頭の中を整理しようと思考を巡らせていた。
(おれは一体何をしているんだ‥‥いくらリリアラの件があるからといってこうものんびりと行動していていいんだろうか‥‥同じタイミングでマルクトに来ているレヴルストラの皆は何をしているんだろう‥‥おれが不在となっているからおれを探すチームと越界エネルギー充填施設の在処を調査するチームとに分かれているだろう‥‥いや、おれのことを探すのは後回しかもしれない。少なくともシアはおれがミネルヴァース社で働いてたことを知っている。となれば雪斗におれの精神体が宿る可能性を真っ先に考えるはずだ。だが未だ現れないってことは何か別のことを優先しているのだろう。つまり何か問題を抱えているってことだ。そんな中でおれはこんなのんびりしてて‥‥)
ピン‥
着メッセージ音がしたため雪斗はスマホを確認した。
差出人は頭応留美だった。
“三神くん。今度の日曜日会える?”
(何だこれ。どういう意味だ?)
“会えるが何か用事でも?”
雪斗はメッセージを返した。
ピン‥
“特に用事ってわけではないけど、色々と話したいことがあるので”
“了解した”
“ありがとう。それじゃぁ時間と場所は別途連絡するわね”
それでやり取りは終了した。
(話したいこと‥‥か‥‥)
雪斗は頭応留美が大粒の涙を流しながら自分に寄りかかろうとしてきた姿を思い返した。
(できることなら救ってやりたい‥‥!!‥‥っておれは一体何を考えているんだ!やつはリリアラを樹に変えた最悪の人物だ!‥‥‥救うだなんて‥‥)
雪斗の心の中に、頭応留美をまだ信じられない自分と頭応留美を救ってやりたいと思う自分がいて葛藤していた。
(くそ!‥‥おれはどうすればいいんだよ全く‥‥)
「おかえり雪斗さん」
「!!」
雪斗は突然話しかけれてビクッと体を震わせた。
「瑠璃ちゃん!」
アパートの前で七瀬瑠璃が待っていたのだ。
「え?そんな驚く?」
「あ、いや、考え事してて‥って何でこんな外で?!」
「部屋の窓から雪斗さんが見えたから降りてきたんだよ」
「そ、そうなんだ‥」
「てか、怪しいね‥‥浮気じゃないの?」
「う、うわ、うわわき?!」
「嘘でしょ、冗談で言ったのに何その聞いたことないような動揺ぶり。ちょっと早く中に入ろう。尋問します」
「ええ?!」
部屋へと入った後、雪斗が正座させられ、その前に七瀬が椅子に足と腕を組んで座っている。
「それで?さっきの動揺ぶりは何でしょうか?」
「いや、突然声かけられたからびっくりしただけだよ」
「嘘だね。雪斗さん基本肝座ってるでしょ。だからあんなに動揺すること珍しいんだよ。でも唯一動揺するジャンルがあるんだよねぇ。何か分かる?」
「分からない‥‥です‥‥」
「恋愛関係」
「はぁ?!」
「雪斗さん分かりやすいんだよ。顔というか声が聞こえてきてるんじゃないかってくらい分かりやすい感じになるんだよね。色々と事件が起こった時も驚くけど、それは何ていうか、驚いていない驚きっていうか、単なる条件反射みたいな感じで実は驚いていないというか動じていない感じなんだよね。でも恋愛沙汰の話になると途端に表情が強張って困惑したような感じになるのね。そしてさっきの反応は明らかに恋愛沙汰の話。表情にモロに出ていたしね」
「‥‥‥‥」
(頭応留美に勝るとも劣らないこの洞察力は‥‥マジで侮れん‥‥)
「何が、あって、そのように、動揺しているんでしょうか」
七瀬は雪斗を追い詰めるように質問した。
「‥‥‥‥」
雪斗は何と答えればよいのか分からず言葉に詰まり無言になってしまった。
「頭応留美さんね」
「!!」
「あらら、図星か。まさか雪斗さん、あの人のことが好きなの?」
ブルブルブル
雪斗は首を振った。
「まぁあの人美人だし、頭いいし、元社長だし、お金持ちだし、それでいてあんまり着飾らないで自然体な感じがするし、惹かれるのも分かるよ。私はこんな感じだから完全に負けてるしさ‥‥」
「そんなことないよ!瑠璃ちゃんは‥‥魅力的な女性だよ‥」
カァ‥
七瀬は顔を赤らめた。
「雪斗さんがそんなセリフ言えるなんてなんか変だね。もしかして頭応さんをそんな感じで口説いた?」
「まさか!そんなことするわけないよ!」
「本当?」
「本当だよ!」
「‥‥‥‥」
七瀬は少し悲しそうな表情を見せた。
「分かったよ。雪斗さんを信じる。まぁその前に私たちちゃんと付き合ってはいないもんね。こんな尋問そもそもする権利は私にはないか。それにそもそも雪斗さんには大きなミッションがあるし」
「瑠璃ちゃん‥‥」
「そのミッションを手助け出来るのは私だけだって思っていたけど、頭応さんの方が全然頭いいし、頭応さんの方がよっぽど雪斗さんを助けられるのかもしれないよね‥‥」
「そんなことないって!」
「分かってるんだ‥‥私じゃ雪斗さんにとって役不足だってさ‥‥でも、雪斗さんが本当に辛い時に支えられるのは私しかいないって!‥‥そう思ってる‥‥」
「瑠璃ちゃん‥‥ありがとう」
雪斗は七瀬の両手を握って自身の額に当てた。
「瑠璃ちゃんがいてくれるからこそ、おれはこの世界で孤独に立ち回らなければならない状況の中でも何とかやっていけているんだと思うんだ。あのボードは本当は誰かに見せて良いものじゃない。偶然見られてしまったけど後悔はないし。だからおれは瑠璃ちゃんに感謝しているんだよ」
「雪斗さん‥‥」
七瀬は少しだけ悲しそうな表情を見せた後、口をへの字にして立ち上がった。
「気持ちは伝わったよ。はい!これで尋問は終わり!ご飯は食べたの?」
「いや、まだなんだ‥‥」
「じゃぁ私が作ってあげるね!こんな時間だから量は少なめで」
「え‥‥あ、ありがとう」
「おいおい、何だその怯えた顔と返事は」
「あ、いや‥‥」
「私が料理するのが不満か?」
「いえ、嬉しいであります」
「よろしい、ではそこに座って待機」
「はっ!」
雪斗は七瀬の料理に少しだけ不安を感じつつも、心が救われている感覚を噛み締めていた。
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