<ハノキア踏査編> 90.3人の連携体制
90.3人の連携体制
(ジャバ!何故おれの名前を知っているんだ?!)
雪斗はあまりの衝撃で拳を強く握り過ぎて血を滴らせた。
「三神くん?!」
思わず頭応留美が雪斗に声をかけるが、届いていない。
雪斗は血が滴る手で顎を触りながら思考を巡らせていた。
(ジャバがイヌトと繋がりがあることはこれまでの流れで理解はしていたからダンとの会話に違和感はなかった。ただひとつ、おれの名、スノウ・ウルスラグナを口にしたこと以外は‥‥。一体どうなってる?!確かにネツァクではヘギャザテと対峙した。ナナシになったヘギャザテとの接点もあったが、それはまだ先の話だ。何故ジャバが‥‥もしやおれが何処かでヘマをしたか?!いや、考えにくい‥‥。これからさらに過去へ越界する未来があるということか。何れにせよ、ジャバがイヌトとの繋がりがあり、おれの名を知っているということはイヌトがレヴルストラを知っているという事になる。仲間が危ないかもしれない。い、いや、ここは仲間を信じるんだ。ソニックもシルゼヴァもアリオクもいる。判断を誤る事はない。‥‥そう言えばさっきおれのことを "ニンゲンの模倣品みたいなもの" と表現していたな。人間の模造品ってどういう意味だ?!ジャバはおれの何を知っているっていうんだ?!)
パシィン!
「三神くん!」
「!!」
頭応留美に頬を叩かれて雪斗は我に返った。
「頭応‥‥」
「やっと焦点が合ったね。一体どうしたの?見てみなさい自分の顔」
「?」
頭応留美は化粧ポーチから鏡を出して雪斗に自身の顔を見せた。
そこに映っていたのは顎周辺が血だらけになった顔だった。
「何だよこれ‥‥」
「手」
頭応留美は雪斗の手を指差した。
「あ‥‥」
雪斗は洗面所で顔を洗い、手のひらに付いた傷の手当てをした。
頭応留美に包帯を巻いてもらって取り敢えず血は抑えられた。
「全く。拳を強く握って出血するなんてアニメでしか見たことないわよ」
「へぇ、頭応さんアニメ見るんだね。意外だったよ。今度何を見るか聞かせてよ。それで3Gさん、一体何に引っかかったんだい?偶々救急箱あったからよかったものの、自殺願望とか芽生えちゃったわけじゃないよね?」
「大丈夫だ」
「大丈夫に見えないわよ。一体何に反応したの?」
「大丈夫だって言ってるだろ。おれのことは気にしないでくれ」
「そんな状態になったのに気にするなって無理でしょ!」
「まぁまぁ、本人が気にするなって言っているんだから気にしなくていいでしょ。それで、本題に戻していいかい?」
「ああ、構わない」
「構わないってもう!何て人なの!」
怒っている頭応留美を見て呉人は微笑ましく見ていた。
「で、さっき聞いてもらった内容を簡単にまとめるとこうだ」
・ダンは仲鬼使密と接点がある。
・ヴァニタスマターという鉱石で何かを呼ぶことが出来る。
・ダンは南の成長のために電脳世界に人間を転送しようとしている。
・その際、南に何か悪影響を与えそうな素振りが見られたら消去する機能を付与しようとしている。
・仲はそれでは精神体は完全には消去出来ないと言った。
・そして完全に消去する方法を教えると言った。
「こうして見ると一見、人間には選択肢があるから、電脳世界は危険な場所だと情報を流布すれば一定の人は影響を受けずに済みそうだけど、実際に電脳世界へ転送されて消去される事実を知った人間は現実世界へと逃げ帰るだろうし、仮に電脳世界への片道切符となるにしてもそれ自体問題になるし、そもそも現実世界に残された肉体が死んだらどうなるかって話もあるよね」
「今の技術では現実世界の肉体が機能停止となれば死ぬわ。現実世界へ戻す技術は間も無く完成するから戻れるように実装すると思うけど、あなたの言うとおり誰かの指示で電脳世界で人が消去され死ぬとなればその情報は一気に広まるでしょうね。そうなれば南の生きやすい世界は作れないでしょう」
「だよねぇ。そこで2つお願いがあるんだけどさ」
呉人はコーヒーを飲み干した。
「ひとつは、録画音声にあった例の存在について知っていることを教えて欲しいんだ。あ、誤魔化しても無駄だよ?話の流れ上頭応さんが知っているのは明白だからね」
「はぁ‥‥何故知りたいの?」
頭応留美の質問に呉人の表情が一瞬で真剣なものへと変わった。
「弟を取り戻すためだよ」
「!」
「南はダンに守られているように見えるけど、実際には閉じ込められているようなものなんだ。南が死ねばダンも消える。僕はね、ダンは南を守ろうとしているように見せていずれ南の体を乗っ取ろうとしているんじゃないかと思っているんだ」
「‥‥そう言う解釈も出来なくはないわね‥‥幼少期にダンの人格が生まれたのも、南を救うと言うより南が自死するのを防ぐためと見ても辻褄は合うわ」
「そうだね。そして何故ダンは精神体を別の世界へ転送する研究を進めているか分かるかい?」
「そもそも南が研究‥‥いえ、ダンが仕組んでこの研究を始めさせた?‥‥何故?‥‥そうか、南の体からダンの人格が存在する精神体を分離させてダン自身を解放させようとしている‥‥」
「ちょっと違うね。おそらく南とダンは一つの精神体を共有しているはずだ。もしかしたら他の人格も生まれているかもしれない。これは僕の推測だけど、南の人格が死んだら精神体も死ぬんじゃないかって思うんだ」
「なるほど。だからダンは南を庇っていると?」
「そうだね」
「だとしたら先程の音声データにあった会話はどう説明するの?仲本部長を偽情報で騙して信じ込ませるって線もあるけど、その狙いは何かしらね」
「あれはあれで本心なんだと思うよ。でもそれは精神体を生かす方策だね。仮に南の精神体からダンだけ抜け出せたとして、南の精神体が死んだ時にダンが死なないと言う保証は無いからね。元々はひとつの人格だから本体の南が死んだら自分の死ぬ可能性があるなら南を生きながらえさせる檻に閉じ込めるのがいいってことさ」
「冷酷で打算的。自分以外は全て道具と見ているあたりダンらしいわね。納得だわ。分かった。私が見たものは全て教えるわ。それでもうひとつは?」
「もうひとつはは、3人で連携体制を組むことだよ」
『!』
頭応留美は驚いた表情で雪斗を見た。
「そう驚くこともないでしょ。少なくとも僕と頭応さんとは利害関係が一致しているわけだしね」
「私は構わないけど‥‥」
頭応留美と呉人は雪斗をまじまじと見つめている。
「3Gさんはどうだい?」
「おれは‥‥」
呉人は優秀なプログラマーであり未来で会う呉人はミネルヴァース社で働いた経験もある。
恐らく放っておいてもミネルヴァース社で働くことになるだろう。
そしてミネルデバイス事業本部で働き、いずれ何らかの理由で退職することになる。
これまでの時間軸では雪斗と会うのはその後だ。
だが今この瞬間に既に出会ってしまっている。
(このままこのふたりと接点を持ち連携をしてもいいんだろうか‥‥未来が大きく変わってしまうんじゃ無いか?予定調和って言っていたが、調和する前の段階で仲間に影響があったりしないよな?)
雪斗は少し困惑した表情になった。
「三神くん。呉人が仲間になるとなれば貴方が成し遂げたいことにもつながるんじゃない?」
「‥‥‥‥」
「3Gさんが成し遂げたいこと?へぇ‥‥偶々巻き込まれた感じに見えたけど実は深く関わってる感じか。それで?どうするの?早く決めてよ」
「ちっ‥‥相変わらずだな。まぁいい、連携体制に賛同してやるよ。だがどう行動するかはきちんと共有してくれ」
「相変わらず?まるで既に僕を知ってるかのような口ぶりだね」
「連携はするが馴れ合うつもりはない。詮索は不要だ」
「分かったよ。僕は連携出来れさえすればいいからね。今後の行動は後で話すとして、頭応さん例の存在について教えてくれるかい?」
「いいわ」
頭応留美は見たままを伝えた。
普通なら信じられない話であったが、意外にも呉人は全てをすんなり信じた。
「その怪物ってのはダンの理屈で言えば電脳宇宙の住人ってことか。タイミング的に仲が接触してきたのはその怪物と遭遇した直後だよね。電脳世界で想定外の場所へ飛んだことで検知されたか、怪物と遭遇したことで検知されたか、何れにせよ会話にあった通り仲はその怪物の存在を知っているわけだから繋がりがあるわけだ。そして電脳宇宙の存在を知っているってことだね。頭応さんとダンが初めて辿り着いた電脳宇宙を既に知っている人物か。ミネルヴァース社にそのテクノロジーはないはずだから、仲は相当やばい人物だ。警戒する必要があるね」
呉人の飲み込みの早さと思考の早さには驚かされるばかりであった。
雪斗は改めてジャバの存在が脅威であることを認識した。
それから3人は若干雑談めいた会話をした後一旦解散することにした。
帰り際、頭応留美から近いうちに佳奈美を紹介したいと申し出があったが、頭応留美の身に何かあった際に面倒を見る約束をしているため承諾するしか無かった。
雪斗のアパートの前まで頭応留美はタクシーで送ってくれたのだが、降りる際に頭応留美は雪斗の手を握ってきた。
「三神くん‥‥」
「何だよいきなり!」
「三神くんしか頼れる人がいない‥‥気丈に振る舞っているけど、今にも押しつぶされそうなプレッシャーがあるの‥‥。佳奈美のことだけは本当にお願いね‥‥。それだけが自分を保つ拠り所なの‥‥」
「‥‥分かったよ」
「ありがとう。それじゃぁまた明日」
頭応留美を乗せたタクシーは走り去った。
(何だか頭応留美を誤解していた気がする。ズールーとしか知らないおれにとって頭応留美は同一人物とは思えない程のギャップがある。信じていいものか‥‥)
雪斗は取り敢えず部屋に入ろうと入り口に向かった時に突然自分の前に何者かが立ちはだかったため思わず足を止めた。
「瑠璃‥ちゃん?」
「雪斗さん。今の女の人は誰」
「えっ?」
雪斗は何故か全身から冷や汗が噴き出てくるのを感じた。
いつも読んで頂きありがとうございます。




