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<ハノキア踏査編> 89.驚愕の会話

<レヴルストラ以外の主な登場人物>

【頭応留美】

皇塾を卒業後、MITを主席で卒業しIITT(アイイット社を立ち上げ、精神体を電脳世界へと転送する技術を開発したひとり。以前スノウがネツァクへ越界した際に天使ペネムの体を奪って緑の天使ズールーとしてスノウたちと戦い、リリアラを樹化させている。それを阻止するため雪斗となったスノウは頭応と接触したが、頭応留美には妹の佳奈美について瀬良南ダンに弱みを握られていることから雪斗と奇妙な連携体制をとっている。


【瀬良呉人】

瀬良南の兄。南ほどではないが、IQは高くプログラマーとしては世界でも有数となる存在だがその能力を表には出しておらず、なるべく平穏に暮らそうとしている。

以前スノウがネツァクへ越界した際、セクレトとして共闘しサンバダンを倒した関係であったが、現在の時間軸ではまだ知り合っていない状態。

弟の南の中にいるもう一人の人格であるダンに恐怖を抱いており、弟を案じているが自分より遥かに賢く残忍なダンに対して行動を起こせずにいる。

89.驚愕の会話


 「食えない男だわ。とても兄弟とは思えないわね‥‥瀬良呉人(せらくれと)

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥‥


 何と目の前に現れたのは瀬良南の兄である瀬良呉人(せらくれと)だったのだ。


 (呉人(くれと)‥‥ネツァクでセクレトとなのってヴァニタスにいた男。だが、最終的におれの味方になった。ネツァクでの最後の戦いの際に有留平太とともにマルクトに戻っている。その後どうなったかは知らないが、今この時間軸ではおれと呉人は出会っていない。何と話をすればいい?!)


 「さて、頭応さん。こんなところで話すのも何だからこっちへ。そこのおじさんも一緒に来たらいい。その人一緒じゃなきゃどうせついて来てくれないだろうしね」


 呉人はとある車にふたりを乗せようと手招きした。

 だが、頭応留美は雪斗(スノウ)を抑えながら、止まった。

 

 「ちょっと待って。呼び出した目的を聞いていないわ。それにこんなところを知られたら変に怪しまれる可能性がある」

 「警戒してるんだね。何を警戒しているかも分かっているよ。でも大丈夫だよ。ここ周辺のカメラには別の映像を記録させているからね。念には念をってやつだよ」

 「なるほど。あえてこういう場所を選ぶことによって不自然に消えたと思わせないってことね。こういう場所はそこら中にカメラがあるから逆に誤魔化せるってわけね」

 「さすがは稀代の秀才。中途半端な場所だと突然消えた痕跡が残っちゃうからね。さぁ乗ってよ。あまり時間かけすぎると誤魔化しが面倒だし」


 頭応留美と雪斗(スノウ)は呉人の車に乗り込んだ。

 それから30分ほど走りとあるアパートにたどり着いた。


 「さて、降りてくれるかい」

 

 言われるままに車を降りると、アパートの一室に招かれた。

 古いアパートであるためオートロックなどはなく、鍵でドアを開けて中へ入った。

 中はしっかりとリフォームされており昭和な外見とは違い最新の設備が揃った部屋となっていた。


 「安心してくれていいよ。ここには僕以外は住んでいないから。このアパート丸ごと僕の所有物件なんだよね。別荘的に使っているところだから偶にしか使わないし」

 「随分と裕福なのね」

 「まぁね、君ほどじゃないけど僕もそれなりに商才があるって感じかな。副業で結構稼いでいるからね」

 

 呉人はふたりにソファに座るよう促した。


 「それで?一体何なの?突然あんな暗号の真似事みたいなメールで接触してきたからにはそれなりの理由があるのでしょう?」


 頭応留美の毅然とした詰め寄りに臆することなく呉人はコーヒーを準備している。


 コト‥‥


 「その前に、そっちのおじさんは何者?」

 「!」


 雪斗(スノウ)は改めて不思議な感覚になった。

 既に知り合って協力しながらネツァクの難局を乗り越えた記憶と初めて会った現実との乖離で脳が状況について来られていないのだ。


 「この人は三神さん。漢数字の三に神という珍しい苗字。私の信頼のおける友人よ」

 「だいぶ歳離れてるけど友人ねぇ」

 「ど、どういう意味!」

 「ははは!冗談だよ。秀才の頭応留美でも一応一般常識的な感覚は持っているんだと分かっていい発見だったよ。それで、3Gさん、自己紹介してくれるかい?」

 「!‥‥”さんじー”さん?おれの名は三神だけど」

 「あぁ、だって三神、つまり(さん)God(ゴッド)ってなるから(さん)G(ジー)さんって。言い換えても意味も発音も似ているし、ナイスセンスでしょ」

 「‥‥まぁ、かまわんが‥‥」

 (こいつ‥以前初めて会った時と同じ反応しやがって。まさかこいつ未来から戻って来たとかないよな‥‥)

 「さて。それじゃぁ本題にはいろうか」

 

 突如呉人の表情が飄々としたものから真剣なものへと変わった。


 「頭応さん、最近弟とずっと一緒に研究してるね」

 「ええ」

 「(みなみ)じゃなく別人格だってのも知ってるよね」

 「ええ」

 「なるほど。いつ知ったんだい?」

 「私がMITから帰って来て再会した時、(みなみ)が既に視神経をバーチャル世界に繋ぐ技術を実現していたの。そして既に精神体の存在にも気づいていて、精神体をデータ化する理論を構築していたわ。私もその理論の実装に向けた研究を手伝ったの。でもどうしても精神体をデータ化する変換のロジックが構築しきれなかった。行き詰まった研究で(みなみ)は次第に自身を責め始めた。自分の力不足だと。そしてうつ病になりかけた時、突然表情が変わったの」

 「(だん)だね」

 「ええ。優しかった口調が‥‥呉人、貴方みたいな口調になったわ。でも全く違う内容。冷酷で残酷で人を切り刻むことを楽しむような性格。心底恐怖したわ。でも‥‥私よりも‥‥(みなみ)よりも異常に高いIQで行き詰まっていた研究を一気に推し進めた。その時、私、恐怖にも勝る歓喜の感情が芽生えたの。科学者として尊敬の念と、ダンと一緒に研究が出来る喜びを感じたのよ」


 頭応留美は苦しそうな表情で話し続けた。


 「三神くんには見せたけど、私の研究日誌を見ればその状況が分かると思うわ。知っての通り既に私たちは電脳世界へ精神体を転送することに成功しているわ。そしてまもなく電脳世界から現実世界へと精神体を戻す手段も確立出来る。そうなれば世界は一新されるわ。私はその世界を夢見てここまでやってきた。でももう‥‥それも終わるわ」

 「ん?終わる?どういう意味?」

 

 頭応留美は雪斗(スノウ)の顔を一目見た後、話を続けた。


 「私の妹の余命が僅かになっていて、それをダンが救ってくれるとなっているの。でもその代償として私はIITT社を手放すわ」

 「会社手放したって研究は続けられるでしょう?ミネルヴァース社に残ればそれなりの地位で仕事やれる訳だし。てかニュースではファイヤーして海外で悠々自適に暮らす、なんて書いてあったよね。あれ、やっぱり本心じゃなかったってことだね。稀代の秀才って言われて皇塾に入り、MIT主席で卒業しているのに今更海外でのんびりって、根っからの科学者の、しかもそんな年齢で行き着く場所じゃないとは思ってたよ」

 「‥‥‥‥そうね‥‥ふふ」


 頭応留美は疲れた表情で寂しそうに笑った。


 「でもどうやって妹さんをダンが救うんだい?」

 「クローンよ。健全な妹のクローンに妹の精神体を転送するっていうこと。おそらくダンは電脳世界と現実世界をコネクトする技術を活かして生身の人間ともコネクトする技術を既に開発していると思うわ。これは科学者の勘だけど、ほぼ間違いない」

 「なるほど。だからか」

 「?‥‥どういう意味?」


 呉人はスマートフォンを出して何かの録画を流し始めた。


 「これはね、今日頭応さんを呼び出した理由でもある動画だよ。画面には何も映ってないから実質音声データだけどね。でも今ダンが何をしようとしているのかが知れる。まぁ聞いてみてよ。普通なら理解し難い会話だけど、君なら理解できるはずだよ」


 呉人のスマートフォンから音声が流れ始めた。


・・・・・


 「態々時間とってもらってすまんね瀬良さん」

 「いえ、(なか)さん。逆に興味深い話を頂いて感謝しているよ。でもひとつだけお願いがね」

 「何かな?」

 「僕のことは瀬良とは呼ばないでもらえるかい?」

 「瀬良は貴方の苗字では?」

 「事情があるんだよ。虫唾が走る理由がね。そうだね、山波(やまなみ)‥‥いえ、山波(サンバ)‥と呼んでもらおうかな」

 「何だかよくわからんが、事情があるだね。いいでしょうサンバさん。それで無事に鉱石は受け取ってくれたかな?」

 「受け取ったけどあれは何かな?一応分析してみたら、地球上のものではないところまで分かったけどね」

 「さすがだね。あれはヴァニタスマターと言ってね。特別な世界と繋がり、とある存在を呼び出す鍵でもあるんだ。とある存在のことは既に知っていると思うがね」

 「なるほど、納得だね。やっぱり僕があれに接触したことで声をかけてきたって感じだね。それであれと接触するにはどうしたらいいんだい?」

 「まぁそう急くこともないよ。じっくり会話しようじゃないか。私はね、君が何を成し遂げようとしているのか、とても興味があるんだ。(だん)くん」

 

 ガタタン!


 「物騒だね。そのナイフで私の頸動脈を切るつもりかい?」

 「なぜその名を知っているんだい?返答次第では殺すよ。文字通り頸動脈を切断してね。言っておくけど僕はね、人を殺すことはステーキをナイフで切るくらいにしか思っていないんだ」

 「知っているよ。君は既に父親を殺しているね。あれはいい殺し方だ。ニンゲンは精神構造が脆いから、少しでも亀裂を与えてやればいいんだが、それを知る者は少ない。君はその数少ない者のうちのひとりだ」

 「どこまで知っているんだい?」

 「全てさ。君のこれまで行って来た全て。でもこれから何をしようとしているかは知らない。だからそれを聞きたいと思ってね」

 「‥‥仲さん、君、面白い人だね。いや人‥‥じゃないのかも」

 「はっはっは!面白いねダンくん。私は歴としたニンゲンだよ」


 ガタン‥‥


 「僕も君に興味が湧いて来たよ。僕が何をしようとしているかって質問だったね。僕がやろうとしていることはね、(みなみ)が安心して暮らせる世界を作ることだよ」

 「ほう‥」

 「この世界はくだらないことに満ちているじゃないか。我欲の押し付け、承認欲求、自己顕示欲、規律遵守欲‥‥挙げたらきりがないけど、その欲全てが満たされないと他者を攻撃することで満たそうする生き物ばかりだろ?(みなみ)はかけがえのない個だよ。そんなゴミにも劣る生物どもの欲に晒され攻撃される対象になってはならないんだ」

 「(みなみ)くん以外の生物を全て殺すのかな?」

 「いいや。それじゃぁ(みなみ)が独りきりになってしまうじゃないか。(みなみ)は心優しい人間だよ。人間は他者と関わって成長するっていう厄介な設計がなされいるからね。(みなみ)の成長は僕の望みでもあるからそれを阻害してはならない。じゃぁどうするか。(みなみ)の成長のために人間は生かしておく。でも(みなみ)に危害を加えるようなことがあった瞬間、いや、危害を加える直前かな。その人間を精神体ごと消し去れる世界にしようと思うんだ。それこそボタンを押して消去するようにね」

 「面白いね!無意味なニンゲンを無に帰すってことだね!それはいいアイデアだ!ダンくん!是非君のその望む世界を作る手助けをさせてもらえないかな?」

 「仲さん、君も大概面白いひとだよ。それのどこに君が得する要素があるんだい?」

 「まぁいいじゃないか。それでそれが実現できる世界をどこに作るのかな?まさか現実世界で作ろうっていうんじゃないだろうね?」

 「まさか。この現実世界でそれをやるには時間がかかり過ぎるじゃないか。僕はそれを電脳世界でやろうと思っているよ。僕が作ったプラットフォームに世界中の人間がアクセスするんだ。精神体に消去ボタンを付与された状態でアクセスする人間たちはそれを知らずに電脳世界で生きる。消去ボタンの存在を知っていたら心優しい(みなみ)が気を遣ってしまうからね。あくまで知らずに自然体で接してもらい、(みなみ)の成長に貢献する。害悪となる場合はその直前で消し去る。素晴らしい世界だと思うよね?」

 「もちろんだ。素晴らしい世界だ。だがね、電脳世界ってのがいただけない」

 「どういう意味だい?」

 「電脳世界は所詮精神体だけを格納している状態に過ぎない。精神体は煙のようなものでね。消えたと思っても細かい粒子となって残るんだよ。そして何か依代となるものを見つけたら復活してしまう。この現実世界で肉体に寄生しているようにね」

 「面白い理論だね。仮に消去ボタンで精神体のデータを消し去っても完全に消えるわけじゃないってことかい?」

 「その通りだ。消し去るためには精神体と肉体を同時に消し去らなければならないんだよ。その方法は私が教えよう」

 「ふははは!本当にあんた、一体何者なんだい?」

 「いずれ分かるよ。それでね、君に渡すものがあるんだ」


 ガサ‥


 「何だいこれ」

 「まぁ呪文とでも思ってくれればいい。例の存在を呼び出す呪文だね。それでその際にその存在を上手く動かすための手順も書いておいた。普通ならそれこそ存在を完全に消し去られてしまうんだがね。その手順に従って対応すれば、その存在を上手く操ることが出来る。どうだい、やってみるかい?」

 「もちろんだ」

 「おっと、ここでやるなよ?私は消し去られるのはごめんだからね」

 「意外と臆病なんだね」

 「ははは、そうだよ。私は臆病者だ。でもねぇ、臆病は最強なんだよ」

 「そうかもね」

 「それじゃぁ今日のところは失礼するよ。ああ、それと、頭応留美は上手く利用するといい。この意味は何れ分かると思うがね」

「へぇ‥奇遇だね。僕もそう思っていたよ」

 「彼女にヴァニタスマターを渡したのは彼女にマーキングするためなんだが、まぁそれは君には関係のない話だったね。あ、それともうひとつ。もしスノウ・ウルスラグナって名乗る者が現れたらすぐに知らせてくれるかな」

 「何だいそれ。そいつは何人だい?」

 「何人。面白い質問だね。そうだね、ニンゲンの模倣品みたいなものだね」

 「何だか分からないけど連絡はするよ」

 「よろしく。それじゃぁ」


 ガタン‥


・・・・・


 「音声はここまで。後は何でもない時間が過ぎている感じだよ。何でこんな音声データが録れているかって顔だね。一応僕は(みなみ)の兄だからね、それなりにIQ高いし、こういう小細工するのは得意なんだ。スマホはそういう機能がついているってことだね。って、3Gさん、どうしたんだい?そんな驚いた顔して。そんなに驚愕な内容だったかな?まぁそっか。信じられないよね、普通」


 雪斗(スノウ)は言葉を失っていた。

 呉人の言葉も耳に入ってこないほど驚愕していたのだ。


 (ジャバ!何故おれの名前を知っているんだ?!)


 雪斗(スノウ)は全身から汗が吹き出るのを感じていた。




いつも読んで頂きありがとうございます。

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