<ハノキア踏査編> 81.核心に迫る
81.核心に迫る
雪斗は自宅の部屋に貼ってある人物相関図とネツァクとマルクトの時系列経緯の表を前に思案を巡らせていた。
その視線は人物相関図の仲 鬼使密に向けられていた。
仲 鬼使密。
ミネルヴァース社におけるマーケティング及び販売の本部長であり、役員一歩手前の立場にも関わらず強引に人事権を幅広く有して恐怖で組織を支配している人物だ。
ゆくゆくはミネルデバイス事業本部の本部長を担うことになるのだが、ミネルヴァース社においてミネルデバイスは間違いなく中心の事業になるものであり、その事業本部を掌握している仲鬼使密はミネルヴァース社を手中に収めていく人物と言っても過言ではなかった。
本人はその器ではなく、セクハラ、パワハラ、モラハラ、スメハラなどあらゆるハラスメントを体現しているかのような存在で何故事業が上手くいくのか分からないと思わされるほどである。
その見た目からスペースウォーズの悪役宇宙人のジャバと雪斗からは密かに呼ばれている。
雪斗をマーケティング及びVR -SNS開発のプロジェクトのリーダーに据えたのも仲鬼使密だが、最初は雪斗を虐めるための人事だと思っていた。
だが、雪斗の仕事の手腕は秀でており、プロジェクトは順調に進捗していることから人を適材適所にあてがう才能はあるようだった。
「ジャバ‥‥」
(こいつは一体何者なんだ‥‥)
見れば見るほど嫌悪感を増幅させる顔だった。
「頭応留美が持っていた石らしきものは間違いなくヴァニタスマターだ。忘れもしないイヌトの一体であるヘギャザテを召喚するのに使っていたものだ。。サンバダンやズールーにとってヘギャザテを呼び出すヴァニタスマターは非常に大切なものだからあんな無造作にバッグに入れて持ち歩くとは考えられない。しかも見つかったら必ず何かと聞かれる。だとしたら少なくとも袋に包むとか、何かしら見えないように持ち運ぶはず。だがそうしていなかった。ということは、あの場でジャバに手渡されたと考えるのが自然だ」
見れば見るほど腹の立つ見た目であったのが、今では嫌悪感を抱かせる謎の人物と化している。
「だが確信は持てない。推測を確定に変えるためにはもっと情報が必要だ。そしてその情報を持っているのはこいつだな」
雪斗の目線は頭応留美に向いていた。
「幸いにも接点はある。接触してみるか」
・・・・・
翌日、雪斗は頭応留美にメールを送った。
多忙なはずだったがあっさり雪斗の誘いを受けてくれ、その翌日の夜に食事をすることになった。
時代を席巻する勢いのIITT社の社長である頭応留美はおそらく自身でも幾らでも高級なレストランで食事は出来るであろうが、そもそも接待などで様々な高級料理を食しているはずであり、雪斗はどこで食事をするか迷っていた。
(まぁこの間彼女と偶然出くわした店は人気店ではあるけど高級店じゃないしな。だとしたら変に気負う必要はないのかもな‥‥)
雪斗はシンプルに美味しい料理を出す店で選定し頭応留美を招待した。
小さな箱のリーズナブルな値段だが味には定評があるおでん屋に連れて来たのだが、数名の客が酔っているのか大声で喋っており、会話が聞きづらい状態だった。
だが頭応留美は嬉しそうにおでんを食べ、安いお酒を飲んでいる。
「なんか申し訳ない。もっといい店あると思うんだけど、僕はこの店が大好きでして」
「そうなのね!でも私もとても気に入ってるわよ。こういうお店こそ美味しいご飯を出してくれるし、おかずだってしっかりと作ってくれるからね」
(ははは‥‥いきなりタメ口か‥‥)
「何か意外です」
「何が?」
「いや、もっと冷酷で頭脳キレキレで会話も理詰めな人かと想像していたので」
「どんだけデジタル人間だと思っているのよ!」
「あ、いやそういう意味では」
「どういう意味ぃ!」
「なんかすみません」
「フフフ。冗談よ。でもこういうお店が好きなのは本当。変に堅苦しかったり型式ばっていたりするのは正直苦手で。昔母が生きていた頃によく作ってくれたおでんやオムライスが大好きで、このお店その味に似てるのよね」
「そうでしたか」
「そう言えば聞こうと思っていたんだけど、この間仲本部長の執務室前で会って話した私が妹のために会社を辞めるって話に肯定的だったのは何故?」
「え?何故って言われても‥‥。普通はそうじゃないんですか?」
「正直私が辞める話をした時の周りの反応は2種類。ひとつは勿体無い!ってやつね。‥‥これって貴方も最初は同じ反応だったけど、貴方以外で同じ反応した人たちは理由を話しても勿体無いという反応で変わらなかったわ。むしろ否定する人が殆ど。そしてもうひとつは後任は誰ですか!ってやつ。結局皆金と名声なのね」
「人によりますよ。きっと頭応さんは仕事一筋で仲間を作る暇がなかったんだと思います。僕には家族はいませんが、大切な仲間がいます。仲間が家族みたいなものですね。僕の仲間はお金に興味はなくて、心の繋がりや一緒に困難を乗り越えるようなことに価値を置いていたりします。なので仮に僕が頭応さんのように社長で、会社を辞めるってなっても、 それで次は何をやるんだ?" て顔で見てくる感じです」
「羨ましいわ。そんな仲間がいるなんてね。会社にはいないし。大学時代の友人はいるけど結局それも私の会社で働いていて高給取りでいられるから続いている友人関係だと思うし。いえ、それはむしろ友人関係でも何でもないわね」
「例えば以前秘匿エリアで詰め寄って来た彼ですか?」
「え?あぁ、九寧のことね。そうね。彼もその1人。私が目を瞑っているのをいいことに好き放題やってて、先月も2人退職に追い込んでるし。でも能力はあるから無碍に辞めさせると困るし」
「でも頭応さん、辞めるんだからいいんじゃないですか」
「それもそうね」
「因みに他にも友人とは言い難い友人はいるんですか?」
「いるわ。貴方もしばらくしたら会うかもしれないから伝えておくと‥‥」
頭応留美は数名の大学時代の友人に名を挙げた。
いずれも頭応留美に集るハエのように友人であったことを理由に会社に要職に就かせてもらっているらしく、仕事はするが人としては壊れており、横暴が過ぎる者が多いらしい。
その中で、不破賀と有留の名も出て来た。
不破賀は元々IITT社創立メンバーであったらしく断定的な口調で威圧し相手を論破しないと気が済まない性格で、九寧とは違った形でよく後輩や部下を辞職に追い込むらしい。
一方有留は同じ大学で友人でもあったがミネルヴァース社に就職したため暫く接点はなかったのだが、今回の買収によって偶然にも同じ会社で働くことになったのだった。
「有留は大学時代の友人の中ではまともな方かな。ちゃんと会話出来るし。不破賀はダメね。あの断定口調とマウント取って部下や後輩を潰しちゃうから。はぁ‥‥やっぱり変よね。あんなの友人でも何でもないのに会社でそれなりの地位を与えちゃってて」
何でも話してくる頭応留美に雪斗は少し意外な一面を見ている気がした。
(こいつがあのズールーだなんて信じられないな‥‥普通に人で悩んでる人間じゃないか‥‥何故あんな冷徹な化け物になったんだ?)
ズールーと頭応留美が同一人物であるイメージが持てず雪斗は混乱していた。
(考えていてもしょうがない。本来の目的に戻ろう‥‥。瀬戸南とジャバの件に触れなければ‥‥)
雪斗は瀬戸南の情報を聞き出すため会話を誘導し始めた。
「でもIITT社には瀬戸南という大天才がいるじゃないですか。彼は金にがめついとか周囲に横暴な態度をとるようには思えない気がします。よく知らないのであくまで想像ですけど」
「‥‥‥そうね‥‥」
「?‥‥どうかしましたか?」
「え?あ、ううん、何でもない。瀬戸南くんね。彼は本当に天才だわ。お兄さんの呉人くんもかなりのIQだけど、南くんは別次元だわ。彼がいなければ意識を電脳世界へ送る技術が開発されるのはあと30年は必要だったと思う」
「それほどとは‥‥すごいですね」
「私と南くんは皇塾の卒業生なんだけど、意識を電脳世界へ転送する技術を開発できるのは南くんとスメラギ先生くらいだと思うよ。あんな理論、普通じゃ思いつかないから」
(スメラギさん〜〜!この会話であの人の名前聞くとか世界狭すぎるわ全く‥‥)
「そんなにですか‥‥僕には分からない世界ですね」
「フフフ。安心して?それが普通。私だって彼の理論の半分も理解できていないくらいだからね。いつも突飛なアイデアや新たなビジネス理論などが軽々しく彼の口から出てくるけど、論理を飛ばして説明するから幾つか質問して、打ち合わせ後にひとりで点を線にして面にする作業を推測交えてやって初めて8割の理解に辿り着ける感じね」
「面倒くさい‥‥」
「フフフ、ね!私の苦労、分かるでしょ?でも8割に辿り着いて彼と会話が噛み合った時の達成感は凄いの。そして改めて彼の理屈が如何に難解かつ画期的で夢のあるものに気づけるから、やめられなくなるのよね」
頭応留美は楽しそうに話している。
「ん?」
「あ、いや、瀬良南の話をしている頭応さん、とても楽しそうだなと思って」
「え?」
頭応留美は一瞬驚いたような表情を見せた後、少し悲しそうな顔になり無理やり作った笑みで答える。
「そっか‥‥そう見えるんだね‥‥」
「頭応さん‥‥」
「ちょっとやめてよ。なんか貴方と話をしていると心を見透かされているように感じるわ」
「そんなつもりは‥‥」
「フフフ、でもちょっと楽かも。皆私を利用しようとしたり取り入ろうとしたりで私自身と向き合う人なんていないから」
「こちらこそですよ。頭応さんと話をしているととても10歳以上年下には思えませんし」
「む。それって私が図々しくて馴れ馴れしいって言ってる?」
「いや、そういうわけでも‥‥ありますね」
「ぷっ!アハハハ!素直でよろしい!貴方やっぱり面白い人ね!」
「お褒めに預かり光栄です」
頭応留美は雪斗をえらく気に入ったようだった。
酒が入っているせいもあってか、上機嫌で雪斗とフランクな会話を楽しんでいる。
「ただ、一個だけつまらないとこがあるわね」
「どこですか?」
「その丁寧語。ここまで打ち解けたんだから丁寧語はもういらないでしょ?逆に距離感をもってしまうし」
「そうですか?」
「そうだよ」
「分かりました」
「本当に分かった?」
「ええ」
「分かったの?」
「うん‥‥分かったよ」
「よろしい」
頭応留美は満足げな表情を見せている。
雪斗は一瞬会話が途切れたのを見計らって核心に迫る。
「そういえばこの前、本部長の執務室前であった時、カバンの中に何かおっきな物入れてませんでしたか?」
「ん?‥‥あぁ、あれね。仲さんから預かったものなの」
「!!」
「ん?どうしかしたの?」
「あ、いや‥‥頭応さんの高級バッグに岩が入っていて違和感だったので‥‥」
「岩が違和感‥‥ダジャレか!」
「は?!」
「冗談よ、冗談。そうね、私もあれを見せられた時は “何で?!” って思ったわ。でも瀬良南に渡せば分かるって言われてね」
「!!」
(瀬良南に渡せば‥‥確定だ!‥‥ジャバはイヌトの存在を知っている!‥‥いやそれだけじゃない!瀬良南がサンバダンになり、目の前の頭応留美がスールーになるように仕向けた張本人だ!もっと言うなら、あのネツァクでのフォルティア・オドル連合とヴァニタスの戦いを仕組んだ可能性まである!)
「‥くん!‥‥じんくん!‥‥三神くん!」
「はっ!」
「はっ!‥じゃないわよ。人の話聞いてる?意識が何かに囚われている状態になってたわ。認知リソースの枯渇状態に陥ったか、感覚ゲーティングで私の声が遮断されたか。とにかくあの岩に何か過集中するほどの理由があるのね」
「え、あぁいや‥‥」
「動揺と正常な判断力の低下ね。三神くん。あの岩のこと知っているね?」
「‥‥‥‥」
「肯定の沈黙と受け取るわね。言いたくない、もしくは言えない理由があるということか。実はね‥あの岩‥‥気になったから成分分析にかけたの」
「!!」
「動揺したね。やはりあの岩が何か知っているね、君。もしかしてあの岩があったから私に近づいた?‥‥いえ、質問するだけ無駄ね。いいわ。心開ける相手だと思ったけどそうではなかったみたいね。ここからはお互いの目的を果たすために交渉している利害に基づいた関係ということになるわ」
雪斗は心の中で ”しまった” と思ったがすぐに冷静さを取り戻し、真剣な表情で頭応留美に話かけた。
「頭応さん」
「何?」
「妹さんのことは大事ですか?」
「はぁ?!何で妹が出てくるのよ!」
「いいから答えて下さい。これはおれがあんたを信用出来るかどうかの重要な質問だ」
「!‥‥脅しか何か?私にはそういうの通じないわ。いい?ここ日本は歪んだ法治国家であり、金があれば何でも融通がきく国なの。貴方が私を脅す意味はないの。分かる?」
「脅しでも威圧でも攻撃でもない。おれはあんたと心で会話したいだけだ。あんたが信頼出来る相手かどうかを見極めるためだ」
「!‥‥」
雪斗の真剣な眼差しに頭応留美は気圧された。
「分かったわよ。妹は何より大事な存在。私は妹の母親代わりなの。あの子のためなら何でも出来るわ」
「そうか。あとふたつ質問だ。あんた瀬良南に弱みか何かを握られているな?」
「!!」
頭応留美は目を見開いて雪斗の顔を見た。
「貴方‥‥どこまで知ってるの‥‥」
「質問に答えてくれ」
「ええ。握られているわ。いえ、正確に言うなら弱みというより厳しい条件を飲まされている状態ね」
「そうか。最後の質問だ。瀬良南‥‥あんたに厳しい条件を飲ませているのは瀬良南ではなく、もう一人の人格‥‥瀬良南だな?」
「!!!」
頭応留美は強張った今にも泣き出しそうな表情を見せた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
最近体調を崩し気味で中々アップできていませんでしたが今後は頻度を上げていきます。




