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<ハノキア踏査編> 79.信頼

79.信頼


 「ちょ、ちょっと待って!っていや、何で?!」

 「私の手作りの料理食べたいって言っていたでしょ?」

 「そ、そうだけど!」

 (やべ!このボード!剥がしたらバラバラになっちまう!隠すか!)

 「開けてくださ〜い。それとも開けられない理由でも〜?」

 「そ、そんなことあるわけないでしょう?」

 「敬語?怪しい‥」

 

 雪斗(スノウ)はボードが貼ってある部屋の引き戸を急いで閉めて恐る恐る玄関の扉を開けた。

 

 ガチャ‥‥


 「お邪魔します!」


 七瀬は臆することなく袋を持って部屋の中へと入ってきた。

 

 「へぇ!男の部屋って感じじゃないね」


 ドサ‥


 七瀬は食材の入った袋をテーブルの上に置くと雪斗(スノウ)の部屋を見回した。


 「あまりジロジロ見るもんじゃないよ?」

 「何これ?」

 「あ‥‥」


 雪斗(スノウ)が作ったゴミが一定量溜まったら自動で袋を結び、新しい袋を装填するカラクリ装置を見つけた七瀬が触ろうか触るまいかと迷いながら見ていた。


 「あぁ、それ、ゴミ箱だよ。一定量溜まると勝手に口を縛ってくれるやつだよ」

 「えぇ?!すごい!そんなの売ってるの?!」

 「あ、いや、作ったんだ。ゴミの量いちいち確認するの面倒だったから紐で縛られたら新しいのを入れ替えるカラクリでね」

 「凄い‥‥。こっちは?」

 「ああ、それは包丁研ぎだよ。包丁を置くだけで勝手に研いでくれる:

 「これも作ったとか?」

 「うん。いちいち手を動かすの面倒だし、研ぎ方にムラがでるのも好きじゃなくてね」

 「へぇ‥‥こっちは?」

 「それは‥‥」


 それから10分ほど雪斗(スノウ)が道具屋としての技術を活かして作ったいくつかの便利道具への関心が止まらない七瀬に雪斗(スノウ)ひとつひとつ説明した。

 

 「雪斗さんって何者?器用なだけじゃ作れないよ」

 「そうかな。YOUR TURNに動画とかあるんじゃないかな」

 「え?ほんと?」

 

 七瀬はスマホで動画サイトのYOUR TURNを開いて調べ始めた。


 「載ってないよ?やっぱり凄いよ雪斗さん!」

 「あはは‥‥ありがとう」


 雪斗(スノウ)はボードだけでなく隠すべきものが他にもないか苦笑いしながら頭の中で確認していた。


 「それでどんな手料理を作ってくれるのかな?」

 「え?ふふふ!内緒!」

 「内緒?ははは‥‥了解だよ!キッチン道具は一通りあるはずだから好きに使ってよいよ。それともおれも手伝おうか?」

 「いりません!ささ、そこに座ってて!」

 「お、おぉ、ありがとう」


 雪斗(スノウ)はソファに座らされた。

 それから2時間七瀬は何かを一生懸命作っていた。


 「はい、お待たせ!」

 「おぉ、お腹ぺこぺこだよ!‥‥?!」


 テーブルに並べられたのはサラダとカレーだった。


 (ま、まさか‥‥カ、カレー?!)

 「ふぅ‥さぁ食べよ!」


 七瀬はビールをコップに注ぎ料理が大変だったと言わんばかりにため息をついて雪斗(スノウ)に乾杯を促した。


 「はい、かんぱーい」

 「か、乾杯」

 (まさか‥‥これだけ時間かけてカレー?!相当なスパイスを織り交ぜて作った本格的なやつ‥‥なのか?)


 見た目は市販のルーで作ったカレーにしか見えなかった。


 「ささ!食べて!」

 「お、おぉ、ありがとう!」


 (料理は見た目じゃない‥‥かもな‥)

 「!!」


 雪斗(スノウ)は全身に電気が走ったような衝撃を受けた。


 (普通!!‥‥2時間かけて普通!!)


 「どう?美味しい?」

 「お、美味しいよ?」

 「む、何その反応!期待したほど美味しくないみたいじゃない」

 「そんなことないよ!美味しいよ!」

 (美味しく作れないほうが珍しいけど‥‥)

 「そっか、よかった!」


 雪斗(スノウ)は七瀬はあまり料理は得意ではないのだと理解した。


 (まぁ何でも完璧だと親近感湧かないからこういうところがあってもいいよな‥‥ふふふ)


 雪斗(スノウ)は七瀬を可愛いと思った。

 それからふたりは他愛のない話で笑いながら食事を続けた。


・・・・・

 

 「ふぅ!食べて飲んだね!」

 「ありがとうね。最近まともに自炊出来ていなかったから助かったよ」

 「でしょ?もっと褒めて!」

 「ありがとうね」

 「うふふ‥‥それでは‥‥恒例の‥‥お部屋チェェック!」

 「?!」


 七瀬は勢いよく立ち上がると寝室の引き戸を開けた。


 (あ!)

 「えっ?」

 

 七瀬は壁に貼られたボードを見て驚きの表情を見せた。


 「あ、いやぁちょっと今ファンタジー小説書いててさ‥‥。そのストーリーを整理していたんだよ‥‥小説書いていることは内緒だから黙っていてくれるかな‥‥」


 雪斗(スノウ)は咄嗟に出た言葉だが厳しい説明だと思った。


 「‥‥‥‥」


 しばしの沈黙が部屋に流れる。


 シィィィィィィン‥‥


 (やべぇ‥‥どう思われているんだ?‥‥)


 「凄い!」

 「へ?」

 「凄いよ雪斗さん!こんな年表みたいなの作るほど精巧に小説のストーリーを考えて書いているなんで!」

 「あ、あぁ、ありがとう‥‥」


 思いの外上手く説明ができていたのだとホッとした。


 「それでこのリリアラっていう登場人物に “X印” がついていて、 “救うて立て” って書いてあるのは?」

 「あ、あぁそれは‥‥」


 雪斗(スノウ)は勢いついでで事実をそのまま伝えることにした。

 七瀬は雪斗(スノウ)の小説のストーリーという前提でネツァクで起こったことの概要を真剣に聞いていた。


 「面白い!面白いね!今度読ませて!」

 「ははは‥‥ちゃんと読んでもらえるレベルになったら最初の読者は瑠璃ちゃんにするよ」

 「ふふふ!楽しみ!」

 

 七瀬はとても嬉しそうに笑った。


 「それで、再びマルクトって世界にやってきたスノウっていう主人公が樹に変えられてしまったリリアラを救うために何をすればよいか‥‥雪斗さんはそこで悩んでいたってことね」

 「まぁそうだね。でも詰んでいるんだ」

 「キーキャラクターはリリアラとズールーっていう敵とエルティエルっていう天使なのね」

 「そうだね」

 「ふ〜ん‥‥なるほどー」


 七瀬は腕を組んで考え始めた。


 「二つね」

 「何が?」

 「リリアラを救う方法だよ」

 「え?ふたつ?ふたつもあるの?」

 「うん。ひとつはこのスノウがベータテスターになってネツァク?に飛んでリリアラを救うパターン。でもネツァクに同時にふたりのスノウが存在するからその時どうなるかってのは分からないね。でも空人とっていうアバターに入っているんでしょ?だったら問題なさそうね。そしてふたつめは同じくベータテスターでネツァクに行って、リリアラに教えてあげるの。この最後の戦いの時に樹になってしまうから、最後の戦いには参加しないか、参加しても絶対に緑の天使に近づかないことってね」

 「‥‥‥‥」

 (確かに‥‥いや、ベータテストが行われるのは確か9年後か10年後だぞ‥‥それまでここにいることになるって‥‥そんなことをしていたらオルダマトラやイヌト、グレイアンたちが何をしでかすか分からない‥‥一刻も早く仲間と合流して次の世界に行かなければならないのに‥‥)

 「変かな‥私の案。いい案だと思ったんだけどなぁ」

 「いや、いい案だと思うよ。でもマルクトに来たスノウがベータテストに参加できるとすると10年後になってしまうんだよ。流石にスノウはそこまで待てないかな‥‥」

 「だったら早めちゃたらいいんじゃない?」

 「?」

 「ベータテストの前にアルファテストやるんでしょ?それに参加しちゃえば!」

 「いや、流石にそれは‥‥しかもそれでも遅いかも」

 「だったらもっと前の試作機をこっそり使っちゃうとか。一回使っているんだらか使い方分かるでしょ?」

 「分かるかもしれないけど‥‥」

 「ああ!もう煮え切らないね!好きな女性を救うためなら何だってするのが真の男ってものだと思うよ!魔法とか力とかなくてもね!」

 「!」


 雪斗(スノウ)は頭に電撃が走った感覚になった。

 

 (確かに‥‥おれはどこかで失われた力や魔法のせいにして行動を起こすのを躊躇していた気がする。リリアラはスノウであったおれのような力はないのに、魔法力だってないのに、何度もおれを救おうとした。リリアラだけじゃない。仲間もそうだし、これまで出会った多くの人たちが皆、自分の力や能力なんて関係なくおれを助けてくれた)


 「瑠璃ちゃんの言う通りだ。やってやれないことはないね。とりわけ好きな女のためなら、スノウはきっと躊躇することなくネツァクへ飛んでリリアラを助けるはずだね」

 「雪斗さん‥‥そうだよ!だってスノウは強いんでしょ?」

 「強い?」

 「うん。いろんな修羅場、苦しい場面を絶対に乗り越える精神を持っているんでしょ?だからこそ皆スノウを慕って信頼してついてきてくれているんだよね」

 「‥‥そうだね」


 雪斗(スノウ)は改めて仲間を思い出し、彼らが自分を信頼してくれていた理由について考えた。


 (決して能力や力、魔法に秀でていたから信頼してくれたわけじゃない。おれという存在そのものに信頼を置いてくれていたんだ)


 雪斗(スノウ)は霧がかった視界が晴れた気がした。


 「ありがとう瑠璃ちゃん。やっぱり瑠璃ちゃんは凄いね」

 「えへへ、そう?やっぱり?」

 「ああ」

 (料理以外はね)


 雪斗(スノウ)はマルクトへ来て始めて心からの笑顔を見せることができた。



いつも読んで頂きありがとうございます。

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