<ハノキア踏査編> 77.思わぬ再会
77.思わぬ再会
雪斗は七瀬とふたりでお洒落なカフェにいた。
七瀬の誘いもあって休日のデートでやってきたのだ。
都内でも行列が出来るカフェで、ランチを食べようとすると1時間は待たされるお店らしいのだが、七瀬の友人がこのカフェで働いているらしく上手く融通してくれたのだ。
だが、相変わらず雪斗はこの状況に慣れずそわそわしていた。
自分がアラフォーであり、相手の七瀬は27歳という歳の差が周囲からどう見られるのかが気になって仕方がなかったのだ。
雪斗がスノウであったならこのようなことを気にすることはなかっただろう。
そわそわがぞわぞわに変わってきたため、雪斗はカフェに置いてある雑誌に目を通し気を紛らわせることにしたのだが、そんな姿を七瀬は微笑ましく見ていた。
(この雑誌にも記事が‥‥会社も否定しないし一体どうなんてんだよ‥‥)
雪斗が目にした内容はミネルヴァース社がIITT社を買収するという記事だった。
そこにはIITT社について深ぼる内容が掲載されていた。
(頭応 留美社長、ミネルヴァース社への売却に意欲的‥‥か。あれ、るみってこんな漢字だったか。瑠美かと思っていた。しかし頭いいんだな、こいつ。皇塾の卒業生の中でもトップクラスか‥‥そして共同研究しているのが瀬良 南‥‥あ、そっか。こいつ瀬良って名字だったっけ。山波だと思ってたが、確か母方の姓を名乗ったんだった。こいつはさらに天才か。皇塾史上最年少でかつ最短で主席卒業って‥‥。こんな優秀な弟を持って兄の呉人がグレないのが不思議だよな‥‥おれには兄弟なんていないからよく分からないが‥‥まぁ、呉人は呉人で優秀だったからな)
記事を読んでいると後ろの客の会話が聞こえてきた。
どうやら姉妹でカフェに来ているらしく、姉は30手前で妹はまだ中学生か小学生のようだった。
「お姉ちゃん、佳奈美これがいい!」
「いいよ。他には?今日は何を頼んでもいい日だからさ」
「ありがとう!じゃぁ‥‥このケーキとこのパフェも!」
「フフフ‥‥そんなに食べられるかな?」
「大丈夫だよ!佳奈美フードファイター目指しているから!」
「ダメよ佳奈美。暴飲暴食は寿命を縮めるから。特に外食は食べるものを選ばないとダメ。塩分が高いとそれだけで寿命が縮むわ。ケーキやパフェみたいに糖分が多いのもダメよ?それにトランス脂肪酸が多く含まれる揚げ物やファストフード系もダメ。かといってお菓子もダメよ?添加物や保存料みたいなものは細胞を劣化させて最悪破壊してしまうの」
「お姉ちゃん、難しい話になってるよ!」
「あ、ごめんごめん。ついいつもの癖が出てしまったね。でもお姉ちゃん、佳奈美のことが大切だから心配なの。佳奈美には元気に健康に育って幸せになって欲しいんだから」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
仲の良い歳の離れた姉妹のほのぼのとした会話に思えたが、雪斗は目を見開いて聞き耳を立てていた。
「七瀬さん、ちょっとトイレ行ってくるね」
「う、うん‥」
そう言うと雪斗はゆっくりと立ち上がり、トイレの方向へと歩き出すが、視線は背後に座っている姉妹に向けられていた。
姉の方は美しい女性で高級な服を煩くなくさりげなく着こなしているセンスを持っており、洗練された女性という雰囲気だった。
特にその目は見たものをすぐに把握して理解しようとする好奇心に溢れた感じであった。
だが雪斗が気になっていたのは妹の方だった。
「!」
雪斗は通り過ぎる瞬間に妹の顔を見て目を見開いて驚きの表情を見せた。
そしてすぐに姉の方に視線を向けた。
(妹‥‥頭応 佳奈美だ!まだ幼いが顔ははっきりと覚えている!そして佳奈美がお姉ちゃんと呼んでいる相手!)
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥
(頭応 留美!‥‥将来ズールーとしてネツァクでリリアラを樹に変えてしまう女だ!)
雪斗は全身が急激に熱くなるのを感じた。
アドレナリンが分泌され、怒りで血が沸るような感覚となっていたのだ。
もし魔法が使えたなら凄まじい魔力が漏れ出し、リゾーマタのクラス5魔法を発動していたかもしれないほどの怒りだった。
「雪斗さん」
ギュ‥
「!!」
七瀬が突然雪斗の腕を掴んで強引に引っ張って席に座らせた。
「トイレ行く前に私の食べたいものオーダーしてもいい?少しお腹空いちゃった。一緒に選んで?」
七瀬は不安そうな表情を必死に押し隠しながら無理に作った笑顔で言った。
どうやら雪斗が恐ろしい表情を浮かべていたことから咄嗟に動いたらしい。
雪斗は七瀬の優しさに我に返り、怯えを隠しきれない表情の七瀬の手を握った。
「ごめんね‥‥何でも好きなもの頼んでいいよ。いつも助けてくれているお礼だから」
雪斗は七瀬を怯えさせてしまった後悔の表情を浮かべて言った。
「ありがとう雪斗さん」
「いいんだよ七瀬さん。こっちこそごめんね」
雪斗は先ほどの怖い形相で頭応姉妹を凝視して七瀬を怖がらせたことに対する謝罪した。
「許さん!」
「え?」
「そこまで怒ってないけど、ちょっとびっくりしちゃった」
「ご、ごめん‥‥」
「あ、じゃぁこれからは苗字じゃなく名前で呼んでくれたら許してあげる」
「名前?」
「瑠璃って」
「!」
雪斗は何故か急に頬を赤らめた。
「あ、いや、そう言われましても‥‥」
「あ、いや無理にってわけじゃなくて‥‥でも名前で呼んでくれたら嬉しいというか‥‥」
七瀬も頬を赤らめた。
「わ、分かったよ‥‥えっと瑠璃‥‥さん」
「さん付けだとなんかよそよそしい‥‥かな」
「じゃ、じゃぁ瑠璃‥ちゃん」
「ちゃん?!」
「ごめん、これが限界かも」
「呼び方?それともトイレ?」
「え?あぁ、両方」
「ぷっ!あはは、じゃぁ行ってよし!」
「あはは‥‥許可が出て良かった。行ってくるね」
雪斗は再び席を立ち頭応姉妹の横を通り過ぎ頭応留美の顔を見た。
彼女の雪斗に視線を向ける。
頭応留美の方は何事も無かったかのように視線を妹の佳奈美へ戻した。
雪斗も平然と視線を前方へ戻しトイレへ向かった。
(顔は怯えたぞ)
ヴーン‥‥ヴーン‥‥
突如バイブ音が鳴った。
どうやら頭応留美の携帯に着信があったようだ。
頭応留美は誰からの電話かを確かめた瞬間、表情を一変させた。
「佳奈美、自分でオーダー出来る?お姉ちゃん、ちょっと急用で電話してくるから」
「うん、大丈夫だよ」
頭応留美は笑顔を見せると焦ったように店を出た。
雪斗も店内をぐるっと回り七瀬が携帯に集中しているのを確認すると彼女にバレないように店を出た。
そして頭応留美の会話している場所の近くの彼女に見えないような位置に立ち、聞き耳を立てた。
「いえ、そのようなことは‥‥はい‥‥勿論です。計画に遅れはありません。‥‥‥‥はい‥‥‥はい、その件につきましては、あともう少しだけお時間を頂けると。それまでには整えておきます‥‥‥はい‥‥」
(誰と話をしているんだ?)
「はい‥‥ヒト細胞による配管の生成はほぼ終わっておりますので、適合テストが終わればいつでも‥‥既に適合テストは進んでおりますので1週間もあれば結果は出ます‥‥‥いえ、決してそのようなことはございません‥‥‥」
(ヒト細胞‥‥配管の生成‥‥適合テスト‥‥?)
「はい、私はダン様に忠誠を誓っております。承知致しました。はい‥‥‥失礼致します」
頭応留美は電話を終えたのかカフェへと戻って行った。
壁を挟んだ裏側では雪斗が何かの核心を得たように目を見開いて一点を見つめていた。
(今確かに頭応留美はダンと言った。やはりこの時点でサンバダンと繋がっていたか。もうひとつの人格である南。南を生かし幸せにすることに全精力を注いでいる別人格‥‥。整理が必要だ。いつ何時奴らに対し攻撃を加えられる状態にしておかねばならない)
雪斗は一旦裏口のルートからカフェの中へと入り席へ戻って行った。
「七瀬さん、お待たせ」
「むぅ‥‥」
何故か七瀬は不満そうな表情になった。
雪斗は理由が分からなかったが、七瀬の口パクを読唇してその理由を理解した。
「瑠璃ちゃん、お待たせ」
「よし、許す」
「ははは‥‥」
尻に敷かれいる感覚ではなく、あくまで雪斗を元気づけようと明るく振る舞っているのが感じられ雪斗は七瀬を愛おしいと思った。
だが直ぐに背後の会話に意識が持っていかれた。
「お姉ちゃん、電話誰から?」
「あぁ、会社の人よ」
「ふーん。あのナヨナヨした子?確か瀬良南。超天才の」
「ええ、そうよ。あの人は本当に凄いわ。お姉ちゃんの思い付かない発想がどんどん出てくるし、戦略も凄いし、何よりカリスマ性を持っているから」
「ああ、お姉ちゃんが言ってるのは瀬良南の双子のもう片方の子ね。私、あの子好きじゃないな‥‥そう言えば名前なんだっけ?」
「え?あぁ、もうこの話はやめましょう。あら、丁度いい時にスイーツ来たわよ」
「おお!凄!」
頭応姉妹のテーブルに注文したものが運ばれて来たため、話が中断されてしまった。
雪斗は姉妹の会話を頭の中で整理した。
(双子?以前ネツァクからマルクトに来た際に会っていた佳奈美は瀬良南を双子とは言っていなかった。もしかして姉の留美が瀬良南の二重人格を隠すために双子と表現したのかもしれない。さっき佳奈美が嫌いと言ったのは南の方だな。留美が電話で話していた相手は、留美が敬語を使っていたことから察するに南で間違いないだろう‥‥。そして会話の内容としても既にミネルデバイスのプロトタイプとネイツァーク・ウォリアーズは完成しつつあるのかも知れない‥‥これはのんびりしていられないぞ‥‥)
「雪斗さんどうしたの?」
「あ、いや、ちょっと仕事のことで考え事してしまって‥‥でももう大丈夫だよ。頭の中が少し整理出来たから」
「そっか。じゃぁ今日は映画に行きましょう!見たい映画があるので!」
「お、おぉ、了解!行こう!」
(映画なんて見たのいつぶりだろう‥‥)
雪斗は自分が日本にいることを改めて実感した。
その日、雪斗は七瀬との時間を精一杯楽しむことにした。
それが自分を大切に想ってくれている七瀬への礼儀であり、自分にとっての幸せでもあると想ったからだった。
(ありがとう瑠璃ちゃん)
マルクトへ越界してきて以来最も心安らぐ時間だった。
いつも読んで頂きありがとうございます。




