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<ハノキア踏査編> 75.桑田向ユカイ

75.桑田向ユカイ


 朝から出目金が張り切っている。

 久しぶりに部下の前で発言する機会を得たためであった。

 その理由は、正式にミネルデバイスのプロジェクト、通称 "次世代技術VRゴーグル開発プロジェクト" がスタートするのに合わせ、その展開会議がセットされ、冒頭出目金が挨拶することになっているためだ。

 出目金自体はプロジェクト組織には参画しておらず、単に雪斗(スノウ)の上司であると言うだけで挨拶の場を強引にセットさせたのだが、勿論内容など理解できているはずもなく、具体的な内容は全て雪斗(スノウ)が説明することになっており、出目金は体制図を説明するだけだった。

 少し広めの会議室に50名ほどが集められており、前方のスクリーンには本プロジェクトの内容が書かれたプレゼン資料が投影されている。

 勿論雪斗(スノウ)が作成したもので、昨日までジャバと出目金がネチネチとどうでもいい一言一句に難癖をつけてくれた資料だ。

 因みにネチネチ攻撃は明け方近くまで行われた。


 「えー、みなさんおはよう!」


 出目金の初っ端の挨拶に、ボソボソの疎な返事が返ってきた。


 「いやぁみんなちょっと元気がないぞ?そんな事ではこれからのブーカの時代、サバイブ出来ないぞ?いいかな?私のようにだねぇ、MBAをサーティフィケートされ、トレンドの変化に乗り、最先端を取り入れられている者になりたければ、私にダイレクションを仰ぎなさい。そうすれば必ず、必ずみなさんのイシューがソルヴするはずなのだよ」


 (何の話だよ‥‥)

 (おいおい、誰がお前に相談するんだっつーの)

 (あぁ、この話何分続くのかな‥‥)

 (センスのない間違った横文字の羅列‥‥キモ)

 (相変わらず目が飛び出そうで怖いわ‥‥)

 (無能のゴマスリが‥‥黙っとけやホンマ)

 (寝たら左遷されるんだろうな‥‥)

 (気持ち悪い顔‥‥朝から気分が悪いわ‥)


 様々な心の声が飛び交っているが当然出目金には届くはずもなく、本編とは全く関係のない話が5分以上続いた。


 「であるわけでして、そう言うアンクリアなデマンドにフレキシブルに対応しマスカスマイズされたサービスをデリバーするUIとして我が社は大きなインベストメントにより新たなプロダクトとサービスを打ち出す!そのプロジェクトが、"次世代技術VRゴーグル開発プロジェクト" なのだ!」


 既に皆概要は知っている件だが、それ以下の情報しか出てきていないため、皆ウンザリした表情を浮かべていた。

 しかもその話し方が不快感を何倍にも増長させるため、皆嫌悪感を通り越して怒りさえ覚えていた。

 その後、出目金は雪斗(スノウ)にマイクを放り投げ満足げにはけた。

 マイクを持った雪斗(スノウ)は資料を投影せずに具体を説明し始めた。

 ネチネチと明け方まで詰められた資料を敢えて使わないことでジャバと出目金に対する当てつけの対応だった。


 「‥‥と言うわけで、非常に大きなプロジェクトです。ですがみなさんのお力を借りなければ絶対に成功しないプロジェクトです。社運を賭けた一大プロジェクトでもありますから、本プロジェクトに関わる事で社内の様々な部署や外部の企業との連携の場も沢山あり、皆さんにとって大きな成長にも繋がると思っています。うちの部から参画頂く場合は、仮想空間の世界観を作り上げ、ユーザーが没入出来る様々イベントをリアリティを持って提供する企画チーム、またはマーケ畑一本槍的な人にとっても活躍の場はあって、様々な戦略を立案し市場にどう登場させるかなどの構想を作り上げるチームがあります。是非我こそは!と言う方は是非メールかメッセージでご連絡下さい!」


 皆、雪斗(スノウ)の説明を期待感を寄せる表情で聞いていた。


 ドォン!


 突然会場の扉が勢いよく開いた。

 その瞬間、会場全体が凍りつくような感覚に襲われた。

 入ってきたのは本部長であり本プロジェクトのオーナーを務める仲 鬼使密(なか きしみつ)だった。

 全員俯いて目を合わせないようにしている。

 目を合わせた瞬間、男性ならパワハラ、女性ならセクハラを受ける可能性があり、それに反抗すると人事に影響する最悪の人物だからだ。

 その見た目はスペースウォーズの化け物のような見た目の異星人であるジャバにそっくりで雪斗(スノウ)はジャバと呼んでいる。


 ガシッ!


 ジャバは雪斗(スノウ)からマイクを強引に奪い取ると勝手に話し始めた。


 「あぁ、今コイツが勝手にメンバーを募集したようだが‥‥無効だ!こんなやつに決める権限もなけりゃぁ募集する権限すらない。全て俺が決める。人事権は全て俺にあるわけだからな。女性については面接を受けてもらう。勿論全員だ。俺が面接し俺が決める。先程部長から話があった組織体制に加えて新たな役割を追加する。主にオーナーである俺の秘書として()()()()()してもらう女性を5名追加するものだ。他の箱にアサインされるべき男は俺が直接選んで後日連絡する。以上だ」


 ボドン! 

 ザッザッザッ‥‥バァン!


 ザワザワ‥‥


 ジャバは大きな声で言い放つとその場にマイクを放り投げ、勢いよく扉を開けて出て行った。

 その直後会場は一気にざわつき始めた。


 「強制面接?それってやばくない?!」

 「絶対セクハラするよ」

 「俺絶対プロジェクトメンバーにはならない。奴に目をつけられたら終わりだし」

 「マジでキモいよ‥‥どうしよう‥‥」

 「転職しよ!もうそれしかないって!」


 方々で落胆の声があがっている。


 「おい!静かにしろ!」


 出目金が前に出てマイクを拾って大声で制し始めた。


 「本部長の仰ったことに反論する奴はこの私が報告する!今すぐに静かにしろ!」


 会場は一瞬で静かになった。

 言うことを聞いたと勘違いした出目金はご満悦な表情で話し始めた。


 「ハッハッハ!素直で宜しい!そうやって皆私の言葉に忠実に従えば全て上手くいくのだよ!これからも私の指示に忠実にいることだ!それでは解散!」


 とんでもないプロジェクト展開会議となった。

 雪斗(スノウ)に話しかける者はおらず、皆危に近寄らずといった様子で雪斗(スノウ)に冷たい視線を送って会場から出て行った。

 会場にひとり残り後片付けをしていた。

 

 (全く。ジャバはマジでクソやろうだな!)


 雪斗(スノウ)は込み上げる怒りで持っている椅子を思い切り放り投げたい気持ちを抑えるので必死だった。

 

 (理解出来ないぞマジで!何であんな発言をするんだ?これじゃメンバー集めはほぼ壊滅状態でプロジェクトも進められないじゃないか!)


 ガァン!


 雪斗(スノウ)は椅子を蹴り飛ばしてしまった。

 

 「チッ!」


 蹴り飛ばした勢いでパンツの裾が破れ足に裂傷が出来てしまった。

 思わずスノウであった状態の勢いで蹴ったのだが身体能力が全く異なるため簡単に傷ついてしまったのだ。


 「クソ!」


 ズン!


 スノウは椅子に疲れたように座った。


 「どうかしましたか?」

 

 突然背後から声をかけてきた者がいた。

 小柄で細身の30歳くらいに見える男性だった。

 この場にいるということはミネルヴァース社の社員であることは間違いないのだが、雪斗(スノウ)には見覚えがなかった。


 「あ、すまない‥‥物覚えが悪くて君の名前が‥‥」

 「いえいえいいんですよ。先月入社したばかりですし知らないのも無理はないですよ」

 「そうなんだね。驚かせてしまったかな」

 「そうですね。少し驚きましたよ。他の社員から三神さんは空気みたいな存在感がない人で何を言われても死んだような顔で断らないって聞いていましたから。いつも面倒なお願いを押し付けられるカモだとも言ってました」

 「ははは‥‥」

 (随分とズケズケと傷つくようなことを言う奴だな)

 「それで何か用かい?」

 「いえ。本部長が入ってくるまでこのプロジェクトに参加したいと思っていたんですけど、あの通り本部長が選ぶと言ったので選ばれたら協力しますって言いに来ただけです」

 「そっか、ありがとう。その気持ちだけでも嬉しいよ」

 「まぁ、先程の状況ですと選ばれても皆協力しないでしょうけどね。それじゃぁ僕はこれで」


 スタスタ‥


 「あ‥私の名前、桑田向(クワタム) ユカイです。私の両親が愉快なことを好きになりようにということでユカイと名付けられたのですが、その思いが伝わったのか愉快なことが大好きなのです。先程の雰囲気も愉快でしたね。以後お見知り置きを」

 「クワタム君‥‥よろしく」

 (何なんだ?変な奴だな‥‥)


 桑田向(クワタム)と名乗った男は会場から出て行った。

 それから1時間ほどかけて会場の後片付けを終わらせた雪斗(スノウ)は通常業務に戻り、今後プロジェクトをどのように回していくか検討することにした。

 雪斗(スノウ)としてはプロジェクトを成功させることはリリアラの樹化を避けることに繋がると思っており、本来なら今回のジャバの暴挙は好都合なのだが、雪斗(スノウ)がネツァクで体験した状況はジャバがプロジェクトオーナーではあったが結局山波南と頭応瑠美によってミネルデバイスとミネルヴァース・ファンタジオンを完成させてしまう状況があった。

 

 (計画を確実に潰すためには計画を完全に把握し阻止しなければならない。さらに計画が上手くいかなければおれ自身が外されてしまうリスクもある。そうなったらリリアラの樹化は止められない。何とか成功を装って途中で完璧に頓挫させる必要がある。そしてイカれたサンバダンが誕生する前に奴を葬る‥‥)


 「どうかしましたか?」

 「ん?あぁ、君は桑田向くん。プロジェクトをどうすれば成功に導けるかを考えていたんだよ」

 「そうですか。精々悩むといいですよ」

 「え?」

 「あ‥また出てしまった。私は思ったことを口にしてしまう癖とその物言いが失礼、無礼な形になってしまう癖があるのです。それでだいぶ損をしまして。皆私を避けるんですよ。避けられるべき価値のない者たちから何故か私が避けられる不遇を日々嘆いているわけです」

 「癖、治そうと思わないのかい?」

 「思いますよ。ですが治せないから癖なんでしょ?分かりますか?具体方法も知らずに無責任にそのようなことを言える神経を疑いますね」

 「‥‥‥‥」

 「あ‥‥またやってしまいました。くだらない質問に無理して答えようとする者ではありませんね、三神さんは。でも無視はいけませんよ。無視は答える知能がないと同義ですから。無知者と思われたければ私は一向に構いませんが」

 (こいつ一体何を言ってるんだ?)

 「あの、すまないが、今少し外してくれるかな」

 「何故ですか?私、三神さんを気遣っているつもりですよ?」

 「‥‥‥‥」

 (こいつ正真正銘やばいやつか‥‥)

 

 スノウはウンザリした表情になったが桑田向には見せずに笑顔で話し始めた。


 「本来なら何か手伝って貰いたいところなんだけど、今はじっくりひとりで考えて整理したいんだ。なるべく静かな環境が有り難くてね」

 「なるほど。私はお邪魔ということですか。そういうことなら外します」


 桑田向は無表情のまま去って行った。


 (何なんだあいつは)


・・・・・


 翌日も雪斗(スノウ)が悩んでいると桑田向がやって来て人の心を抉るような表現の言葉を放り込んできた。

 そのため雪斗(スノウ)は態々会議室をとってこもるハメになった。

 だが、そこにもズケズケと入って来て話しかけて来た。

 仕方なく取引先訪問という形にして社外で仕事をすることにした。


 さらにその翌日も、翌々日も桑田向の図々しい態度に悩まされ続けた。

 他の社員たちは雪斗(スノウ)に言いよる桑田向を嫌がってか、陰でコソコソと会話して近づかなくなっていた。

 あまりに執拗に桑田向が話しかけてくるので仕方なく雪斗(スノウ)は在宅勤務にした。

 最近は夜遅くまで仕事をしているため、七瀬とまともに会うことが出来ていない。

 それどころかメッセージもまともに返せていない状況だった。

 そんな折、八田野からメッセージが届いた。


 "三神さん、明日そちらに出社予定なので一緒に昼でもどうですか?"


 「八田野くんか。いい気晴らしになりそうだ」


 雪斗(スノウ)は "OK!" と返した。


・・・・・


 翌日。

 朝から執拗に桑田向に話しかけられた上、女子社員数名から会議室に呼び出されジャバの設定した面接でセクハラ紛いの行為を受けたとしてどうにかしてほしいと中々苦情のような依頼が来た。

 さらにジャバから直接呼び出され、プロジェクトスケジュールが完成したかどうかの問い詰めがあり、2時間びっしり説教という名のパワハラ暴言タイムが続いた。

 ジャバはプロジェクトを一旦進められない状態にしてその責任を雪斗(スノウ)に押し付けて左遷又は解雇させるつもりのようだった。

 

 (本当にクソ野郎だな‥‥。とっとと左遷でもすりゃぁいいのにしないのはこうして虐めまくりたいってことか)


 「三神さん」

 「お」


 ジャバの虐め説教が終わり自席でぐったりしているところに八田野が来た。


 「行けますか?」

 「ああ、大丈夫だよ」


 ふたりは外で昼食をとることにした。

 八田野が声をかけてきた理由はミネルヴァース社本社に来る用事があったのもあるが、七瀬から相談を受けてのことだったらしい。

 最近反応が薄く、多忙を極めている雪斗(スノウ)を心配して八田野に確認するよう連絡があったらしいのだ。


 「七瀬さんは優しいな」

 「ちゃんと付き合ってやって下さいよ?あいつ本当に三神さんに惚れちゃってんですから」

 「いや、それは彼女とちゃんと話して‥」

 「分かってますけど、自分に合う女性なんてそうそういないと思いますよ?僕は有美と別れて本当に気づきました。見た目とか条件とかそういうもので浮かれていた自分に気づいたんですよ。そういう条件的なもので付き合うイコール相手もそう見ているってことにもね。だから目を瞑って相手と会話して本当に幸せだって思える女性にしようと思ったんです。三神さんには七瀬が合ってると思うんすけどね」

 「ありがとう。確かにそうだな。ちゃんと向き合えるようにしっかりと今の困りごとを解決出来るよう頑張るよ」

 「困りごと?何ですかそれは?」

 「あ、いや‥‥」


 雪斗(スノウ)はレヴルストラのことは言えないため、何と答えれば良いのか一瞬悩んだが、桑田向のことについてが頭に浮かんだのでその件を話した。


 「へぇ‥そんな奴がいるんですか。中途入社だから僕が知らないのか。戻ったらそんなやつか教えて下さい」

 「ああ。本当にやばいやつだから君は関わらない方がいいよ」

 「分かってますけど、一応どんなやつか見ておかないとってことですよ」


 ふたりはオフィスに戻った。

 しばらくすると雪斗(スノウ)のところに桑田向がやって来ていつものように心を抉る言葉を投げかけて来た。

 雪斗(スノウ)はスマホで八田野にチャットを送った。


 "こいつだよこいつ!"

 "どいつですか?"


 少し離れた場所から雪斗(スノウ)の周囲を見ている八田野がチャットを返して来たのだが八田野は桑田向を見つけられていないようだった。


 "おれの真横でおれに話しかけているやつだよ"

 "どこですか?バッチリ三神さん見えてますけどそんな奴いませんよ?"


 (どこ見てんだよ八田野くんは!)


 雪斗(スノウ)は八田野に分かりやすいように桑田向の発言に言い返した。


 「桑田向くん。少しひとりにしてくれないか?正直そうやって話しかけられると仕事が手につかないんだ」


 ブブ‥‥


 八田野からチャットの返信が来た。


 "三神さん。一体何独り言言ってるんですか?"


 「?!」


 雪斗(スノウ)はチャットを見た後、ゆっくりと桑田向の顔を見た。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥


 (まさか‥‥周囲にはこいつが見えていないのか!!)


 雪斗(スノウ)は警戒した。



いつも読んで頂き本当にありがとうございます

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