<ハノキア踏査編> 73.大賢者と賢者
73.大賢者と賢者
混乱し頭が真っ白になって数秒後、我に返ったように頭を左右に振った。
(27歳とかありえねぇだろ‥‥)
スノウは全身から汗が噴き出るのを感じた。
八田野から来たメッセージに驚きを隠せない内容が書かれていたからだ。
"お疲れ様です!女性を紹介したいと思います!相手は27歳で三神さんよりもちょっと若いですが、素敵な女性なので是非会ってみて下さい。段取りは全て僕の方でやりますので、何も必要ありませんからね。話を聞いてくださったお礼です"
「何のお礼だよ‥‥」
雪斗はうんざりしつつもどこか期待していた。
・・・・・
ーーその週の休日ーー
今日は八田野が女性を紹介してくれる日だ。
雪斗は自分の服のセンスがどうなのか分からず、取り敢えず無難な色合いの服を選んで着て家を出た。
(参ったな‥‥紹介とか何を話せばいいんだ?はぁ‥‥憂鬱だ‥‥)
意識に入って来ない外の景色に目線を向けながらバスに揺られて10分ほど経過した。
(あ!ここだ!)
乗り慣れていないバスに危うく乗り過ごすところだったが、ギリギリで気付き何とか降りることが出来た。
「ふぅ」
(飛べたら楽なんだが、やっぱりこの世界はおれがみるべき場所じゃないなぁ)
雪斗はスマホの地図を見た。
(これ以前は便利だと思っていたけど、羊皮紙の地図の方が分かりやすいな。慣れたせいもあるけど、正確に細かく記されるより分かりやすく記されている方がいい)
「あれ?この辺だよな‥‥」
(これはスマホの地図アプリのせいじゃなくそもそもこの街並みが複雑すぎんだな‥‥)
スノウは障害物のように立ち並ぶビル群に嫌悪感を抱いた。
「ここだ」
雪斗は店の中へと入った。
「三神さん!」
入るなり八田野が立ち上がって笑顔で自分を呼んだ。
店内のほぼ全員が雪斗に視線を向けた。
(恥ずいだろ!)
雪斗は顔を隠し気味に早足で歩いて八田野のいるテーブルへと向かった。
「さ、ここに座ってください」
「お、おお」
スノウは苛立ちを抑えつつ椅子に座る。
(まだ来てない感じか)
「てかこんな場所で大声で名前呼ぶとかどうかしてるぞ八田野くん!」
雪斗は小声で言った。
「どんだけ恥ずかしがり屋ですか三神さん。と言うかちょっと遅刻ですよ?女性を待たせるって減点ですからね」
「まだ来てないからセーフだろ?」
「来てますよ。初めまして」
「えっ?」
突如雪斗の背後から女性の声が聞こえて思わず振り向いた。
そこにいたのは八田野の言っていた通り、若い女性で27歳と言われればそう見える容姿だった。
何より雪斗が驚いたのはその美形で誰がどう見ても男性に困ることが想像できないほどの女性だった。
「初めまして三神さん」
そう言いながら女性は席を立ち雪斗と同じテーブルに移動した。
「私は七瀬 瑠璃です。入って早々テーブルで女性が待っていると少し戸惑ってしまうかなと思って、別の席に座っていたんです。驚かせてしまってすみません」
「あ、いや、大丈夫だけど‥‥ちょっとごめん。八田野くんちょっと」
雪斗は八田野の首根っこを掴んで店の外へと連れ出した。
「ちょっとどうしたんですか?!」
「どうしたもこうしたもないだろ?!誰だよ彼女!」
「自己紹介あったでしょ?七瀬瑠璃ですよ。僕の大学時代の同級生で今はコンサルに勤めてます、ってそういうの三神さんから彼女に聞くやつですよね?僕に説明させてどうするんですか?」
「そういう意味じゃないって。何であんな綺麗な子がおれに会いに来たんだよ!おれのことちゃんと伝えたんだろうな?40だぞ40!13歳差だぞ」
「伝えてますよ。伝えた上で来てくれているんですから。何なら三神さんの写真だって既に見せてますし」
「はぁ?!」
雪斗は徐々に腹が立って来たことに気づいた。
「おかしいよな?何かおれの情報盛ってんだろ?年収めちゃ高いとか!」
「そんなことするわけないでしょ!それに今どきウチの会社の給与水準なんてネットで調べたらざっくり出て来ますって。しかもマネージャーだとも言ってあるし。それに彼女は別にお金に困っているとかないんで、相手に経済力なんて求めてないですよ」
「お前殺しますよ?」
「何フリーザーみたいな言い方してるんですか!もういいでしょ?ささ、早く戻りますよ!大体あのジャバに一泡吹かせた人が何をビビってんですか!」
八田野は雪斗を押しながら再び見せの中へと入っていった。
雪斗の渋々中へと押し込まれてみたのの、七瀬瑠璃とどう話せばよいのか分からないため、憂鬱度がMAXになっていた。
ふたたび席についた雪斗は目を逸らしていたが、ゆっくりと七瀬瑠璃の方へ視線を向けた。
エストレアよりも大人っぽく、フランシアとは違う美形でエルティエルより落ち着いている感じでありソニアのように思ったことを口にするような雰囲気もあった。
「大丈夫ですか?何か私に不手際でもありましたか?」
「いや、ないよ。すまない。ちょっと大人気ないんだけど緊張してしまってさ。まさかこんな若くて美人が来るなんて想像もしていなかったし、容姿や内面がどうであれこの歳の差だから揶揄われてんだろうなくらいにしか思えなくてね‥‥」
「揶揄っているだなんて、怒りますよ?私真剣な気持ちでここに来ていますから」
「いやいや、ちょっとおかしいって。おれ40だし。釣り合わないよ。君にはもっと若い人がいいんじゃないかな?」
「勝手に人の感情を否定してはだめですよ?三神さん。私は至って真面目ですし、私がどういう人を好きになるかを私以外誰一人として否定は出来ません。なので疑う気持ちは一旦捨てて下さいね」
「捨てて下さいねって言われてもな‥‥」
そこに図々しい笑顔で八田野が割り込んできた。
「三神さん、取り敢えずもう会話出来ているみたいなんで、僕は帰りますね。これ以上いてもお邪魔虫ですから」
「いや、八田野くん、いてもらった方がいいかもしれないぞ」
「いつまでビビってんですか?ほら、ちゃんと相手の目を見て?」
雪斗は八田野に強引に七瀬を見るように顔の角度を変えられた。
「じゃぁあとは二人でゆっくりと。七瀬、あとよろしく」
「休日なのに悪かったね八田野。じゃぁね」
八田野と七瀬のふたりで勝手に段取りが進み、雪斗は、七瀬とふたりきりにさせられた。
「八田野くん、帰ってしまったな‥‥」
「いいじゃないですか。彼も中々忙しいみたいですし。彼女と別れて吹っ切れたのか、今はいろんな投資をやっているみたいだし、料理も得意だったりするから数年前までは彼の家に友達たちと集まって彼が料理を振る舞う的なパーティーとかやっていたんですよ。交友関係も広いからしょっちゅう飲みにもいっているし。そういうの最近復活しているみたいですから気にしなくてよいですよ」
「料理が得意って、あの八田野くんが?本当に?」
「ええ。意外にも料理は得意で、正直言うと私より料理上手だったりするんです」
「え?」
「え?」
「あ、いや、七瀬さんは美人だから料理も上手なんじゃないかと勝手に思っていただけで、まさかの八田野くんの方が料理上手という情報でびっくりしただけですよ」
「びっくりってちょっと失礼ですよね?普通はそんなことないでしょって否定しますよね!」
「?!」
突然七瀬が怒った表情で言って来たため、雪斗は思わず面食らった。
「‥‥なぁんてね。ちょっとびっくりしました?」
「ははは‥‥あまりおっさんをいじめないで下さい。女性にも免疫があるわけじゃないし」
「そうでしたね。確か大賢者だとか」
「!!!」
雪斗は全身から冷や汗が吹き出て顔が真っ赤になっている感覚を持ちながら八田野に強烈な殺意を抱いた。
雪斗が女性経験がないと言う話をまさか七瀬に伝えてあったとは、悪意としか捉えられないためだ。
(あいつ、マジでタダじゃおかねぇ)
「あ。でも私、そういうの全然気にしないんです」
「もういって。何だか自分が哀れに思えて来たよ」
「本当に大丈夫ですから。だって私も賢者ですしね」
「はいはい、もう慰めが嫌味に聞こえって、はぁ?!どういう意味ですか?」
「ちょ、ちょっと‥‥この場でいうのは恥ずかしいのですけど、男性との経験がないんです」
「嘘だな。それは信じようがない。君みたいな美人を放っておく男がいたら、そいつらは最早人間じゃないよ」
「そうですよね?きっと世の中の男の殆どは人間じゃないのかもしれませんね。ナメクジみたいな宇宙人かもって思います」
「ナメクジ?何で?」
「何も考えずに我が道をゆく!って感じ。周りを見もしないで。あとジメジメしていてねちっこいってところも」
「いや、ナメクジだって何か考えてるし、ジメジメしているところにいるのであって、ナメクジ自体がジメジメはしていないだろうし、ねっちこいってナメクジレベルのスピードでしか動けないやつがねちっこく動き回るとかないから」
「ありますよ」
「ない」
「ありますって」
「ないって」
「じゃぁ証明して下さい」
「じゃぁナメクジ持って来て下さい」
「ぷっ!‥‥あはははは!」
「ははは‥‥」
七瀬は会話が楽しかったのか、笑い出した。
それに釣られるように雪斗も笑った。
どうやら相手を上手く乗せる会話上手なのだろうと雪斗は思った。
それから色んな話をした。
趣味や会社での話や好きなタイプなど七瀬の会話のペースに乗せられていつの間にか色々と自分のことも話していることに雪斗は気づいた。
もちろん、ハノキアをまたにかけて航海しているレヴルストラのリーダーという話はしていないが。
(いつの間にか警戒心がなくなっている‥‥。やはりこの子が経験がないって言い張っているのは怪しいな。肝が座り切っている)
それから完全に会話が弾み、夜まで楽しい会話が続いた。
その日はそれで解散となったのだが、自分の部屋の鏡で自分の顔を見てうんざりした。
明らかに老けている。
かつての自分の容姿が改めて恋しくなっていた。
(まぁ楽しかったが次はないだろうな。1日だけではあったが楽しかった。一応八田野くんに感謝しておくか)
スノウは久しぶりに気持ちよく寝ることができた。
いつも読んで頂きありがとうございます。




