<ハノキア踏査編> 72.大賢者
72.大賢者
「有美は‥‥僕の彼女はどうやらあんたに惚れてるみたいなんですよ!」
「はぁ?!」
突然の意味不明な発言に雪斗は驚きを隠せなかった。
有美とは八田野の彼女の田島有美のことだ。
(勘弁してくれ‥‥)
雪斗は面倒なことに巻き込まれたと思ってうんざりした気持ちになったが、八田野は未来で自分を助けてくれる存在になるため、無碍には扱えない。
「八田野くん。冷静に考えてみなよ。田島くんみたいな若い子がおれみたいなおっさんを好きになるはずもないだろ?そもそもおれは空気みたいな存在だぜ?不都合があったら面倒なことを押し付ける対象だ。同情はあっても恋愛感情なんてあり得ないよ」
「‥‥‥‥」
八田野は数秒沈黙した。
(これで分かってくれただろ。全く面倒だな‥‥)
「三神さん、分かってないですね」
「え?」
「いいですか?今時年齢なんてある程度の範疇にあれば関係ないって人多いんですよ。特に有美はそういう感じで、経済力があるとか頼りになるとかのそういうのに引っ張られる性格なんです。そういう意味では三神さん、そこそこの経済力があるし、この間キモクソデブに一矢報いたのはデカいんですよ」
「そういう君だって食い下がったじゃないか。あの勇気は賞賛ものだと思うけど」
「飛ばされてるじゃないですか!権力に屈したも同然ですよ」
「そんなこと言ったらおれだっていつ飛ばされるか分かったもんじゃないぞ。もしおれのことを好いてくれてるとしておれが飛ばされたら好きじゃなくなるって感じなら、逆にそういう人は嫌だなぁ」
「有美を侮辱するんですか?!」
「あ、いや、そういうわけじゃ‥‥」
(こいつ自分で矛盾したこと言ってんの分かってないのか?あ、だめだ。未来で助けてくれる存在だった‥‥)
「まぁでもさ、君の勘違いってのもあるだろうし、そもそも田島くんを信じてあげるのも重要じゃないかな?君という支えがこの会社から無くなってしまって不安に思っていると思うし。それに遠距離になったからといってダメになるとは限らないじゃないか」
「そりゃそうですけど‥‥」
「おれが思うに、君が今何でもネガティブに受け取ってしまう状況なんだと思うよ。地方のプログラミング会社に出向になって彼女とも離れ不安が重なっているだけなんだと思う。そういう時こそどっしりと落ち着いていればいいし、もしそれで離れていく人がいたとしたらそれは君にとって必要ではない人なんじゃゃいかな。少なくともおれは君の味方であろうと思うよ。君がどうあろうとね。あのジャバ‥‥仲本部長に歯向かう前まではみんなから空気のように扱われ、本部長や部長にいびられているのを遠くで笑みを浮かべられていたおれにしてみれば、みんなおれにとって不要な人たちだよ。申し訳ないけど田島くんもね」
「三神さん‥‥」
八田野の表情が変わった。
「すみませんでした。なんか僕、他人の気持ちに寄り添うような余裕がなくてただ自分で勝手に不安がっている痛いやつになってましたね‥‥。変なこと言ってすみませんでした。確かにこれは僕と有美の話です。三神さんは関係ない。それどころか有美と向き合わず三神さんを責めてました。最低ですね‥‥」
「そんなことはないと思うよ。気づけただけ大人なんだと思うしね。君の意思や行動を、君自身を最も認めてあげなきゃならないのは君だからね。おれでもなければ田島くんでもないから」
「ありがとう‥‥ございます‥‥!うぅ‥‥」
八田野は俯いて静かに泣き始めた。
「お、おい‥‥」
(マジか‥‥勘弁してくれ‥‥)
「あぁ、すみませんでした。なんか、感情が溢れて少し楽になった気がします。これも三神さんのおかげです。ありがとうございます」
「おれは何もしてないよ。さぁ、これ飲んだら戻ろう。出目金に見つかったらうるさいしな」
「ですね。それにしても三神さん、本当に変わりましたね。なんかこう‥‥揺るぎない感じっていうか」
「そうかな‥まぁ、いつまでも卑屈になっていてはいけないしね」
「強いですね。だからこそ、仲に一矢報いたってことですよね」
「ジャバっておい‥」
「三神さん、これ会社の人に言わないほうがいいっすよ?特に男はほぼ間違いなくスペースウォーズ見てますし、あのキャラ覚えてるでしょうし、あの本部長の見た目にすぐ結び付きますから」
「ははは‥‥だよな‥」
「ええ!フフフ」
雪斗はいつの間にか八田野と仲良くなっていた。
その後、雪斗が自席に戻ると案の定出目金部長が目くじら立てて怒り口調で嫌味を言ってきたがスノウは全く聞こえないとばかりにPC画面を見て空返事で返した。
・・・・・
ーー翌日ーー
またもや八田野が雪斗に話しかけてきた。
どうしても外で話したいとのことだったので、出目金部長に嫌味を言われるのを覚悟で社外のカフェで話を聞くことになったのだが、昨晩八田野は田島と話をしたらしく、しっかりと話し合った結果、田島から別れ話を切り出されたらしいのだ。
だが、八田野はそれをじっくり聞いて昨日の雪斗の言葉を思い出し、田島が自分にとって必要な人物かどうかを冷静に見極めたそうで、結果別れたい理由から自分にとって不要な人だと納得したのだそうだ。
「三神さんとの会話で冷静に見つめ直すことができたと思います。もちろんまだまだ引き摺りそうですけどね」
「そっか。でもそれに気づけた君はきっと君に相応しい人と出会う機会を得たんだと思うよ。だからこそ冷静に対処できたんだと思う」
「ありがとうございます。因みに有美の別れたい理由ってのは別に好きな人が出来たかららしいです」
「そうなの?」
(まさか、おれだとか言うんじゃないだろうな‥‥)
「ええ。教えてはもらえませんでしたが、別の会社にいる大学時代の同級生らしいです。ジャバからのセクハラもあって相談していたら親身に話を聞いてくれて好きになってしまったとか。僕に相談できなかったのは僕がパワハラを受けるんじゃないかと心配してのことだったようですが、それでも相談して欲しかったです。守りたかったですし、結果そういう行動に出てますしね。でも相談してもらえていない時点で彼女にとって僕は彼氏としては役不足だったんでしょうね。そしてそうなってしまっていたということは僕にとっても彼女は必要のない人だった。昨日の三神さんからの言葉に凄く納得できたんです」
「そうか‥」
(うわーおれじゃなかったー!もしかしておれ?とか言わなくてよかったー!言ってたら一生八田野くんと話せないほどの汚点になってたよ!)
スノウは冷静な表情を崩さず心の中で恥ずかしがっていた。
「しかし八田野くんは強いな。おれが同じ立場だったらそんな簡単に理解も納得も出来ないかもなぁ。まぁそもそも恋愛そのものの経験もほぼないしね」
「さ、三神さん‥‥もしかして童貞ですか?」
ギグゥゥゥッ!!
スノウは全身から汗が噴き出るのを感じた。
「バ、バカなことを言うもんじゃぁないぜぇ」
「図星か」
「だから違うって!」
「その慌て様‥‥確定か‥‥」
「ちっちがちがちが違うって!」
「いいんですよ!僕は三神さんに大恩あると思っているんで誰にも言いません!」
八田野は小声で言ったが十分周囲に聞こえる音量だったためスノウは若干涙気味ながら天井を見上げた。
(あぁ、終わった‥‥。大賢者であることがとうとう知れてしまった‥‥)
「僕がいい女性紹介しますから安心して下さい」
「いや、いい」
雪斗はゆっくりと席を立った。
「悪いが仕事があるのでここで失礼するよ」
「三神さん」
雪斗はそのままカフェを出て行った。
・・・・・
ーーその日の夜ーー
雪斗は自宅で早めにベッドに入った。
だが中々寝付けないでいた。
散々偉そうなことを八田野のに言っていたのに自分は大賢者であることが知れてしまった瞬間、恥ずかしさで狼狽えてしまった。
その光景が脳裏で繰り返されて、何度も辱めを受けている気分で眠れなかったのだ。
(はぁ‥‥)
恋愛に疎い雪斗はこの領域だけは自分で道を切り開くことが出来ず、モヤモヤしていた。
「紹介するっつったって今のおれは40過ぎだぜ?同年代連れて来られても‥‥。いや、寧ろそっちの方が合ってるのかも知れない‥‥いやいやいや一体おれは何を期待してんだこのクソボケ大賢者が!」
スノウは勝手に思考を巡らせひとりで恥ずかしがっていた。
ピコォン‥‥
(ん‥)
八田野からメッセージが入ったが恥ずかしさが込み上げスマホを放り投げようとした瞬間、メッセージの1文が見えたのを思い出しやめた。
そこにはこう書かれていた。
"お疲れ様です!女性を紹介したいと思います!相手は27歳で三神さ‥‥"
「!」
雪斗は恐る恐るメッセージを開く。
「に!27歳!!」
思考が追いつかず頭が真っ白になった。
いつも読んで頂きありがとうございます。




