<ハノキア踏査編> 69.カラクゥインとの賭け
69.カラクゥインとの賭け
時ノ圍が解除され、全てが動き出した。
「偽物はどこへ行った?!」
「スノウ、何があったのだ?」
シルゼヴァの質問に答えることなくスノウはこめかみから汗を滴らせながら自分を奮い立たせていた。
(クアンタム‥‥何故ゲブラーにいたはずのやつがヴィマナに?!奴は一体何者‥‥はっ!)
「アヌ!」
スノウはアヌがクアンタムを知っていることを思い出し詰め寄った。
"何だ貴様。僕の名を雑に呼ぶな"
「教えてくれ!奴は!クアンタムは何者なんだ?!」
"落ち着いて聞けぬ者に僕の貴重な情報は渡せない。呼吸を整えろ。10分後に会議室だ。カルパを抜けるのにはもう少し時間を要すはずだからな"
アヌの提案もあり10分後に会議室で話すこととなった。
・・・・・
ーーヴィマナ会議室ーー
カルパ航行中で操舵と機関系の対応でワサン、アリオク、ガースは不参加となったがそれ以外の面々が会議室に集まっていた。
ワサンやアリオク、ガースのいるブリッジと機関室には会議室の会話が聞こえるようになっており、彼らは会議の内容を把握できる状態にしていた。
そして会議の主役のアヌはルナリに抱かれている。
ヘラクレスとシンザは 目で会話していた。
(何があったんだ?)
(僕が知るわけないじゃないですか!)
(アヌのやつルナリに抱っこされてんじゃねぇか。ソニアとソニックの偽物が現れた後にルナリが抱っこしてんだから何か知ってんだろ?)
(だから知るわけないでしょって!)
「みんな急きょ集まってもらってすまない。本来なら全員集まってもらいたいところだが今はカルパ航行中だ。何が起こるか分からないからブリッジにはワサンに機関室にはアリオクとガースに残ってもらっている」
スノウが話し始めたため皆視線をスノウに向けて聞き入った。
「知っての通りヴィマナに侵入者があった。名はクアンタム。ソニアやワサンは知っているが嘗てゲブラーの一般剣士でありながら最高峰の実力を持ち、ピエロの顔でふざけた戦い方をしながら相手を翻弄して甚振り、最終的には惨殺する鬼畜なやつだ。何となく能力の異常性は感じていたが、カルパを渡るヴィマナに侵入するほどとは思っていなかった。ティフェレトから越界する前にヴィマナに乗り込んでいたのか、もしくは越界中、つまりカルパを渡っている最中にどこか別の場所からヴィマナに侵入したか。ソニアとソニックに化け、アヌの存在すらも模倣した男だ。いずれにせよ脅威であることに間違いない。アヌが奴のことを知っているようだから今からそれを聞き今後の対処を考えたい。アヌ、申し訳ないが知っていることを教えてくれないか?」
ルナリに抱かれているアヌはその肉塊を少しだけ動かした。
"いいだろう無知者スノウ。本来なら教えることはないが、お前は檻から出してくれたからな"
アヌは全員の頭の中にテレパシーで話し始めた。
"言ってはならない宇宙の理がある。それ以外で話してやろう。宇宙には貴様らの量ることの出来ない存在が幾つか在る。その中に、名もなきモノから名を得たモノへと変貌を遂げた存在が幾つか在るのだが、そのひとつがスノウ、貴様がクアンタムと呼んだ存在だ。本来の名はQ’araq-Uyn。実体を持たない意識生命体で凡ゆる生物に自らの好奇心で問いを投げかけ、満足できないと笑いながら玩具を分解して壊すように対象を弄び甚振り破壊する。時にはその時の表情や声色を聞き続けたいという理由で死なない体へと改造し破壊し続けることも行う"
「クソ野郎だな」
「まさに納得感しかない表現だ」
「でもその反吐が出る性格のカラクゥインは途轍もない力を持っているんですよね?」
"その通りだ無知者シンザ。本来の僕ほどでは無いが、近いレベルの力を持っている。例えばティフェレト程度の世界を創世する事も可能だ"
『!!』
「ティフェレトを創れるって‥‥」
「格が違いすぎるぜ‥‥」
「アヌよ。それはつまりお前にも世界を創世する力があるということか?」
シルゼヴァが腕を組みながら質問した。
"愚問だぞ無知者シルゼヴァ。そのようなことは容易い。だが今は本来の力を失っており難しい。話を戻すが、カラクゥインは世界を創世するほどの力を持っているが、それを実行に移すことはない。何故なら興味がないからだ。やつは好奇心の塊だ。自ら作り上げたものには興味がない。自ら作り上げたものの中に好奇心を掻き立てられるものは存在しないと考えているということだ。だがそれ相応の力を持っているからこそカルパを越界中にヴィマナに乗り込んでくるなど造作もない"
「やはり越界中に侵入してきたか」
"僕がいたから殺されずに済んだ。感謝するがいい。だが無知者スノウ。貴様はダメだ"
「どういう意味だアヌ?」
"貴様はカラクゥインと賭けをしただろう?"
「ああ。やつはおれの未来を覗いたと言った。それによると、おれはマルクトを訪れると絶望するらしい。そして大切で揺るぎないと思っている心の支えでもある仲間から距離を置くことになると言っていた。そして生きる理由を失ったかのように絶望するってな。おれは絶対に仲間から受けている信頼を疑うことはないし、だからこそ絶望することはないと言ったんだ。そうしたらやつは賭けをしようと持ちかけてきて、おれは絶望しない方に、やつはおれが絶望する方に賭けた」
「賭けたものは何だ?」
シルゼヴァの質問に数秒言葉を詰まらせたスノウはゆっくりと低い声で答え始めた。
「おれが勝ったらオルダマトラの居場所を教え続けるというものだ。遭遇するまでな」
「お前が負けた場合は?」
「‥‥‥‥仲間のひとりの存在を消し去るというものだ」
『!!』
皆驚いてスノウの顔を見た。
スノウは非難を受けることを覚悟して言ったのだが、スノウの賭けに不満や否定する者はいなかった。
「みんな、おれを責めないのか?」
「責める必要がないだろう?お前は絶望などしないのだからな」
シルゼヴァが腕を組んで言った。
それに他のメンバーも頷いている。
「それによ!そのカラクゥインとかいうやつ以上の力持ってるアヌがいるんだ。最悪賭けなんざ反故にして貰えばいいんだよ!な?アヌ!」
"不可能だ"
「はぁ?!何でだよ!」
"無知者ヘラクレス。貴様の低脳ぶりには心底うんざりするぞ。カラクゥインは宇宙の理の中でスノウに賭けという烙印を押した。それはやつ自身にも同様に押しているのだ。仮に賭けの報酬がカラクゥインの存在を消し去るというものでスノウが賭けに勝ったら本当にやつの存在は全宇宙から消える。当然スノウが賭けねばならないのには桁違いに重いものになるがな。宇宙の理とは如何なる存在も例外なくその範疇にあり唯一無二の絶対的なもの。それほどの強い因が結ばれた状態なのだ。故に僕どころか、当事者であるスノウやカラクゥインですら解くことは叶わん"
「マジか‥‥」
「大丈夫だみんな。シルゼヴァの言う通りおれが賭けに勝てばいい。みんなへの信頼、そしてみんなからの信頼がある以上おれは絶対に絶望しない!」
スノウの言葉を聞いて、皆嬉しそうな表情を見せた。
「マスター。この舟にマスターの言葉を疑うものなどおりません。仮にいるとしても私が完璧に排除しますから」
「シア‥‥お前怖ぇよ」
「あら、怯えているってことは排除対象ということね」
「ちげぇって!落ち着け!」
「黙ってろ」
フランシアとヘラクレスのやりとりをシルゼヴァが一喝した。
それを無視してアヌは話を続けた。
"賭けを管理するのは宇宙の理と言っても良い。無知者スノウ。貴様は自身で絶望したと心中の欠片でも感じた、もしくはそう思ってしまったのではと自身を疑った時点で絶望したと見做し賭けの清算は行われる。つまり貴様は精神を一切乱してはならないということだ。覚えておくのだな"
「分かった」
今後どのようなことが起こってもスノウは必ず賭けに勝ってみせると誓った。
「おれ達はカラクゥインに目をつけられた。アヌの説明の通り、やつはおれ達がこれまで遭遇してきた神以上の存在と見ていい。もし仮に接触があったとしても絶対に会話したり争ったりはするな。おれ達がやつと戦う時があるとすればそれはまだ先。おれ達がさらに強大な力を手に入れた後だ」
『おう!』
"スノウ船長ならびにクルーの皆さん。10分ほどでマルクトへ到着します。準備を整えることをお勧めします"
リュクスからアナウンスがあった。
「ありがとうリュクス。総員配置につきマルクトへの着界に備えてくれ。解散」
『おう!』
レヴルストラの面々は会議室から出てそれぞれの持ち場に戻った。
スノウはブリッジのキャプテンシートに座りスクリーンに目を向けた。
"着界座標は日本国の東京湾から南へ約80km地点、北緯34度69分、東経139度88分。日本国湾岸は浅瀬が続いておりヴィマナでの航行は困難であるため、これ以上陸地に近づくことは出来ません。転送可能域は陸地に届きませんので上陸は海上へ転送後飛行にて行うか、アーリカに乗船の上転送し陸地へ向かうかの二択です"
「飛行で行う。上陸はおれ、シア、シルゼヴァ、エルの4人だ。それ以外はひとまず待機とする」
"間も無く着界です。9‥8‥7‥6"
皆カウントダウンの中スクリーンを見つめていた。
ワープ状態のようにカルパの魔力の光が線をなしている。
"5‥4‥3‥2‥1‥"
そして一気に視界が開けた瞬間スクリーンに映し出されたのは闇だった。
"着界"
ズズズゥゥゥン!!
衝撃がヴィマナを襲う。
海中に着界した衝撃であったがすぐに安定した。
"マルクトに到着です"
スクリーンには東京の街並みが映し出されていた。
(ついに戻ってきた)
スノウは決意新たにした。
いつも読んで頂きありがとうございます。




