<ハノキア踏査編> 68.クアンタム
68.クアンタム
「だから言っているじゃないか。わたしはソニックだって」
右半分が赤毛のソニア、左半分が水色の髪色のソニックになっている存在は不気味な笑みを浮かべゆっくりと立ち上がった。
"僕のことも疑うのか?無知者どもめ"
偽物が抱き抱えているアヌがスノウ達の脳内に話しかけた。
「ワサン、どうだ?アヌも偽物か?」
「ああ、おそらくな」
(ワサンは銀狼の力に目覚めている。おそらく嗅覚は嘗ての数十倍だろう。だとしたら本物とだと言うことになる)
「偽物だとしても油断は出来んぞスノウ。俺たちの脳内に直接語りかける力。相当なものだ。アヌと同等かもしれん」
シルゼヴァは腕を組みながら冷静に言った。
その言葉にスノウは頷いた。
(神レベルってことか‥‥)
「お前は何者だ?」
「だからソニックだって!」
「いい加減にしろ。おれ達は本気だ。このカルパを渡っている最中に暴れられちゃ困るかな。全力でお前をぶちのめす」
「あはははははははは!面白いねやっぱり君は!」
ピキィィィィン!
「?!」
突如時間が止まったかのように全ての動きが音を立てることなく止まった。
その中で目の前の偽物とスノウだけが動ける状態だった。
(今の耳鳴りみたいなのに合わせて時が止まったような状態‥‥)
「時ノ圍か!」
「へぇ、知っているんだね。あ、そっか。君は何度も時ノ圍を経験しているんだったね」
「‥‥‥‥」
「しかし面白いね君は。すごく複雑な感情を持っているね。勝てない相手だと思っていつつ、仲間を守るために虚勢を張っている。でも仲間を思うと僕に勝てるとさえ思ってしまう。ニンゲンとは意志の強さで現実を塗り替える力を持っている。君はそのことに気づいていないくせに出来ると信じている変わった存在だ」
「‥‥‥‥」
(こいつ‥‥完全におれを下に見てなめてるな‥‥だが、何故おれだけ動ける状態にしたんだ?とるに足らない存在ならおれだけを動ける状態になんてしないはずだ。シルゼヴァやアリオク、エルを対象にした方がよっぽど会話になるはずだが‥‥もしかしてフォードメーカーか?)
フォードメーカーであれば下手をすれば行き先を変えられてしまう恐れがあるためスノウは慎重に会話することにした。
「何者だお前は」
「いやだなぁ、何で敵扱いなんだい?突然現れた味方だったら失礼にあたるよ?」
「味方なら仲間に扮しておちょくったりしないだろ」
「あははは!それもそっか」
「いい加減このくだらない不毛なやり取りは終わらせたい。用件があるなら言え。応えられる範囲で応えてやる」
「へぇ、中々理解あるじゃないか。でもね、用件んなんてないよ。ただ挨拶に来ただけなんだ。この綿津見の方舟に選ばれた者がどんな感じかをね。それで見に来たらアノマリー君だったわけ。こんな面白いことないでしょ、フフフ」
「お前、フォードメーカーか?」
「あははは!あんな操り人形と一緒にしてもらったら困るよ。分からないかなぁ、ほら!」
ギュルルン!
偽物は変面のように一瞬後ろを見て戻した瞬間に顔を変えた。
「お前は?!」
スノウにはその顔に見覚えがあった。
ゲブラーで参加したグランヘクサリオスで遭遇したピエロの顔の一般剣士で、ふざけた戦い方をしながら相手を翻弄して弄び、最終的には惨殺する鬼畜な男だった。
「確かクアンタム‥‥」
「おお、覚えていてくれたとは光栄だよ、フフフ。あ、それもそっか。怯えてもらえるようにこんなピエロの顔にしているんだから。でも嬉しいね」
「何故お前がここにいる?」
「その質問はつまらないなぁ。さっきも言ったじゃないか。君に会いに来たんだよ。あ、どうやって入ったかなんてくだらない質問はやめてくれよな?僕が入れない場所なんてどこにもないんだから」
「‥‥‥‥」
(こいつを怒らせると危険だ。アヌのようにテレパシーで会話も出来、時ノ圍が使える時点で相当な力を持っている。ここから先は本当に慎重に質問しなければならない‥‥)
パッ‥
突如クアンタムは姿を消した。
「そんなに怖がらなくてもいいよ」
「!」
突如スノウの背後に現れた顔を耳元に近づけて囁くように言った。
スノウは瞬時に飛び退いてクアンタムから距離を置いた。
「それで、おれを見て満足したか?」
「アハハハ!面白い質問だね!そうだねー会ったこと自体には大して満足感はなかったね。少しだけ驚きはあったけどね。でも君に会って君を覗いてみて満足したのはあるよ」
「おれを覗いて?」
「そうそう。君の未来。いや過去かな。これからマルクトに行くのだろうけど、君はとても不思議な体験をする」
「不思議な体験?」
「そう。これから起こることを告げるのは本来摂理に反するけど、僕はその範疇外だから教えちゃうけど、君、マルクトにいた頃、悲惨な人生を送っていたんだよね?」
「さぁな」
「あははははははは!乗り越えたと思っているね?でも本当にそうなのかなぁ。君はマルクトを訪れてまず初めに驚いて、そして愕然とすると思うよ。そして大切で揺るぎないと思っている心の支えでもある仲間から距離を置くことになるね。そして生きる理由を失ったかのように君は絶望することになる。その顔が最高でさ。その先は僕には見えていないけど、その状況に果たして君は耐えられるかなぁ?」
「おれの仲間は決して裏切らない。自分も仲間もだ。レヴルストラメンバーひとりひとりがそうする。おれはそう信じているし、それは揺るがない。お前が言う絶望的な状況になったとしてもおれは仲間を信じる。そしてその信じる気持ちがある限りおれは絶望しない」
「あははははは!」
ヒュン‥‥
「本当にそうかな?」
クアンタムは再び一瞬でスノウの背後に回りこみ耳元に顔を近づけて低く脅すような声で言った。
「何度も言わせるな」
「ふん」
ヒュン‥‥
クアンタムは瞬間移動しキャプテンシートに座った。
「なるほど‥‥じゃぁ賭けをしようか?」
「賭け?何を言っている」
「賭けだよ賭け。君が言った通り絶望せずにいられたら君の勝ちだ。でも僕が言ったように絶望したら僕の勝ち。どうだい?自信があるなら当然受けるよね?」
「賭けの報酬はなんだ?」
「そうだなぁ‥‥君が勝ったら‥‥何でもひとつだけ情報をあげるよ。たとえばオルダマトラは今どこにいるか‥‥とかね」
「!!」
思いがけず情報入手できる機会をもらったとスノウは思った。
クアンタムが言ったことは本当であり、根拠としてその情報を入手するだけの力があるとスノウは思ったのだ。
「まぁ今どこにいるかを教えても越界している間に逃げられてしまうだろうから、もうひとつサービスしようかな。君がオルダマトラに辿り着くまでオルダマトラの居場所を教え続けてあげるよ」
あり得ないほどの情報だとスノウは思った。
「お前が勝ったら?」
「そうだねぇ‥‥仲間のひとりの存在を完全に消させてもらうってのはどうだい?」
「そんなことさせるわけがないだろうが!!」
「おいおい怒るなよ。君が勝てばいいんだ。そして君は仲間を信じているから絶望しないんだろ?なのに、僕の出した条件をのめないってのは矛盾しているじゃないか。仲間を信じていると言いながら信じられないってことだろ?」
「くっ‥‥‥」
スノウは言葉に詰まってしまった。
「言っておくけど、僕が伝えた未来は確実にやってくる。君が絶望しようがしまいが、確実にね。そしてそれを経験した先に何があるかは分からない。分岐がいくつもあるからね。でもその時、君が仲間を信じ切れる確信があるなら、何もないよりオルダマトラの情報がある方がお得だと思わないかい?」
クアンタムの言った言葉は理にかなっていた。
自分が仲間を何があっても信じきれさえすれば貴重な情報が手に入る。
仲間を信じることができない状態などあり得ない。
だとすればこの賭けに乗らない手はないとスノウは思った。
「分かった。その賭け受けよう」
「良き良き!それじゃぁ賭けが成立した記念に君に印をつけさえてもらうよ」
シュン‥‥
スノウの左手の甲に不思議な模様のタトゥーが刻まれた。
「賭けが発生することを避ける行動とか、賭けから逃げたりしたら、その印から毒が全身に回り君は数秒で死ぬ。‥‥大丈夫だよ、僕にも付けているからね。ここはフェアにいかないとさ」
「ちっ‥‥」
フェアと言いながら自分で付けた印であり、自分が不利になったら自分で解除できるため、スノウだけを縛り付けるものだとスノウは思った。
「よし。それじゃぁ僕は少し別の場所で見物させてもらうことにするよ」
“待て”
突如エルティエルがアヌを抱いてブリッジに入って来た。
エルティエルは完全に意識を失っており、アヌがエルティエルを操って時ノ圍の中、ブリッジまでやって来たのだった。
「あらら、面倒なのが来たねぇ」
“異物が紛れ込んでいると思ったら貴様かカラクゥイン”
「その名で呼ぶのは好きじゃないね」
“逃さんぞ。無知者スノウは僕を監獄から出した良き心の持ち主だ。その無知者スノウにくだらん烙印を押したとあっては逃すわけにいかんだろう?”
「逃げるつもりはないけど、邪魔されるのは好きじゃないからね。っていうか何で君はここにいるんだい?短命のアヌギ」
“その名を口にするな。2度目はないぞ”
「はいはい。本来の力を拒んでいる君に僕を拘束する力はないから。素直にアロンを受け入れればいいのにさ」
“消し去ってくれる!”
「あははははは!無理無理!それじゃぁバイバイ!」
クアンタムは消えた。
“アノマリー君!賭けは始まったよ。精々信念を貫いてみせなよ”
ブリッジにクアンタムの声がこだました。
次の瞬間、時ノ圍が解除され、全てが動き出した。
「??」
「偽物はどこへ行った?!」
「スノウ、何があったのだ?」
シルゼヴァの質問に答えることなくスノウはこめかみから汗を滴らせながら自分を奮い立たせていた。
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