<ハノキア踏査編> 67.異変
67.異変
ヴィマナのブリッジにスノウを始めほぼ全てのメンバーが揃っている。
キャプテンシートに座るスノウはスクリーンを見ながら話し始めた。
「みんな準備はいいか?」
『おう!』
「よし。これからおれ達はマルクトへ向かう。目的は6つ。ひとつはイヌトの調査だ。基本的に外宇宙の電異界にいる存在だ。容易に見つかるものではないかもしれないが、得体の知れない異変がある場合は真っ先にイヌトを疑え。二つめはグレイアンだ。隕石船がティフェレトから消えた以上何処かの世界には必ずいるはずだ。そしてイヌトを出し抜く力を得ようとしている。勿論阻止だ。そしてオルダマトラ。これは言うまでもない。ニルヴァーナも同様だ。元老院と人類議会、そして三足烏を従えた組織であり、ヘクトルやニル・ゼント、カエーサルとも繋がっていると思われる。何かを企んでいるはずだがこれも当然阻止だ」
皆真剣な表情でスノウの言葉に耳を傾け頷いている。
「加えて、おれ達の仲間であるゴーザの捜索だ。そしてティフェレトから越界して消えたロロンガ・ルザの捜索もおれ達のミッションとなる。数多くのミッションを同時に行わなければならない旅だ。場合によっては複数の勢力と戦わなければならない場面もあるだろう。だがおれ達は負けない。今起こっているハノキアの異変を必ず取り除き平和を取り戻す。みんな、覚悟いいな!」
『おう!』
皆の気合の入った声を聞いたスノウはスクリーンに映るティフェレトの美しい大地を見ながら言った。
「ヴィマナ、マルクトに向かって越界準備」
"スノウ船長、いつでも越界可能です"
リュクスが答えた。
「エンゲージ」
ギュルルルル‥‥ギュワァァァァン‥‥キィィィィィィィィン‥‥
スクリーンの景色が変わり宇宙空間に吸い込まれるような情景が映し出された。
その直後、不気味に美しく光る川が映し出された。
無事に越界できたことを確認すると数名は各部屋または持ち場へと戻って行った。
「カルパか。いつ見ても荘厳だけど怖ぇな」
「怖いもの無しだと思ってましたが、流石のヘラクレスもカルパは怖いですか?」
ソニックがヘラクレスに話しかけた。
「まぁな。俺はここを生身で渡る資格はねぇからな。一瞬で蒸発しちまう。その感覚が何となく分かるんだ。何度も越界して俺の中の何かが目覚めようとしているのかもしれねぇな」
「新たな筋肉とかですか?」
「そうだ。新たな筋肉が生まれ俺はさらに‥‥っておい!人を脳筋の肉団子みたいに言うんじゃねぇ!」
「そこまで言ってませんが、想像以上に適切な表現ですね」
「おい!って、そういやアヌはどうした?」
「フフフ‥‥怖いものありましたね」
「笑えねぇよソニック‥‥。あの得体の知れねぇ能力と感情が読めねぇところが恐ろしい。いや怖ぇっていう次元じゃねぇ。シルズだって黙っちまうんだからよ」
「そうですね‥‥」
「それでアヌはどこに言ったんだ?ソニアに抱っこされてねぇと癇癪起こすからあいつがいる限り一生お前の出番はないんだと思っていたぜソニック」
「笑えませんねヘラクレス‥‥。仮に冗談でも‥‥。僕だって自由に行動したいんですよ。体がもうひとつあったらどんなにいいかって真剣に悩む時だってあるんですからね」
「そ、そっか‥‥なんかすまねぇ」
「いえ、いいんです。で、一応伝えておきますけど、アヌの担当は持ち回りになったんです。姉さんか、シア、エルティエル、ルナリの4人が順番にお守りする感じです」
「全員一応女か。全くあの肉の塊、相当な女好きだな」
ヘラクレスは小声でソニックに言った。
"何だ僕の陰口か。無知者ヘラクレス"
「ひっ!」
ヘラクレスは突然頭の中に響いてきたアヌの声に驚きブリッジの隅で隠れるようにしゃがみガタガタと震え出した。
その様子を見ながらスノウは微笑みながら意識を自身の思考に向けた。
(マルクト。今回はおれという存在はどうなるのか。スノウのまま戻れるのか、それとも雪斗と言う存在に戻ってしまうのか‥‥まぁ考えても仕方ないな‥‥)
スノウは何度も越界しハノキアを旅する中で大きく成長し、雪斗時代の卑屈で人生を諦めていた性格から変わっていた。
以前であれば雪斗時代に戻る可能性があれば恐怖していたところだが、今のスノウにはそれはなかった。
おそらく自分自身がスノウ・ウルスラグナという存在を認め、揺るぎないものへと変わり始めているのだろう。
それは自分が自分を信じるということだけではなく、レヴルストラの仲間がいて自分という存在があるのだという確信から来ていると思われた。
(それよりも大災難だ。2025年なのか、それとも2026年なのか。2025年であれば大地震だったよな。2026年だと隕石の衝突。隕石はおそらくグレイアンだ。八田野君が正しいのか、ミカエルが正しいのか。或いはどちらも間違っているか‥‥)
キィィィィィィィィン‥‥
突如耳鳴りがし始めた。
「まさかフォードメーカーか?!」
「何?!そうなのか?!」
「おお、楽しみだな!」
「リュクス!厳重警戒だ!」
ヘラクレスとシルゼヴァは何故か楽しそうに見えたが他の者たちはソニックの指示で警戒し始めた。
「リュクス!レヴルストラ以外の存在はいるか?!」
“いえ、おりません、スノウ船長”
焦るスノウの言葉にリュクスは淡々と返した。
「何だよ気のせいかよ‥‥期待して損したぜ。スノウ、お前神経質になりすぎじゃねぇのか?!」
「スノウよ。期待させておいて落胆させるとはな。ハークの腕3〜4本折らなければ気が収まらないぞ」
ヘラクレスとシルゼヴァは残念そうに言った。
「おい、シルズ!俺の腕は2本しかねぇぞ?!」
「そこですか!って、え?!」
ヘラクレスのとぼけた反応にツッコミを入れたソニックは目を疑うような表情でヘラクレスを見ていた。
「ヘラクレス!腕!腕!」
「ん?なんだよってはぁ?!!」
ヘラクレスの腕は4本に増えていた。
「おいおいおいおい!!何で俺の腕が4本なんだ?!シルズ!!なんかしたのか?!」
「はっはっは!俺の能力だな!腕3〜4本折らねばと思ったらハークに腕が生えたということだ!」
「冗談言っている場合じゃないでしょシルゼヴァ!スノウ!異常事態では?!」
「ああ!皆気をつけろ!何かがおかしい!‥‥?!」
スノウはソニックを見て目を見開いて驚きの表情を見せた。
「お、おい‥‥何故ソニックとソニアがいるんだ?!」
スノウの視界にヘラクレスと会話しているソニックとその奥でアヌを抱いて椅子座っているソニアがいた。
「え?!」
「はぁ?!」
「なに?!」
全員ソニックとソニアを見た。
ソニックとソニアはふたつの精神がひとつの体に存在する特異体質であるため、ソニックとソニアが同時に存在することはあり得ない。
シルゼヴァはスノウの側に来て話しかけた。
「面白いことになったな。お前といると本当に退屈せずに済むぞ」
「楽しんでいる場合かシルゼヴァ。一体これはどういう‥いや、いつからだ?‥‥いつからふたりいた?!」
「落ち着けスノウ。リュクス、船内をスキャンしろ。このブリッジ以外にソニックまたはソニアはいるか?」
“おりませんシルゼヴァチーフエンジニア”
「ということだ。話は簡単、ここにいる2体、どちらかが本物でどちらかが偽物だ。それを突き止めて偽物を問いただせばいい」
「簡単に言ってくれるなシルゼヴァ。だがお前が言うと本当に簡単に思えてくるよ。ヘラクレス、ゆっくりとソニックから離れろ。警戒は怠るなよ。シアもソニアから離れろ」
スノウの指示でヘラクレスとフランシアはそれぞれ離れスノウ達のいる方に回った。
「お前らのうちどちらかが偽物ってことになる。まずは質問だ。正直に名乗り出れば手荒な真似はしない。偽物は手をあげろ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥
ブリッジ内に緊張が走る。
「ぼ、僕は本物ですスノウ」
「あ、あたしも本物よスノウ。ね?アヌ?」
“そうだソニアは本物だ。僕が保証する”
『!!』
全員の脳裏にアヌの声がはっきりと響いた。
「呆気なく偽物が特定されたな」
「何だよ、俺、得体の知れねぇやつとさっきまで話をしてたってことかぁ?!って何故今までソニアとアヌに気づかなかったんだ?」
「少し黙っていてくれヘラクレス。ソニック、いやお前は何者だ?」
「スノウ!僕はソニックですよ!偽物じゃありません!」
「そうよスノウ!わたしたちが本物よ!騙されないで!
偽物のソニックはソニアと入れ替わった。
「ソニックに化けられるのだからソニアにも化けられるか。いつからヴィマナに潜入していたんだ?」
「何を言っているの?!わたしたちが本物!どうして分かってくれないの?!」
(!‥‥何故だ?偽物は明白なのに納得できていない自分がいる‥‥おれの直感はこっちのソニック、ソニアは偽物ではないと言っている‥‥)
スノウは混乱した表情を見せた。
「迷うなら直感に従えスノウ。見た目や能力に騙されるな。心の目で見ればいい」
「!‥‥確かにその通りだシルゼヴァ!」
スノウは万空理の空視でふたりのソニアを視た。
「?!」
(何故だ?!両方ともソニアだと視えている!あり得ない!両方とも本物だっていうのか?!)
ヴィィィィン‥‥
突如扉が開き、ワサンが入って来た。
「ワサン気をつけろ。ゆっくりとこっちへ歩いてこい」
「!」
スノウの低い声に敏感に反応したワサンはすぐに状況を理解し、ゆっくりとスノウの方へと近づいて行った。
「どちらかが偽物か?」
「ああ。だがおれの空視で視ても両方本物だと映っている。もしかすると、何かの影響でソニアがふたり存在しているのかもしれない」
「それはあり得るかもしれんぞスノウ」
「どういう意味だ?」
「ソニックとソニアは魔物化した。戻ったのも完全に魔物化する直前だ。アヌの力で戻ったわけだが、その際に何らかの力が働き肉体がコピーされる作用が働いたのかもしれん。それが何かのきっかけで顕現したとかだ。たとえば越界したきっかけだ」
「そうなのか?!」
シルゼヴァの推測に驚きを隠せないスノウだったが、ワサンが突如意外な発言をした。
「匂いまでは真似出来ていないようだぜスノウ」
「?!‥‥ワサン、まさか?!」
「ああ。両方本物ってわけじゃない。片方は偽物だ。オレの鼻は銀狼のそれにかなり近づいているようだ。間違いない。偽物はあっちだ」
ワサンはゆっくりと指を差した。
その指先が差した方向はアヌを抱いたソニアの方だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥‥‥
「何言っているのよワサン!あたしよ!忘れたの?」
「あたしよ?」
「僕だよ?」
『!!』
ソニアの頭部半分がソニックに変わり、右半分が赤毛のソニア、左半分が水色の髪色のソニックになっている。
「お前一体何者だ?!」
「だから言っているじゃないか。わたしはソニックだって」
スノウ達は戦闘の構えをとった。
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