<ハノキア踏査編> 65.隠されていた過去
<レヴルストラ以外の主な登場人物>
【シュカレトゥーダ・ロロンガイア】
ティフェレトのドワーフ王国ロロンガ・ルザの王家ロロンガイア家の次男の王子。王位継承第2位にあたる存在。兄エンテン・ロロンガイアにロロンガ・ルザを託し、自身はティフェレトに残ってレジスタンスを率いてグレイから人々を守っている。
65.隠されていた過去
スノウは反射的に扉を開けながら言った。
目の前に立っていたのは端正な顔でドワーフ特有の髭はなく清潔感ある容姿であったが、目元がゴーザにそっくりであり、シュカレトゥーダが言っているゴーザと兄弟であるという言葉は素直に信じることが出来た。
「入らせて頂きます」
ガチャ‥‥
シュカレトゥーダはゆっくりと、静かに扉を閉めながら奥のソファに座って良いかをジェスチャーで示した。
あまりの自然で美しい所作にスノウは知らぬ間に頷き、シュカレトゥーダと向かい合ってソファに座っていた。
「驚いていますよね。突然ゴーザの兄が女王の部屋に貴方を訪ねて来るなんて」
「そ、そうですよ!何故おれがここにいると?いや、貴方は一体何者ですか?ゴーザの兄ってことはロロンガイアの王子‥‥王家の血筋だからロロンガ・ルザとの国交からこの城にいてもおかしくはないはずですけど‥‥」
「フフフ‥‥ちょうどエストレア女王と話がありましてお部屋を訪ねようとしたら涙ぐみながら走り去っていく女王が見えたので、もしやと思ったのです。あなた方が間も無く越界されるのは聞いておりましたし、女王が最も感情が揺さぶられる相手はスノウさん、貴方だと弟から聞いておりましたので」
「!‥‥そうですか‥‥」
「まぁ何にしても本日ヴィマナにお伺いして話をするつもりだったのです。その許可を貰うために女王の部屋を訪れたのですが、問題ないでしょう」
「話?」
「そうです。以前貴方がティフェレトを去った後に何があったのか。おそらくグレイアンの侵略のゴタゴタによってきちんと伝わっていないかと思っていましてね。特にロロンガ・ルザがどのようにして消えたのかなどです。そしてスメラギ氏と弟がなぜ今この世界にいないのか、についてもです」
「!‥‥それは是非聞かせてほしい‥‥えっとシュカレトゥーダ王子」
「シュカで構いません」
落ち着いた様子のシュカレトゥーダは両手の指だけを合わせながら話を始めた。
「ゴーザからあなた方のことは聞いておりました。白の塔であなた方を越界させた後、スメラギ氏、ゴーザ、そしてブロンテースは白の塔の越界のしくみを分析しました。そして越界に必要なエネルギーが何かを突き止めてそれを充填した。その時に事故が起こりました」
「事故?」
「はい。越界システムが暴走し、ゴーザが越界してしまったのです」
「!?‥‥なん‥‥だって?!」
「すぐにどこへ飛ばされたのか分析が始まりました。何故越界システムが暴走したのかについても。それから数年後、スメラギはとある発明をしました」
「とある発明?」
「ええ。映像機器です。ガラス体が捉える視界を映像として反映しているものです。でもただの映像機器ではない。未来を見通せるものでした」
「未来?!」
「ええ。スメラギ氏の言うには未来とは無数に選択肢があり、その映像機器に映し出されるものはその中の一つでしかないということでしたが、10分後を移した映像が10分後に実際に起こったため、皆それを信じました。ですが、スメラギは箝口令を敷きました。何故ならこの技術を皆が知れば誰もが欲しがり人の命さえ奪いかねないほどの代物だと考えたからです。知っていたのは、スメラギ氏、ブロンテース、ムーサ宰相、エンキ王、私の兄のエンテン王子、そして私の6名でした。我々はスメラギの意見に賛成した。未来を視ることに何も良いことがないと思ったからです」
「エスティは?そうか、宰相はサイファノスじゃなくムーサ王だったな」
「エストレア女王は王政に集中してもらうべきとしてムーサ宰相が気を遣われたのです。未来を知った女王が王政に迷いをもって臨むと不幸にしかならないと思われたのです。懸命だと思いました。実際ロロンガ・ルザは父エンキ王、エンテン王子、私、ブロンテースの4名で揉めに揉めましたから」
「何を揉めたんだ?」
「私たちはグレイアンの侵略の未来を既に見ていたのです。ロロンガ・ルザがグレイアンに破壊され、ドワーフたちが絶滅するという未来を」
「!!」
「素直に受け入れるべきというブロンテースに対し、戦うべきだとしたエンキ王、そして越界技術を使ってドワーフたちを越界させ避難するという案を提唱した兄エンテン王子で意見が割れたのです。白の塔同様にロロンガ・ルザにも越界装置がありましたから、スメラギ氏の突き止めた越界エネルギーを充填さえすれば大勢を救えると主張した兄に対し、全員を救うためには膨大なエネルギーが必要であり、そのようなエネルギーを収集することは不可能だとした父で大きく言い合いになりました。私はどちらかと言うと父の意見に賛成でしたが、ロロンガ・ルザの越界装置を徹底的に調べた兄は街のドワーフ全員を越界させるエネルギー量を計算し、装置を起動させる作戦を強行したのです。直前で私は兄と会話しました。ドワーフたちを救うにはこれしかないと言う兄に押され受け入れました。兄は王位を継ぐ立場ですから当然ドワーフたちと共に越界することになりますが、私はラザレ王国との国交を考慮し残ることを選択しました。元々、兄は王位を継ぐ重圧を背負い、私は外交を担い、弟ゴーザには我らが選べなかった自由の道へ進んでもらうと決めていましたから異論はありませんでした。そして越界装置を起動させた際、ここでも事故が起きたのです。ドワーフたちだけを越界させる計画に対し、街ごとどこかの世界へと飛ばされてしまいました」
「街ごと‥‥‥‥だから何もなかったのか‥‥」
「越界装置は謎が多い。ゴーザもロロンガ・ルザも予想外の動きで事故が起きた‥‥。スメラギ氏は白の塔の越界装置を慎重に、そして徹底的に調べたのです。そしてとある日にスメラギ氏も消えた。未来を見通せる映像機器を持って。その後、ムーサ宰相が病死したことでグレイアンの未来を知る者は私ひとりとなりました。エストレア女王に伝えるか迷っていた最中、やつらが突如現れ人々を魔物へと変えてしまったのです。密かにラザレ王宮都の王城の地下にシェルターを造っておりましたのでグレイアンの侵略が始まった際に女王や宰相に戻ったサイファノス、そしてリュラーたちと共に身を隠したので魔物化から免れたのです。その後の状況はスノウさんがご存知の通りとなっていますね」
「‥‥‥‥」
スノウは脳内で必死に情報を整理した。
(なるほど。スメラギさんがティフェレトには何もないと手紙に残したのは未来を見通す映像機器でグレイアンに支配されている未来を視たからか‥‥そのスメラギさんも消えた。おそらく越界装置を使って越界しているんだろうな。おれと同様に日本から越界したカルパに耐えられる存在だ。心配なのはゴーザだ。白の塔の装置で越界したってことは一応体は守られているはずだから、どこかで生きているはずだ‥‥)
「そんなことがあったんですね‥‥。ひとつ質問していいですか?」
「ええ、もちろんです」
「越界エネルギーはどこから‥‥いやどうやって調達したのですか?」
「実は分からないのです。スメラギ、兄エンテンとブロンテースは知っていました。弟のゴーザは知る前に事故で越界してしまった。ああ、そうか‥‥ヴィマナにも越界エネルギーが必要ですね。越界エネルギーが自分たちで精製出来ればハノキアを自由に旅することが出来ますから」
「ええ。でもスメラギさんを探せばいいんですよね。もちろんロロンガ・ルザでもいい」
「そうですね‥‥」
(おれ達の旅の目的がまたひとつ増えた。スメラギさんはおれと再び会う未来を視ているかもしれない。いや、きっと視ているはずだ。ってことは探す必要はないってことだよな‥‥。目的には加えるが自ら探さずスメラギさんに見つけてもらうのを待つ。そして越界エネルギー精製方法を得る。ロロンガ・ルザを丸ごと越界させるエネルギーを得ることが出来たんだ。ヴィマナも越界させることが可能なはずだ。スメラギさんのことだから、絶妙なタイミングで現れるに違いない。それまでおれ達は越界エネルギー充填施設を探しハノキアを踏査する」
スノウは頭の中を整理した。
「すみません。大分多くの情報をお伝えしたので混乱されているかもしれませんね。ですが、私がこの話をしたのには理由があるのです」
ドン‥
「?!」
シュカレトゥーダは突然土下座した。
「スノウさん!どうか!消えたロロンガ・ルザと弟のゴーザを探して下さい!」
「‥‥‥‥」
スノウはシュカレトゥーダの申し出に対し冷静な表情で膝をついてシュカレトゥーダを起こす。
「もちろんだ」
「!」
「ゴーザはおれ達レヴルストラの仲間だ。行方知れずになっているなら探すのは当然のことです。ロロンガ・ルザについても同じです。エンキ王には世話になっています。これからハノキアを廻り続けますが、必ず見つけると約束します。そしていつかティフェレトに戻って来た時にお伝えします」
「ありがとう‥‥ありがとう‥‥ありがとう‥‥」
シュカレトゥーダは涙を流しながらスノウに何度も礼を言った。
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