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<ハノキア踏査編> 64.ワサンの異変

64.ワサンの異変


 「オレは今半分獣人みたいな感じなんだ」

 「?!」


 ワサンから思いもよらない言葉が出てきたため、スノウは返す言葉を失うほど驚いていた。

 何故ならワサンは銀狼に獣化し戦闘力を大幅に向上させることが出来るのだが、あと1回で銀狼から元の姿に戻ることが出来ないと聞いていたからだ。

 銀狼になってしまうと今のワサンの自我は崩壊し、獣そのものへと変わる。

 凄まじい戦闘力を持った野生の牙と化すのだ。

 それが半分だけ症状として現れているということにスノウは不安を感じていた。


 「すまないな。何を言ってるか分からないだろ。ゆっくり説明したいんだが少し腹減ったみたいだ。何か食えるものはないか?」

 「あ、あぁ直ぐ持ってくるよ」


 スノウは急いで簡易的な食事を用意してワサンに提供した。

 ワサンは起き上がり自分で勢いよく食べ始めた。


 (食欲があるってことは回復しているってことだよな。取り敢えず良かったが、半分獣人ってどう言うことだ?見た目は変わってないけど。見た目が変わらず自我も保ったまま銀狼になったってことか?それともあと1回で完全に銀狼になるところが)半分で止まったってことか?)


 スノウは一心不乱に食べているワサンの姿を見ながら思考を巡らせていた。


 「ふぅ!食った!食った!」

 「一気に食くうから喉に詰まらせるんじゃないかと思ったぞ」

 「はっはっは!大丈夫だよ。喉がパカっと開くからな」

 「ははは、そうか‥‥?!」


 スノウは思わず驚きの表情を見せた。

 何故なら先ほど治癒魔法を施しても治らなかった傷が回復しかけているからだ。


 「あぁこれか。驚いたろ。回復魔法では回復しないのに飯食ったら回復し始めた。オレがさっき半分獣人になったって言うのはこう言う意味だ。いや、獣人ってのは合ってないな。オレの本来の姿の銀狼に近付いてしまったって感じだ」

 「どう言う意味だよ。見た目変わってないぞ?」

 「ああ。元々オレは銀狼の顔だったろ?この姿になったのはカマエルの魔法か何かのおかげで、今ものその効力が強く出ているんだと思う。あの頃は銀狼の力が人型になったことで大部分が失われた感じだったんだ。そもそも記憶がないから、本来の力を引き出して獣になった時の状態と比較してって意味だけどな。だが今は違う。もっと銀狼に近付いた感覚なんだ。カマエルの力でこの姿だが、それがなかったら四つ足で歩いている状態だったかもしれないくらいオレが銀狼に近付いた感覚なんだよ」

 「隕石船の中であの力を使ったってことか?!」

 「フフフ‥‥まぁな」

 「無茶すんんじゃねぇよワサン!」

 「悪ぃ‥‥。まぁでも怒るなって。オレはこれが運命のような気がするんだよ」

 「運命?」

 「ああ。レヴルストラは強くなった。スノウ、お前は言うまでもないよな。シアも戦闘力はバケモノだし、半神の2人は異常な強さだ。特にシルゼヴァは底知れない強さだ。そこに天使のエルティエルや魔王のアリオクが加わり、負の情念を得たホムンクルスのルナリもいる。シンザは炎魔法と弓矢に長けているうえ潜入調査が出来るだろ。ソニックとソニアは音魔法で凄まじい火力を持っていて、特にソニックはレヴルストラとの副リーダーだ。オレだけが何も持っていないんだよ」

 「そんなことないぞワサンお前は‥」

 「いや慰めはいらないぞスノウ。オレは自分の実力を分かっているつもりだ。素早さこそあるが火力が不足していて決定打に欠ける。今回の大量のグレイアンどもを相手にしてよく分かった。一撃で倒す爪が無ければ相手の数は減らせず疲弊して素早さを失う。魔法も皆のように得意じゃない。肉体強化系しか使えないようなもんだしな。だから力が必要なんだ。どんな相手でも一撃で倒す爪がな」

 「それが銀狼の力だって言うのか?」

 「そうだ」

 「だがそれじゃぁ自我を失うんだろ?!そんなのは認められないぞワサン!」

 「大丈夫だスノウ。運命を感じたと言ったろ?オレは隕石船の中でグレイアンたちに囲まれた。万事休すって状態だ。どうせ逃げられない状態で死ぬなら、スノウが逃げる道を確保するためにオレは全てを捨てる方がいいと思ったんだよ。そしてオレが獣化する時に何かが起こった。完全に銀狼になってしまう直前に何かのストッパーが外れたような感覚になったんだ。以前獣化した際とは違う感覚だよ。あぁ、これが完全に銀狼になることかとも思ったんだが違った。人である認識もあるし銀狼である感覚もある。こんな状態になったのはカマエルの力か、何か別の力が働いたか。何れにせよ自分が銀狼という存在に変わるのではなく、銀狼と混じり合う感覚になったんだよ」

 「それってつまり、自我を失うことなく銀狼の力を得たってことか?」

 「完全じゃない。銀狼の力を完全に使いこなせるわけじゃないがかなり戦闘力が上がった感覚がある」

 「そうか‥‥信じよう。だが獣化は2度とやるな。次こそ戻れなくなる気がする」

 「分かってる。既に回復魔法が効かなくなっている。これは魔法耐性が格段に上がったんだと思う。良くも悪くもな。完全に銀狼になったら魔法はほぼ効かないくらいの耐性があるんだと思うんだ。だから銀狼化は進んでいるが完全じゃない」

 「魔法耐性強化はいいが、回復魔法を受け付けないとなると厄介だぞ」

 「食ったら治る。さっき見たろ?戦闘中に優雅に食事ってわけにはいかないが、治す手段はあるわけだ。心配はいらないぜ」

 「全く。慎重だった性格はどこに行ってしまったんだか」

 「ははは。まぁ今のレヴルストラの面々みたいな濃すぎる奴らといたら慎重でいることがバカバカしくなるってもんだぜ」

 「確かにな」


 それから1時間ほど2人は会話していた。

 スノウはワサンが元気になったのを確認できホッとしていた。


・・・・・


ーー翌朝ーー


 皆会議室に集まっており、スノウが皆に向かって今後の予定を説明し始めた。


 「予定通り本日予定通りマルクトへ越界する。出発の準備は整えているようだから安心しているが何かやり残したことがあれば午前中に済ませておいてくれ」

 「1番やらなきゃならねぇことがあんのはスノウ、お前じゃねぇのか?」

 「‥‥‥‥‥」


 ヘラクレスの言葉にスノウは頭をかきながら苦笑いしていた。


 「と、兎に角遅れることの無いように頼むよ」

 『おう』


 スノウはヘラクレスをひと睨みしながらリュクスに転送を指示してヴィマナから外へ出た。


 (今度ばかりはサヨナラも言わずに行くのはマズイよな‥‥)


 スノウはエストレアがいるラザレ王宮都の城へと向かった。


・・・・・


 ヒュゥゥン‥‥スタ‥‥


 スノウは女王の部屋のテラスに降り立った。

 窓から中を覗くと部屋は空だった。


 「またこんなところから入ろうとして!」

 「!」


 背後から聞こえる声の方へ振り向くとそこにはエストレアがいた。


 「びっくりさせんなよ‥‥」

 「はぁ?!あんたがこんなところから不躾に入ってくるのが悪いの!」

 「まぁそうかもだけど‥‥でも何で気づかなかったんだ?気配を殺す魔法でも覚えたか?」

 「アホなの?テラスは別の部屋とも繋がっていてスノウが飛んでくるのが見えたから来ただけよ。全く‥‥」


 呆れたような表情のエストレアだったがどこか寂しそうな仕草が感じられた。


 「それで何の用?」

 「い、いや、そろそろ出発しようと思ってさ。挨拶しようかと‥‥」

 「はぁ?!挨拶?!挨拶って言ったの?!」


 ボゴォォォン!!


 「ふぐ!」


 エストレアはいきなりスノウの鳩尾に強烈なパンチを喰らわせた。


 「もう知らない!」


 バタン!!


 エストレアは扉を思い切り閉めて部屋から出ていってしまった。


 「やっちまったな‥‥」

 (さて、どうするか‥‥このまま越界してしまったら前回と同じ‥‥いや、前回より最悪な状況のまま別れることになる‥‥)

 「はぁ‥‥」


 幾つもの戦いの修羅場を潜ってきたスノウにとって唯一苦手な行為が女性との別離であり、恋愛経験のほぼないスノウにとって女心など分かるはずもなく、なすすべ無しという状況なのだ。

 ネツァクで共に過ごしたリリアラには恋愛感情を抱いていたことは自分自身でも理解していた。だが、死別してしまったことで誰かを愛するという感情の動きにいつしかブレーキをかけてしまうようになっており、相手の心に寄り添うということが出来なくなっているのだ。

 その上、生粋の鈍感なスノウにとってエストレアの好意が恋愛感情であることに気づけるわけもなく、苦楽を共にした仲間としての関係に少しだけ得体の知れない感情が上乗せされているモヤモヤがあった。


 コンコン‥‥


 「?」


 突然ノック音が聞こえた。

 

 (やば!おれがここにいるってのはバレたらマズいんじゃないか?)

 「スノウさん、いらっしゃいますね?」

 「?!‥‥」

 (バレてるぅぅ!!)

 「ご安心下さい。不法侵入などとは言いません。少しお話しがあって来ました」

 「あ、貴方は誰ですか?」

 「私はシュカレトゥーダ・ロロンガイア。ゴーザノルの兄です」

 「!!」


 ガタン!


 「ゴーザの?!」


 スノウは突然の見知らぬ人物の訪問と懐かしい名前が飛び出てきたことで驚きを隠せずにいた。



いつも読んで頂きありがとうございます。

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