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<ハノキア踏査編> 60.次の目的地

60.次の目的地


 レヴルストラの面々は一旦解散し、各々次の作戦に向けて準備を整える時間をとることになった。

 スノウは自室で航海日誌に旅の目的を記し始めた。

 多くの登場人物や勢力が錯綜し、どの勢力が何を目的に行動し、レヴルストラはどの勢力にどう対処すべきか、または対処すべきでないのかを整理する必要があると思ったからだ。


 (出発する前にティフェレトでもやる事はあるはずだ。だが長居はしていられない。こうしている間にもディアボロスが何かを仕掛けているかもしれないし、グレイアンが侵略しているかもしれない)


 スノウが日誌に書き記したのは8つだった。


 1.オルダマトラの捜索

 2.ハノキア各世界の越界エネルギー充填施設の把握

 3. グレイアンへの対処(隕石船の破壊、その他)

 4.隕石が落ちたとされるゲブラー、マルクトの探索

  (グレイアンの関与の有無)

 5.ヘクトル、ニル・ゼント、カエーサルの消息と属している勢力の調査

  (ニルヴァーナ、三足烏含む)

 6.九獣神を正しい配置へ

 7.スメラギの消息を辿る

 8. ヴィマナの本来の飛行能力の獲得


 (オルダマトラは言うまでもなく最優先だな。あれを追う形でハノキアの各世界の越界エネルギー充填施設も明らかにしていくミッションがなされることになる。そしてグレイアンだ。エル、いやミカエルの話が本当ならゲブラーとマルクトに行かなければならない。ゲブラーのナラカは確かに隕石で形成された巨大なホールだと聞いた記憶がある。ヤマラージャが幽閉されていたとされるのが第八層だから一応全て探索されているってことか。それでグレイアンの形跡が無かったと言う事はグレイアンとは無関係の隕石である可能性もあるか‥‥)


 スノウは頭の中に浮かんだ内容を日誌に書き込んだ。


 (マルクトは2026年に大災害が起こるって話だったな。それが隕石の衝突。おれがネツァクにいた時に飛んだ2031年には無かった歴史だ。一体どうなっているんだ?)


 スノウは椅子に寄りかかるようにして天井を見上げた。


 (おれが八田野君から聞いた話の情報が少し間違っていたのか‥‥それともミカエルが嘘をついているのか‥‥。確か天使は嘘が付けないとエルが言っていたな。嘘を付くには堕天する必要があるとか‥‥それもイマイチ信用ならないが、真実だとするとミカエルの話は本当だと言うことになる。今この時間軸でマルクトに行ったら何年に越界することになるんだ?)


 世界線の分岐をイメージして整理しようとしたが整理しきれず一旦マルクトにはそのまま行ってみることにした。


 (あくまでとある時間の視点で見た時の過去として隕石の衝突があったと言う話だからこれから起こる隕石の衝突もあるだろう。他の世界にも行き状況を確認する必要がある。優先すべきはゲブラーとマルクトだが、それ以外はオルダマトラの探索の中で確認することにするか)


 スノウはコップに注がれている水を飲んだ。


 (そしてヘクトルたちか。あいつら一体何者なんだ?ニルヴァーナとの繋がり、そして三足烏(サンズウー)との繋がり。ニトロの話では、ニルヴァーナ、三足烏(サンズウー)は恐ろしい組織だと聞いた。ヘクトルたちとの繋がりは無いように感じるが、それも調べ確定させなければならない。このハノキアのどこかにやつらの本拠地があるはずだ。それを探すというのも必要か。少なくともこれまで辿ったホドやゲブラー、ケテル、ケセド、ネツァク、そしてティフェレトには無さそうだ。おれ達が訪れていない世界はビナー、コクマ、イェソドか。世界の配置からすればティフェレトから行けるのはビナー、マルクトのふたつ‥‥)


 スノウはふたたび水を飲んだと、コップの中の水を眺め始めた。


 「‥‥‥‥」

 (水‥‥。この水に自我が芽生えたってのか?いや、元々自我があったのかもしれない。それにAI技術が融合しただけなのかも。‥‥グレイアンの意識の水も、このコップの中の水も。おれ達は普段自我のある水を体内に取り込んでいるということなのかもしれない‥‥だとしたら自分の精神も少なからず影響を受けるだろうな‥‥)


 「水‥‥」


 スノウは何かを決めたのか、その表情は険しいものから普段のそれに変わった。

 そして天井を見上げながらゆっくりと睡魔に身を委ねた。


 ・・・・・


 ――翌日――


 スノウの招集でふたたび会議が開かれた。

 ソニック、ソニアは体調がほぼ全回復したため会議に参加している。

 シンザも特に体に異常がないため会議に参加しているが、唯一ワサンだけは回復が思うよに進まないのか、未だ医務室で療養している状態だった。


 「どうした?昨日会議したばっかりじゃねぇか。会議ってのはそうそう何度もするもんじゃねぇと思うけどな」


 ヘラクレスが腕を組みながら少し不満げに言った。


 「すまない。隕石船からティフェレトを守り切るのは変わらない。今日集まってもらったのは、その後のことについてだ」

 『!』


 その後のこと、つまり次の越界先についてであることは皆すぐに理解できた。


 「おれ達はティフェレトからマルクトに越界する」

 「マルクト?」

 「それってスノウが元々いた世界ですよね?」

 「そうだソニック。マルクトはおれが初めて越界する前にいた世界だ。ネツァクに飛ばされた時、皆と逸れて過ごしていた際にも一度戻っている」


 シルゼヴァが前に出て話始めた。


 「理由を聞こうか」


 スノウは軽く頷くと会議テーブルの中央にホログラムを出現させた。

 そこに現れたのはハノキアの世界配置だった。


         イェソド


         ケテル


    ネツァク     ゲブラー


  コクマ    マルクト    ホド


     ケセド     ティフェレト


         ビナー


 「理由はふたつ。ひとつはティフェレトから越界できる選択肢のひとつだからだ。ティフェレトから越界するのに近い世界はマルクトとビナー。本来なら行ったことのない世界に行って探索するのがいいはずだ。だが、ミカエルの話ではグレイアンかもしれない隕石の落下があった世界はティフェレト以外ではゲブラーとマルクトだ。マルクトに行けばその次、ゲブラーに行ける。越界エネルギー充填施設が見つからない場合、最悪ティフェレトに帰還も可能だ」

 「なるほど。合理的な考え方だな。それでもう一つの理由は何だ?」

 「ああ。これはおれの直感なんだが、水だ」

 「水?」

 「ああ」


 スノウは目の前にある水が注がれたガラスのコップを手に持って皆に示した。


 「隕石船は最初彗星でそこに存在した水に自我が芽生えたとアヌは言った。ビナーは分からないが、マルクトは世界の規模としてはこれまでの世界とは比べ物にならないほど大きい。そしてその世界の7割が水なんだ。もし隕石が落ちて、そこにグレイアン本体の自我の水が溶け込んだとしたら恐ろしいことになると思わないか?」

 『!!』


 シルゼヴァとアリオク、ルナリ、フランシア以外は皆驚きの表情を見せた。


 「おいおい、マジかよ。マルクトじゃぁ俺たちが飲んでるこの水もグレイアンの自我が入っているって感じになるぜ?」

 「そうだ。そしてマルクトの人間の数は約80億だ」

 「80億?!」


 ヘラクレスは目を丸くして驚いている。


 「仮に80億人にグレイアンの自我が入り込んだ水が供給され、一人ひとりに入り込んだとしたらどうなる?ティフェレトで行ったような魔物化を仕掛けたらどうなると思う?」

 『‥‥‥‥』


 全員言葉を失ってしまった。


 「おれはミカエルの言った2026年に隕石が落ちる大災害が本当にあったのかを知りたい。その後、水がどう変わったのか、変わらなかったのかもな」

 「80億もの魔力結晶があったら何ができるんだろうか」


 “僕が答えてやろう”


 フランシアに抱かれているアヌが話し始めた。


 “その前にソニック、ソニアに代われ。僕はソニアに抱かれながら話がしたいのだ”


 皆アヌの言葉に目を見合わせて驚いた。

 ソニックは素直にソニアに代わり、ソニアはアヌを抱き上げた。


 「本当に可愛いわね、アヌ」

 “貴様、僕を愚弄するのだなソニア。だが許してやろう”

 「フフフ、さぁ話してアヌ」

 “ふん、言われずとも話す。スノウの言う通りマルクトには80億ものニンゲンが住んでいる。そして世界の所々に亞人も約1億、魔物も約2000ほど存在している。ニンゲンとはゴルニアのように増える”

 「ゴルニアってのは何だ?」


 ヘラクレスが割って入った。


 “貴様、僕が話をしているのに割って入るのか”


 ヒュゥン‥


 ヘラクレスは一瞬のうちに足が8本、鋭い牙が無数に生えている頭部と蠍の尾のような鋭い鉤爪上の針がついた不気味な哺乳類のような生き物に変えられた。


 「ほう、これがゴルニアか」

 「キィ‥キィィィ!!キィキィ!!」


 シルゼヴァは興味津々といった表情で不気味な生き物へと変えられたヘラクレスを見た。


 “そうだ。無知者シルゼヴァ。ゴルニアは別星系の星に住む支配的種族だ。異常なほどの食欲で生物だけでなく鉱物なども好んで食べる。だがそれ以上の異常性は繁殖力だ。一度に100以上の種を残す。その凶暴性から捕食者もない。つまり生物は全てゴルニアの餌だ。そして星そのものも喰らう。唯一無害なのは排泄物が浄化された鉱物の粒子、つまり土に変換されるということだ。故に星そのものが無くなることはない。だが、ゴルニア以外の生物は間違いなく消え去る。ゴルニアは共食いもするから星の支配者になるとその数は一定以上は増えない”

 「なるほど。まるでニンゲンのようだな」


 ゴジゴジゴジ‥‥


 「ああ!ヘラクレスさんだったやつ!床食ってますよ!」

 「むむ、ゴルニアめ、俺のヴィマナを喰うとは許せんな。殺してやろう」

 「ちょっと!だめですよシルゼヴァさん!これヘラクレスさんなんですから!」

 「だから何だ?俺のヴィマナを破壊しようとするやつは誰であろうと殺す」


 スノウはため息をついてアヌを見た。


 「アヌ、すまないがヘラクレスを元に戻してやってくれ。あいつも悪気があって言ったんじゃないんだ。お前の話が面白くてつい質問しただけでさ」

  “無知者スノウ。僕の話が面白いと言ったのか?それは悪くない感情表現だ。いいだろう、元に戻してやろう”


 ギュィン‥‥

 ズン‥


 ゴルニアはヘラクレスに戻った。


 「おえぇぇぇぇ」


 ヘラクレスは口の中にある床を噛み砕いたものを吐き出した。

 その表情は苦悶そのものだった。


 「くそ!マジでクソだ!!」


 ヘラクレスは怒りを抑えきれないといった様子だったが、その矛先をアヌには絶対に向けられないと冷静になりながら怒りを露わにした。


 「それで80億ものニンゲンが魔力結晶化したらグレイアンはどんな力を得るのだ?」

 “イヌトを滅ぼすことは可能だろう。正確には別宇宙と繋ぐあらゆるゲートを破壊しイヌトが侵入できないようにするのだがな”

 「イヌトは倒せないのか?」


 スノウが質問した。


 “倒す?どういう意味だ?昨日説明したはずだぞ。誰かが認識している限りその存在を消し去ることは不可能だと”

 「そうか‥‥」


 スノウは何かを思い出しているような表情を見せた。


 「となれば尚更マルクトだ。マルクトがグレイアンに侵略され、人間たちが魔物化、魔力結晶化される前に阻止する。もしマルクトにオルダマトラがいる場合はそっちも対処する。ヘクトルやニル・ゼントが現れても対処だ」

 「当然だな。俺たちは全てに対処する。そういう運命だからこそこれだけのメンツが揃っているのだからな」


 アリオクが腕を組みながら言った。


 「同感だ。だが飛行エネルギーの入手も忘れるな。ヴィマナが自由に空を飛ぶことが出来れば行動範囲が格段に広がる。飛行できるオルダマトラにも対抗することが出来る。忘れるなよスノウ」

 「ああ。出発は三日後にする。それまでみんな準備を整えておいてくれ」

 『おう!』


 メンバーは解散した。


 ・・・・・


 ――その日の夜――


 エストレアはラザレ王宮都へ帰還した。

 魔物化した配下の者たち、騎士や兵召使たちが戻ってきており、女王エストレアの帰還を皆心から喜んだ。

 ティフェレトを2度も救った英雄である女王に王宮都に住む国民も感謝とともに大歓声を送った。

 街では祭りが開催され、皆人間に戻れた嬉しさと家族と再会できた喜びで世が明けても祭りは終わらなかった。


 「随分と賑やかだな」


 スノウがエストレアの部屋にやってきた。


 「スノウ!ってか、何で窓から入ってくるのよ!普通に城の入り口から入って部屋をノックしてよね!」

 「別にいいじゃないか。っていうか衛兵とかに説明して城の中に入れてもらう大変なんだぜ?チェックも面倒だしな」

 「だからって!って言っても無駄か‥‥まぁいいわ。それで今日はどうしたの?何か用が合ったんでしょう?」

 「ああ。おれ達レヴスルトラは予定を1日早めて、マルクトに向かって予定通り出発する」

 「!!」


 エストレアは驚いた表情を見せた。

 同時にどこか寂しそうな表情も見てとれた。

 それを感じ取れないスノウはそのまま話を続ける。


 「宇宙(そら)にあるはずの隕石船が消えていることが分かったんだ。おれも確認した。限界まで飛行上昇し、スメラギスコープで隈なく観た。勿論おれだけじゃない。シア、シルゼヴァ、アリオク、ルナリ、ソニアといった自由に飛行出来るメンバーでも確認済みだ。これはつまりティフェレトから隕石船が去ったことを意味する。ティフェレトは安心だってことだ。となれば、おれ達がここに留まる理由がないわけだ」

 「そ、そうだよね‥‥」


 エストレアは少し沈んだ表情で力なく言った。


 「ん?どうした?」

 「ううん‥」


 コンコン!


 「女王様!おやすみのところ申し訳ございません!至急のご報告が御座います!」


 執事の慌てたような物言いにエストレアはスノウの顔を見たあとドアを開けた。


 「どうしたの?」

 「反乱です!ノーンザーレで反乱が起きたのです!」

 「どういうこと?!もしかしてキタラ聖教会?!」

 「いえ、今やキタラ聖教会は王宮に協力的な宗教団体です!」

 「では誰が反乱を?!」

 「それがよく分からないのですが、人類議会(ヒューパラメンタル)とかいう過激団体らしいのです!」

 「何だって?!」


 スノウが声をあげた。


 「知っているのスノウ?!」

 「ああ‥‥」


 スノウは目を見開いて驚きの表情を見せた。




いつも読んで頂きありがとう御座います。

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