<ハノキア踏査編> 56.偽装
56.偽装
「あれがロロンガの隕石?」
シンザとケリーはロロンガ・ルザ近くの隕石に到着し、上空から様子を窺っていた。
「たぶんそうだね。まだグレイたちは出てきていないのを見ると、魔物化した人たちはまだここには来ていないんだろうね」
「もう壊す?」
「壊しちゃおう!ルナリたちももうメーンザーレの隕石に到着して行動を起こしているかもしれないからね。向こうの方が距離が短いし、光の塊が向かったのがメーンザーレの方だから既にグレイと戦闘になっているかもしれない」
「分かったよ!じゃぁ行くよ!」
シンザを背負っているケリーは隕石に向かって急降下し始めた。
・・・・・
一方ルナリとエルティエルは既にメーンザーレの西20キロ地点にある隕石に到着しており、戦闘を繰り広げていた。
戦闘といっても攻撃はしておらず、ルナリの負の情念の触手でグレイたちと元人族の魔物たちを拘束した状態だった。
「エルティエル、来るぞ!」
「ええ!」
隕石の内部から後続のグレイたちが現れた。
魔物を攻撃し、特殊な方法で絶命させて魔力結晶化させるために出現したグレイはルナリやエルティエルを無視し魔物たちへの攻撃を始めようとしていた。
「まるでルナリの拘束を喜んでいるみたいね」
「実際好都合とでも思っているだろう。エルティエル、隕石の変化に注意を向けつつ後続のグレイどもを殲滅出来るか?」
「勿論よ」
エルティエルは剣を抜き、グレイたちを攻撃し始めた。
ズバババン!!
エルティエルはグレイを破壊するが、コアは破壊していないため、コアが隕石に戻りさらにグレイと化して現れてくる循環状態となっていた。
それを見ていたルナリは安心した表情だった。
(シンザとケリーが隕石を破壊するまで時間稼ぎとしてコアは破壊せず、魔物への攻撃を防ぐという体力を浪費する戦いがしばらく続くが、さすが天使のエルティエルだ。グレイの急所を効率的に突いて体力の消耗を最小限に抑えている。だが、長くは持つまい。頼んだぞシンザ)
シンザとケリーがロロンガ・ルザの隕石を破壊した後、合図が飛ぶことになっており、その合図を確認でき次第メーンザーレの隕石を粉微塵にする攻撃を加えてロアース山麓にあった巨大隕石と同等の中核隕石化を阻止する作戦であった。
メーンザーレの隕石は既にグコンレンの隕石、メルセン平原の隕石を取り込んだ状態となっている。
だが、ロロンガ・ルザの隕石を取り込めないとなれば、ティフェレト全土を対象とした魔物の魔力結晶化を行う破壊波は阻止できる。
とはいえ、現在のメーンザーレの隕石だけでも破壊波が発せられればティフェレトの半分以上の魔物が魔力結晶化することになるのは容易に想像ができていた。
これはメーンザーレの隕石で破壊波が発せられないように足止めしつつロロンガ・ルザの隕石が破壊され次第すぐ様メーンザーレの隕石を破壊しティフェレトの全ての隕石を粉微塵に破壊し元人族の魔物たちが魔力結晶化させられないようにするという時間を絶妙に繋ぐ作戦なのだ。
そのため、ルナリとエルティエルは一瞬で隕石を破壊できるようにその機会を逃さぬよう窺いつつ、時間稼ぎをしていた。
ズバババババン!!
かなりの数のグレイを破壊しているエルティエルはルナリに目で合図を送った。
(少し遅すぎない?ケリーの飛行スピードならとっくにロロンガの隕石に到着して隕石を破壊出来ている頃だわ)
ルナリも目で反応する。
(我も気にしている。やはり遅すぎるか‥‥だが、取り敢えず継続してグレイどもの破壊に専念するのだ)
ルナリの合図にエルティエルは頷いた。
(エルティエルの言う通り少し時間がかかり過ぎている。グレイアンが出てきたのか?だが、ロロンガの隕石は中規模の大きさだ。ロアース山並みの昆虫グレイアンが出てくるとは思えぬ。それにローアス山並みの昆虫グレイアンが出てくるとなれば、既にこれまでに登場していてもおかしくはない。何故だ‥‥シンザがグレイに破れるなど確率計算するまでもなくあり得ないことだ‥‥何かを見落としているのか‥‥)
ルナリはこれまでの状況を思い返していた。
(グコンレンの隕石が破壊波を放ち大量の魔力結晶を回収した。せっかく回収した魔力結晶を使って我らに何かをするとは思えぬ。そもそも用途があったからこそ手の込んだ人族の魔物化などをやっていた。それだけの魔力結晶の数が必要だからだ。それを減らしてまで何かをするとは思えぬ。‥‥であれば何を‥‥)
ルナリの脳裏にロアース山麓の巨大隕石のもとへと飛んでいったように見えたグコンレンの隕石が方向を変えメルセン平原の隕石に向かって飛んでいった光景が浮かんできた。
(確かにロアース山麓に向かっていた。だが完全破壊されていたためにメルセン平原に方向を変えた‥‥‥いや、偽装?!我らを騙すためにとった偽装なのではないのか?)
ルナリは急ぎエルティエルに目で指示を出した。
(隕石を破るのだ!)
「?!」
予想だにしない突然に指示に一瞬戸惑ったエルティエルだったが、すぐ様行動を変えて隕石に剣を振り下ろした。
ガキィィィィン!!
隕石が真っ二つに破れた。
(なんだろう‥‥変な感触だわ‥‥これがルナリの言っていた隕石が斬られ破れたと思わせるための偽装‥‥そう言われれば納得の感触!)
破れた断面にルナリの触手が触れる。
「!!」
ルナリの表情が驚愕のそれへと変わった。
(偽装だ!メーンザーレの隕石は小規模!小規模のグコンレンとメルセン平原の隕石を取り込んで3倍の密度となっていなければならない!だが!)
ルナリが触手で触れた隕石の断面から確認できた密度は3倍以上とは言えない、寧ろ他の隕石を取り込んですらいないものだった。
ルナリはエルティエルを見た。
その表情と目配せでエルティエルは全てを理解した。
「エルティエル!隕石を完全破壊だ!」
「承知!」
エルティエルは凄まじい速さで隕石に剣撃を加える。
ズババババババァァァン!!
砂煙が立ちのぼり隕石が隠れてしまう中エルティエルの剣が途中で止まっていた。
隕石が斬れていれば剣は地面まで振り下ろされているはずであったが、その剣は隕石がある表面で止まっていたのだ。
「そう簡単には斬らせてくれないってわけね」
砂埃が流されていくにつれ、剣先が露わになっていく。
それに合わせて剣に何かがぶつかっているのが見えてきた。
「昆虫グレイアン!」
隕石から鎌でエルティエルの剣を防いでいる昆虫グレイアンがせり出ていたのだ。
ガキキキキキキィィン!!
昆虫グレイアンは凄まじい鎌攻撃のラッシュを繰り出し、エルティエルはそれを剣で全て受け切った。
だが、その奥でグレイたちが続々と登場し、ルナリが触手で拘束している魔物たちを特殊な攻撃で魔力結晶化しようと行動を起こしていた。
(なんと言うことだ!こちらは囮だった!実際にグコンレンとメルセン平原の隕石の合体した光の塊が飛んでいったのはロロンガ・ルザの隕石だったのだ!グコンレンの隕石が光の塊となってロアース山麓に飛び、途中で進路を変えてメルセン平原に向かったのは態とそのような進路をとったのだ。粉々に破壊されていなければ再生がきくと理解させ、ロロンガの隕石ではなくメーンザーレの隕石を吸収すると思わせ我らを誘ったのだ。メーンザーレの方がロロンガ・ルザよりも近かった上、時間との勝負で周囲の魔物を魔力結晶化してしまえば、グレイの勝利が確定してしまうと思わせ、だが実際にはロロンガ・ルザの隕石を吸収しに行ったのだ。おそらく我らの戦力を観察し、シンザとケリーの方が戦力が低いと判断したのだろう。そして光の塊は進路を急遽変えてロロンガ・ルザの隕石へと向かった!‥‥これは我の誤った判断だ‥‥)
「シンザ!!」
ルナリは魔物たちを拘束している触手を全て振り回して、魔物たちを出来るだけ遠くへと飛ばした。
同時に隕石に向かって触手を放ち攻撃を仕掛けた。
ガキィィン!!
昆虫グレイアンがエルティエルに攻撃を仕掛けつつルナリの触手攻撃を防いだ。
(隕石を破壊するのが先だ。破壊波を何度も放たれれば強まっていく波のように吹き飛ばした魔物たちも影響を受け魔力結晶化してしまうかもしれない)
「エルティエル!」
ルナリはエルティエルの名を叫び昆虫グレイアンを遠ざけるよう目で合図した。
「簡単に言うわね!」
エルティエルは真横の空間に別次元のゲートを出現させ中から鞭を取り出した。
「天使の武器庫から勝手に武器を持ち出したのがバレたら私天使ではいられなくなるかもね!」
バシュゥゥゥン‥シュルルン!!
「よし!」
エルティエルは鞭を昆虫グレイアンに巻きつけて思い切り引っ張った。
ギュュゥゥゥン!
昆虫グレイアンは鞭で引っ張られ隕石から徐々に引き離されていった。
そしてエルティエルはそのまま飛行して昆虫グレイアンを空中に引き上げてさらに隕石から引き離した。
「でかしたぞエルティエル!」
ルナリは無数の負の情念の触手を背中から繰り出し、隕石に向かって放った。
触手の先は鋼鉄化し、隕石を砕ける状態となっている。
グザザザザン!!
ガッシャァ!!
グザッ!グザザン!サザン!
グワッシャ!!
隕石は大きな音と共に砕けいていった。
「キシャァァァ!!」
それを見た昆虫グレイアンは狂ったように叫び暴れ出した。
「そうなるわよね!ルナリ!」
シュン!ガシガシィ!
ルナリの触手が昆虫グレイアンを掴み拘束した。
ズバババババババン!!
そしてエルティエルは凄まじい剣撃のラッシュを繰り出し細切れ状態にした。
ボロボロボロ!
細切れになった昆虫グレイアンの残骸が地上に落ちていく。
「エルティエル!ロロンガ・ルザへ!」
「承知!」
エルティエルはすぐ様急降下しルナリを抱えると凄まじい速さでロロンガ・ルザの方へと飛んで行った。
(間に合ってくれ!)
焦る気持ちを抑えつつ凄まじい速さでしばらく飛行していくとやがてロロンガ・ルザの跡地が見えて来た。
「近いぞ!どこだ!」
ルナリはシンザとケリー、そして隕石の場所を探した。
「あそこよ!」
エルティエルが指差した先に見えたのは驚くべき光景だった。
「ケリー!シンザ!」
何と翼がちぎられ血だらけで倒れているケリーに鋭い鎌を振り下ろしている昆虫グレイアンを必死に食い止めている満身創痍のシンザがいたのだ。
昆虫グレイアンの体格は先ほどまで戦ったメーンザーレのそれより大きかった。
グググ‥‥
シンザは徐々に力尽きるかのように抑えきれなくなった鎌の刃受けつつあった。
ブシュァ‥‥
「ぐあぁ!」
シンザの方に昆虫グレイアンの鎌が突き刺ささり血が滲み出て来た。
鎌がそのまま突き刺さり続ければ間違いなく心臓に達する状態だったが、それを避ければケリーが鎌の餌食となり殺されてしまう。
「キシャァァァ!!」
昆虫グレイアンが雄叫びを上げた。
ルナリとエルティエルは急いでシンザとケリーを助けようと近づくが多勢のグレイがその行手を阻み始めた。
「邪魔だ!!」
まるで鬼神のような形相でルナリが凄まじい攻撃を繰り出しグレイたちを破壊していくが、鎌の刃はシンザに深く突き刺さっていく。
「ぐあぁぁぁ!」
あまりの痛みで叫ぶシンザ。
「‥‥‥‥」
グザァァ!!
「やめろぉ!!」
無言のまま昆虫グレイアンはシンザに致命傷を与えた。
ルナリとエルティエルの心は絶望感で満たされた。
いつも読んで頂きありがとうございます。




