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<ハノキア踏査編> 53.グレイアンの魔力結晶を得る目的の仮説

53.グレイアンの魔力結晶を得る目的の仮説


 魔物化された人族が無数の結晶に姿を変えあと、一斉に隕石に吸い込まれた。


 「我はなんと言うことをしてしまったのだ‥‥これは我の誤った判断だ‥‥」


 ルナリは驚愕の表情を見せていた。

 

 「何よこれ?!」

 「すまぬ!我の誤った判断で最悪の結果となってしまった」

 「どういうこと?!」

 「それより今からグレイを殲滅する」

 「殲滅って‥分かった。シンザ、動ける?」

 「もちろんです!」

 「行くわよ!」


 ルナリたちはグレイに攻撃をし始めた。

 3人の凄まじい攻撃によってグレイたちは徐々にその数を減らしいよいよ後1体というところまで来た時、隕石に異変が生じ始めた。

 

 ギュルルルル‥‥


 「再びグレイが来る!」

 「いや違う!今すぐ隕石を破壊だ!」


 ギュン‥バシュゥン!ギャギャァン!

 パァァン‥‥


 エルティエルが剣を出現させ隕石を一刀両断するが、すぐに修復され、隕石が光り始めた。


 「くっ!もう一度!」


 ズバァン!‥‥ ギュルルルルルルルル‥‥バシュゥゥゥン!!


隕石は切断されたがすぐに修復され、光始めた隕石のその光がロアース山の方へと飛んでいった。


 『?!』


 ルナリたちはその光を目で追うことしかできなかった。


 「一体何が起こっているの?!」

 「‥‥‥‥」


 ルナリは珍しく焦った表情を見せつつ何かを思案していた。

 ルナリはホムンクルスであり、そもそも感情を表現する機能は持ち合わせていないのだが、負の情念を取り込んだことと、レヴルストラの中で過ごしてきたことで感情が体に作用し表に出るようになったのだ。

 

 「ルナリ?」

 「これは我の推測だが、グレイどもの真の目的は人族を魔物に変えることではない。魔物に変えることはひとつの過程に過ぎない。真の目的は人族を魔物に変え、そして魔物から魔力の結晶体へと変えることだったのだ」

 「魔力の結晶体?」

 「そうだ。魔力の結晶体とはカルパにある魔力と同じ程度の濃度の魔力が結晶化されているものだと聞いたことがある。結晶体ひとつでクラス3レベルの魔法が1000回以上発動できる濃度だ。先ほど我が感じた結晶体の魔力濃度は本来の結晶体に遠く及ばない状態に思えた。おそらくは強引に魔物を魔力の結晶体に変化させた影響であろう。だがあの数だ。総数は相当な魔力量となる」

 「ちょっと待ってルナリ。グレイは何故魔力の結晶体を集めているわけ?大量の魔力を得て何をしようとしているの?」

 「分からぬ。分からぬが何をしようとしているというより、何が出来るのかを考えると恐ろしいことが想定される。想像してみるのだエルティエル。例えばこのティフェレトにカルパを流し込んだらどうなるか」

 「!!‥‥カルパの耐性がない生物は全て蒸発する‥‥!」

 「そうだ。だが総数の問題もある。先ほど言った通り、ティフェレトの全人族を魔物に変え魔力結晶化させても本来の魔力の結晶体より濃度は低い。つまり、集めた魔力結晶体を全て解放し高濃度の魔力をティフェレトに放ってもティフェレト全土の生物の蒸発は出来ない。せいぜい数分の一程度の範囲に留まるだろう。ティフェレトは既に魔物化によってかなりの人族が減らされたがそれ以外の亞人や動物、魔物などは多い。この力で全てを蒸発出来るとは思えん」

 「だったら何をしようとしているの?」

 「それを突き止める必要がある。我がグレイであればハノキア全土、いや世界のひとつだけでも蒸発させるのであれば、ティフェレト以外の世界にも隕石を落とし生物を魔物化させ魔力の結晶体の総数を増やすであろう。エルティエル。お前の天使の情報網で他の世界に隕石が落ちようとしている、もしくは落ちたといった情報を得ることは可能か?」

 「私は既に守護天使では無いから以前ほどの影響力は無いけど聞いてみる価値はあるわ」


 キィィィィン‥‥


 突如3人に耳鳴りが生じた。


 「これは!」


 エルティエルが何かに気づいたように何も無い空間を見た。


 バシュゥゥゥン‥‥


 するとそこに光の澱みが現れ、その中から何者かが現れた。


 スタ‥スタ‥


 「貴方はミカエル!」

 「ご機嫌ようエルティエル、そしてホムンクルス・ルナリと‥‥シンザ‥でしたね」


 現れたのは元ティフェレトの守護天使のミカエルだった。

 彼は現在メタトロンやカマエルと共に密かにレヴルストラを支援してくれている天使のひとりだ。


 「盗み聞きとは趣味が悪いぞ天使ミカエル」

 「ホムンクルスの分際で私に意見するのは宜しくないですね。貴方は神の造りしニンゲンが作り出したニンゲンの模造品。主の慈悲はニンゲンにこそ注がれますが模造品には皆無。本来であれば発言の前に破壊して差し上げるところですが、貴方は今レヴルストラの一員。私の一存で流れを変える干渉は許されておりません。加えて、私はスノウ・ウルスラグナに不確かな情報を与えてしまった責任があります。このティフェレトが得体の知れぬ外宇宙の存在の侵略を受けていたことを知らず、平和で変わりない姿を見せてしまいました。私はスノウ・ウルスラグナ、そしてレヴルストラにその挽回をしなければなりません。そのために私はここへ来ました」

 「貴様が何をしてくれるというのだ天使ミカエルよ」

 「貴方がたが欲した情報網の活用です。私はそこにいるエルティエルより位の高い守護天使でしたからね。今でも天使の情報網にアクセス出来るのです」

 「ふん、ならばさっさと情報を示すのだな」


 ルナリは明らかに不機嫌な表情で言った。

 自身を侮辱されたことにではなく、仲間であるエルティエルを卑下されたと感じたことで不機嫌になったのだ。


 「いいでしょう。ハノキアに生じた変化です。今のところ隕石が落下した世界はティフェレトとゲブラー、そしてマルクトです」

 「ゲブラー、マルクト。いずれもスノウが既に訪れた世界。特にマルクトはスノウが生まれ長年住んでいた世界だ。一体何があったのだ?」

 「待ってくださいミカエル!」


 エルティエルが割って入った。


 「私はついこの間ゲブラーへ越界致しました。そこでは特に隕石が落ちたような形跡はなく、普通の営みがあるように思えました。誤情報ではないのでしょうか?」

 「エルティエル。私を疑うのですか?まさか私がまた誤った情報を貴方がたに提供し混乱させようとしているとでも?」

 「いえ、私は事実を申し上げただけです。ゲブラーではガルガリエルの代わりにマイトレーヤが守護監視しておりました。あり得ないことではありますが事実です。お疑いなら今ガルガリエルが何をしているか観てみると良いでしょう?きっとシェハキムにいるはずです」

 「何を馬鹿なことを」


 ミカエルはこめかみに人差し指と中指を当てて目を閉じた。


 「‥‥‥‥なるほど。貴方の言うことは正しい。現在ガルガリエルはゲブラーの守護天使の任を忘れ第三天シェハキムでニンゲンの魂の回収を指揮していますね。彼の以前に責務を継続している。これはコングレッションの議題に挙げるべき事象。後程対応するとしましょう。そしてもうひとつ、私の申し上げたゲブラーに隕石が落ちた話ですが、これは本当です」

 「そうなのですか?」

 (さらっと自分の落ち度を流したわねミカエル)


 エルティエルは表情を変えずに思った。


 「ゲブラーに隕石が落ちた時代はかなり古い。従って隕石が落ちた形跡は分かりづらいのです」

 「落ちた場所とは?」

 「ナラカです」

 「ナラカ?あの8層にも渡る煉獄を象徴するかのような底なしの大穴ですか?!」

 「そうです。あの巨大な大穴は隕石の落下によって生まれたのです。そして隕石の落下で巻き込まれた自然現象と魔力が8つの層を形成しあのような煉獄を生んだのです」

 「‥‥‥‥」


 エルティエルは言葉を失った。

 自分の知らない過去の出来事があったことに、自分の守護天使としての役割を理解できていなかったことや本来知りうるべきことを知らないことに対する自責の念であった。本来の守護天使であったハニエルは全て知っていたのだろうと思うと自分はただの守護天使の代役でしかなかったのだと思い知らされ愕然とした。

 その姿を表情を変えずに嬉しそうに見ているミカエルは畳み掛けるように話し始めた。


 「貴方が知らないのも無理はありませんよエルティエル。フフフ‥‥本来はハニエルが担っていたネツァク守護天使の任を暫定で引き継いだだけなのですから」


 ギュルルン!

 シャキィン!


 「何の真似ですか?」


 ルナリが負の情念の触手でミカエルの全身を拘束しシンザが背後に回ってミカエルの首元に短剣を突きつけたのだ。


 「これ以上エルティエルさんを侮辱するなら僕らは許さない。天使と言えどもね」


 ゴォォォォォォ‥‥


 シンザの言葉の直後、ミカエルの意識は一瞬で別世界に飛ばされた。


 (ここはどこなのでしょうか‥‥)


 どこまでも続く闇。

 視界が妨げられているところはなくどこまでも遠くまで見渡せる一方で広がっているのは闇だけであると分かる世界だった。

 

 パァァ‥‥


 視界の先のさらに奥に緋く輝く光が見えた。


 (これは‥‥)


 ゴォォォォ‥‥


 (はっ!)


 ミカエルの視界は元の状態に戻った。


 (一体今のは‥‥あれは明らかに‥‥でも何故‥‥)


 「分かったなら返事をした方がいい。僕もルナリも貴方を壊すことを厭わない」

 「分かりました。今後はエルティエルを対等に扱うこととしましょう」


 ス‥‥‥


 シンザは静かに元の場所へ戻りルナリは触手を引いた。

 エルティエルは改めて自分がレヴルストラの一員であることを認識し誇りに思った。

 スノウ以外とは付き合いが浅い。いや寧ろほぼやり取りもないような仲であるルナリとシンザがミカエルに刃を向けた行為は驚くべきものであり、感動の念さえ覚えたのだ。


 「マルクトの隕石は?」


 エルティエルは心の動揺を抑えながら質問した。


 「マルクトはニンゲンが時点を表現するのに使っている西暦で言う2026年に隕石が落下し世界の半分以上が壊滅しています」

 「?!」


 エルティエルは驚きの表情を見せた。

 何故なら以前スノウから聞いたマルクトの状況と違ったからだ。

 スノウはネツァクでマルクトに飛ばされ2031年を経験している。

 その際嘗てのマルクトで働いていた企業の後輩に助けられ、過去の事象を聞いているのだが、2025年の大地震やパンデミックの話はあったが隕石落下の話は聞いていなかったのだ。

 世界の半分が壊滅という話であればその話が主体となっていてもおかしくはない。


 (ゲブラーの話は単に私が知らなかっただけ。でもマルクトの話は師匠から聞いた。師匠が態々嘘を言うはずもないし、実際に2031年に行った中で気づかないはずがない。前守護天使はサンダルフォン。現守護天使は確かイェグディエル。一体何が起こっているのか別途確認した方がいい。グレイがマルクト全体に対して事実を隠蔽するような記憶操作や記憶障害を引き起こしているのかも知れないから。でも取り敢えず今はティフェレトに集中した方がいいわね)


 「分かりました。それでマルクト、ゲブラーいずれもグレイによって侵略されているようなことはないのですか?」

 「ありません」

 「分かりました。ルナリ、シンザ」

 

 エルティエルは2人に目配せしながら言った。


 「ふむ。必要な情報は良くも悪くも得られたな。次なる作戦を練るぞ」


 サッ‥‥


 「それでは私は天界へと戻りましょう。レヴルストラを支援する役割を担っていますから何かあればいつでも私に助けを乞うと良いでしょう。ではごきげんよう」


 シュゥゥゥゥゥン‥‥


 ミカエルは消えた。

 それを確認したエルティエルはルナリとシンザに目配せで指示をした。

 エルティエルは自分の額をシンザの額にルナリの触手を挟んで当てた。


 シュワァァァン‥‥


 ルナリとシンザの視界が一気に変わる。

 広い草原に2人は立っていた。


 「ここは?」

 「私の精神世界よ」


 ルナリとシンザが振り向くとそこには戦士の格好をしたエルティエルが立っていた。



いつも読んで頂きありがとうございます。

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