<ハノキア踏査編> 53.第2段階
53.第2段階
隕石から続々とグレイが現れ始めた。
行列を成し、その数はすでに100を超えている。
エルティエルはそれらグレイを単独で殲滅しようと武器を構えた。
ヒュゥゥン‥スン‥
「早まるなエルティエル」
ルナリと彼女に捕まっているシンザがエルティエルの側に静かに着地した。
「ルナリ、シンザ、待ちきれなかった‥‥ってわけじゃないみたいね」
「ああ」
「妙なんだ」
「ええ。数が多すぎるわ」
「あの隕石の大きさならせいぜい30程度。これは異常事態だ。とにかく構えるのだ。グレイどもを一掃するぞ」
「ええ!」
「おう!」
ジャキン!
ルナリ、シンザ、エルティエルの3人は戦闘体勢をとった。
「?!」
グレイたちは明らかにルナリたちを認識しているにも関わらず無視して隕石の周囲を囲むようにして並んだ。
「少し離れるぞ」
グッ!
「え?!」
「おわ!」
ルナリはエルティエルとシンザを触手で捕まえると一気に後方に飛んで隕石から距離をとった。
「どうしたのよルナリ!」
「静かにするのだエルティエル。やはりグレイどもの様子が変だ。一体何をしようとしているか」
「隕石を守っているのかな‥‥」
「それか隕石にこれから何かが起こるのか」
「何にせよ、決断せねばなるまい。このままグレイどもを破壊し隕石を破壊するか、もしくはしばらく様子を見るか」
「様子を見るっていっても何か動きがあれば破壊するのよねルナリ」
「いや、状況に寄る。今グレイたちは我らを完全に無視している。敵と見做すほどでないと思っているのか、それどころではないと思っているのか。だが、この妙な動きの先でやつらが何を企んでいるのか。今ここで奴らを殲滅したらその目的を把握することができなくなる」
「確かにそうだけど!」
「静かに!」
シンザが小声で声を荒げながら言った。
『!』
隕石の周囲をグレイが囲み外側を向いて並んで立っているところに、周囲の森や林、岩陰などから魔物たちが現れ始めたのだ。
そしてどの魔物も様子がおかしかった。
目を剥き歯茎が露わになるほど怒りの表情を見せ、涎を垂らし体を小刻みに震わせながら隕石に向かってゆっくりと進んでいるのだ。
「何にあれ?」
「魔物?でもあの数異常だよ」
「調べてみよう」
ルナリは負の情念の触手を地面に這わせて魔物1体1体を調べ始めた。
「‥‥何と言うことだ」
「どうしたのルナリ?何が見えたの?」
「あの魔物たちは人族の魔物化した者だ」
「え?!」
「本当?!明らかに魔物そのものに見えるけど。これまで魔物化した人族には人族の記憶や理性が残っていて、争うのを嫌う人たちが多くて冒険者たちからは逃げる者が大多数だったわ。でもあの明らかに獰猛な様子は魔物そのものじゃない」
「間違いない。我の触手が触れた殆どの魔物は人族だ。だが、その理性や記憶はなくなりかけている。いや正確に言うなら、自分を魔物に変えたグレイたちを恨んでいる」
「それってつまり皆心まで魔物化する寸前の状態になってしまったってこと?!」
「どうやらそのようだ。だが、人族たちは最後の人としての尊厳とグレイに対する怒りをぶつけようと隕石に迫っているようなのだ」
「そしてグレイたちは魔物化した人たちの最後の抵抗に対して隕石を守るためにあんな体制を敷いているってことなのね」
「おそらくはな」
「じゃぁ魔物たちに加勢してグレイを殲滅しなきゃ!」
「待つのだシンザ」
「なんで!」
「我らはまだ魔物化した人族を元に戻す手段を持っていないのだ。そして仮に隕石自体に魔物化した人族を元に戻す鍵があるとしたら我らは感情任せに人々を元に戻す手段を失わせてしまう可能性があるのだ」
「!!」
シンザは黙ってしまった。
「彼らを元に戻す方法は師匠たちがきっと見つけてくれるわ。だから私たちには私たちの出来ることをすればいいんじゃない?」
シンザはエルティエルを見た。
「つまり、グレイたちが魔物化した人々を攻撃するならそれを防ぎ、魔物たちが隕石を破壊しようとするならそれを防ぐ。その際、魔物化した人々は殺さない。グレイはある程度は破壊してもいいってこと!」
「なるほど。魔物化した人族を守りつつ、彼らを元に戻す鍵やもしれん隕石も守る。どっちつかずの作戦に聞こえるが理にかなっているな。それであれば早速決行だ。我は隕石を守ることにする。エルティエルとシンザはグレイから魔物化した人族を守るのだ」
クイ‥
エルティエルとシンザは頷いた。
「では行くぞ!」
ギュゥゥン!!ズン!
ルナリはエルティエルとシンザを抱えたまま凄まじい勢いで跳躍しグレイたちの前に着地した。
トォォン‥‥スタ‥
ガチャ!
ルナリは跳躍し隕石の上に降り立った。
両手を広げ無数の負の情念の触手を出現させ周囲に張り巡らせた。
一方エルティエルとシンザは戦闘体勢をとった。
「うごぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぎゃはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぐるあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
方々で魔物たちの凄まじい雄叫びが轟いた。
そして次の瞬間、一斉に魔物たちがグレイに向かって襲いかかってきた。
それを見たグレイたちはレーザー銃のようなものを取り出して魔物を撃ち始めた。
『いぎぃうややぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
魔物たちの断末魔の叫びが響く。
一瞬で20体以上の魔物が倒れ動かなくなった。
「ちっ!」
ズバババババン!!
「これ以上は傷つけさせない!」
シャキン!シャキキキキキキキン!!
エルティエルとシンザは凄まじい速さでグレイたちを攻撃し、彼らが持つレーザー銃の腕ごと斬って切断した。
ボトボトと音を立てながらグレイの腕とレーザー銃が地面に落ちた。
「うごぉやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
鳥の翼が生えた2メートルほどの人型の魔物であるワーバードが号令をかけているかのように雄叫びをあげた。
それに呼応するようにして他の魔物たちが一斉に腕を切断されたグレイたちに襲いかかる。
ドドドドドドドドドォォォォォン!
ズデェェン!!
遅いかった魔物たちは空中で一斉に何かに引っ張られるようにして地面に叩きつけられた。
「今はまだ破壊させるわけにはいかんのだ。堪えてくれ」
魔物たちはルナリの負の情念の触手によって足を捕まれ地面に叩きつけられたのだ。
シュババババババン!!
ガキキキキキキキキン!!
ドババババババァァァン!!
魔物たちから隕石を守ろうとするグレイ、隕石を破壊しようとしている魔物化した人族、そして魔物を守りつつ隕石も破壊させないようにしているルナリたち。この3者の攻防はしばらく続いた。
ルナリの触手によって魔物たちの殆どが地面に張り付けられており、グレイも十数体が同様にルナリの触手によって地面に押さえ込まれていた。
「ふぅ‥‥終わったわね」
「ルナリが抑えっぱなしにしなければならなそうだね」
「いやそうでもないぞシンザよ。ふん!!」
ルナリはいきなり踏ん張るような声で叫んだ後、魔物たちとグレイたちがその場に気絶したのか力なく倒れ込んだ。
「まさか?!」
「慌てるなシンザよ。負の情念の力で魔物たちとグレイどもを痺れさせて気絶させたのだ。殺してはいない」
ルナリは念の為、それぞれに触手を這わせたままにしていたが、対象全員が気絶したため抑え込む必要がなくなった。
『!!』
ルナリたちは一瞬安堵したが、周囲を見渡して驚きの表情を見せた。
森や林、岩陰からさらに魔物が現れたのだ。
「キリがないな」
「魔物だけじゃないわ」
隕石からふたたびグレイたちがぞろぞろと現れた。
「やはりおかしいわ。あの隕石にこれだけのグレイを生成するだけのマクロニウムがあるとは思えない」
「我も同意見だ。だが、今は目の前の状況に集中だ。もう一度、作戦を繰り返すぞ」
「僕とエルティエルさんは魔物を守り、ルナリは隕石を破壊させないようにするってことだね」
「そうだ、状況開始!」
ルナリたちは再び現れた魔物とグレイに対して対処し始めた。
・・・・・
「はぁはぁはぁはぁ‥‥」
シンザとエルティエルは息を切らしている。
それもそのはずで、あれから3度同じ状況が繰り返されたのだ。
「流石に打ち止めかな」
「そうであって欲しいわ」
「同感だ。これ以上魔物とグレイを触手で抑え込み続けるのは困難になってきている」
ギュィィィィィィィィィィィィィィン!!
「うっ!」
「何?!」
「くぅ‥!!」
突如凄まじい耳鳴りが響いた。
頭が割れんばかりの頭痛も発症している。
「何よこれ?!」
「分かりません!でもこれはそうそう堪え切れるものじゃないですよ!」
ギュィィィィィ‥‥ギュルルルルルルルル‥‥シュバァァァァァァァン!!
突如隕石から激しいエネルギー波が広がった。
ルナリたちは堪らず耳を覆い、目を瞑ってうずくまった。
「ルナリ!」
「大丈夫かシンザよ!」
「大丈夫だよ!エルティエルさんは?」
「わ、私も大‥‥丈‥夫‥‥うぐぅ」
3人を凄まじい重力波が襲う。
「ぐへぇ!」
シンザはたまらず地面でうつ伏せ状態で倒れ込んでしまった。
「大丈夫かシンザよ!」
「大‥‥丈夫だ‥‥え?!」
シンザの視界に不思議なものが映っていた。
「なんだあれは?!」
魔物化した人族の体が徐々に小さくなりゴルフボール大の結晶に変わったのだ。
ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン‥‥シュシュッシュシュッシュシュシュン!!
無数の結晶が隕石に吸い込まれた。
「我はなんと言うことをしてしまったのだ‥‥これは我の誤った判断だ‥‥」
無数の結晶が隕石に吸い込まれていく光景を見ていたルナリは驚愕の表情を見せていた。
いつも読んで頂き本当にありがとうございます。




