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<ハノキア踏査編> 52.魔物化の進行

52.魔物化の進行


 ルナリ、シンザ、エルティエルの3人はグコンレンの北50km付近にある小規模隕石を目指して進んでいた。

 ラザレ王宮都を横目で見ながら通過しマルシュ大橋に差し掛かっていた。

 橋を越えればグコンレン領に入る。

 グコンレンは嘗ての力を失い、今は完全にラザレ王国の属国となっており、きっかけはエストレアが隕石落下からティフェレトを救ったことでありあれ程の大規模な災害を防ぎティフェレトを守ったエストレアの力と勇気を讃えて属国となったのだった。

 従って長年戦争を繰り返していたが、今は全く戦争は行われておらず平和そのものといった状況であった。


 「美しい世界だね」


 シンザが言った。

 ティフェレトはシンザが生まれ育ったゲブラーとは違い草木の緑と雪の白のコントラストが美しい世界だったため、シンザはティフェレトの自然に心を奪われていた。


 「そうね。私のいたネツァクもこんな感じで美しい風景だったわ。だからこそ尚更この世界を奪おうとするグレイたちは許せないって思うわ」

 「そうですね。あ‥‥魔物‥‥」


 少し離れたところにキングベアが立っていた。

 キングベアはヘルハウンドを食べた熊が突然変異して生まれたとされる魔物でその巨体は3メートルを優に超え、爪も鋼鉄と思われるほどの硬度を持つ鋭い凶器となっており、動きも機敏であることからエメラルド級冒険者以下の者たちは戦闘を避けることが多い。


 「あの魔物も魔物化させられた人なんだね」

 「そうね。早く彼らを救ってあげなければ」


 キングベアはジッとシンザの方を見ていた。

 その目は赤く光っており、体が小刻みに震えていた。

 全身の毛は逆立ち、見るからに怒りで打ち震えているように感じられた。


 「何かを訴えたいみたいな感じだね。もしかして何か聞いてほしいことでもあるのかな」


 そう言うとシンザはキングベアの方へと近づいていく。


 「シンザ、気をつけるのだ。魔物化した人ではなく元来の魔物やもしれん」

 「いや、あの手に持っている袋みたいなのは人の名残りだと思うんだ。本当の魔物だったらあんな袋を持ち歩くことなんてないよね。きっと何かを言いたいんだよ」

 「優しいのだなシンザよ。だが気をつけて損はないぞ」

 「わかってる」


 シンザゆっくりとキングベアに近づいた。

 よく見ると目は赤く光り血走った状態で口は食いしばるようにしている歯を見せながら涎を垂らしている。

 近づくにつれて唸り声も聞こえて来た。

 

 「君は人族だよね?何か伝えたいことがあるんじゃない?」


 シンザが語りかけた瞬間キングベアは体を大きく震わせた。

 そして次の瞬間。


 ガキィン!!


 鋭い鉤爪でシンザに襲いかかって来た。

 ルナリの助言もあって一応警戒していたシンザはすぐさま短刀を抜いてその鉤爪を受けた。

 凄まじい力でシンザを押さえ込もうとするキングベアの表情は野生そのもので元来の魔物のように見えた。


 「くっ‥」

 (人が魔物化したキングベアだと思ったけど、普通の魔物だったみたいだ‥‥僕もまだまだだな)

 「シンザ、大丈夫か?!」


 ルナリの心配する言葉にシンザはもう片方の手を軽くあげて問題ない旨を伝えた。


 ズババァン!!


 シンザは押さえ込んでくるキングベアの鉤爪を避ける形で脇に動き肩透かしを喰らわせ、キングベアが体勢を崩したところを横から短刀で深く斬りつけた。


 ブシュァ!


 「ぎごあぁぁ!!」


 血飛沫が飛び散り断末魔の叫びと共にキングベアはその場に崩れるようにして倒れた。

 

 ズゥン‥‥


 「ふぅ‥」


 シンザは額の汗を拭き取る動作をしながら短刀についた血を払い鞘にしまった。


 「見誤ったみたいだ。どうやら魔物化した人じゃなかったみた‥‥どうしました?」


 驚いた表情を見せているルナリとエルティエルの顔を見てシンザは目線彼女たちが見ている方向に移した。

 そこにはキングベアが倒れている筈だったが、倒れている姿は人間だった。


 「え?!」


 シンザは何が起こったのか分からず困惑したが数秒後自分が斬って捨てたキングベアが魔物化した人であったと言う結論に至り愕然とした。


 「な、何で?!」


 ググ‥‥


 倒れた人間は僅かに手を動かしていた。


 「しっかり!大丈夫ですか?!今回復魔法をかけます!」

 「あ‥り‥‥が‥‥」

 

 スン‥‥


 キングベアだった人間は静かになった。


 「な!‥‥」

 

 シンザは人を殺してしまったことに自責の念と絶望感を抱いた。


 「くそ!!」


 そこにルナリが寄り添うように立ち話し始めた。


 「シンザよ」

 「ルナリ‥‥僕は‥‥善良な人を‥‥殺めてしまった‥‥」

 「事実としてはその通りだ。だがシンザよ。このニンゲンが最期に言った言葉は分かるか?」

 「分からないよ‥‥きっと恨みの念を口にしたんじゃないかな‥‥」

 「それは違う。最期に口にした言葉は "ありがとう" であった。我の負の情念の触手がそれを完全に捉えた。このニンゲンは魔物になってだいぶ時間が経過し、精神も徐々に魔物化して自我が失われつつあったようだ。その恐怖を抱きつつも理性では制御できなくなった体は本能のままに動きシンザを襲った。襲ったのはシンザだけではないかったようだな。その苦しみから逃れたい、精神が蝕まれ自我が失われていく変わっていく恐怖から逃れたいと思っても自死は出来ない。しかし今その苦しみや恐怖から解放されニンゲンとして死を迎えることが出来たのだ。それ故の感謝の言葉だったのだシンザよ。殺めたのは事実だが、お前はあの者を救った。それもまた事実なのだ」


 「‥‥‥‥」


 シンザはルナリの言葉を噛み締めるようにして空っぽとなった人間を見ていた。


 「ありがとうルナリ。先を急がないとね。でもその前にこの人を埋葬させて欲しい」

 「もちろんだ」


 ルナリ、シンザ、エルティエルの3人は埋葬を終えると目的地に向かって出発した。

 天使であるエルティエルが祈りを捧げたこともあり、シンザの沈んでいた心はだいぶ元気になっていた。


 「しかしやはり魔物化を放置すると心まで魔物化してしまうのは本当だったのね」

 「間違いないエルティエルよ。我の触手がそれを感じ取った」

 「完全に魔物化したらティフェレトは魔物で溢れかえってしまうね。そうなったら冒険者が討伐するのかな。でもその冒険者も魔物化されてグレイが取って代わっているとしたら魔物化が放置されてしまうんじゃないかな」

 「その通りだシンザよ。それがグレイの目的なのやもしれん。それによって何を望んでいるのかまでは分からんがな」

 「何れにしても早く魔物化を治す方法を突き止めないと。きっと師匠が今頃突き止めて戻ろうとしているかもしれないわね」

 「ああ。我らも急ごう。何も起こらず我の取り越し苦労で終わるなら良いが何か恐ろしいことが起こりそうな気がするのだ」

 「分かっているわ。急ぎましょう」


・・・・・


 それから約2時間でグコンレン北50km付近に到達した。


 「この辺りの小規模隕石があるのよね。ちょっと私上空から調べてみるわ」


 エルティエルは翼を広げて飛行し始めた。

 上空から見下ろすと1kmほど先に隕石らしきものを見つけた。

 エルティエルはルナリとシンザに先に隕石を確認してくるとジェスチャーで伝えると凄まじい速さで飛んで行った。


 ギュゥゥゥン!

 スタ‥


 エルティエルは隕石から少し離れた場所に着地して確認することにした。


 「全く壊れてる気配は無いみたいね」


 隕石に破損しているような箇所は見受けられなかった。


 「ルナリとシンザが到着するまでここで様子を窺うことにしようかな。グレイが襲ってくると厄介だし」


 ゾロゾロ‥‥


 「?!」


 言った矢先に隕石からグレイが行列で登場し始めた。


 「やるしか無いわね!」


 エルティエルは戦闘体勢に入った。


いつも読んで頂きありがとうございます。

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