<ハノキア踏査編> 51.魔物という存在
51.魔物という存在
皆ソニア、ソニックとの再会を喜んだ。
特にエストレアは涙を流しながら喜んでいた。
ソニア、ソニックとはティフェレトで共に戦った仲であり、その仲間が救えた喜びもあったのだが、これで魔物化された人々を元に戻せることが確定したことが何よりも嬉しかったのだ。
女王としての責任の重圧から解放された感覚もあった。
同じくスノウも涙を流しながら喜んでいた。
スノウは単純に仲間を救えたことに対する嬉しさと安堵から感情が溢れたのだった。
「死を恐れる生はそんなに珍しいか?」
“貴様はアリオク。魔王、偽りの神に造られし道化だな”
「随分な言いようだ。だがお前が最古の神族のひとりだとすればその表現は正しいのかもしれない」
“認めるか。どうやら貴様は無知者ではないようだな”
「お褒めに預かり光栄だ」
“いい心がけだ。僕はね、貴様の言う通り死というものを知らん。だから生を喜ぶ感覚もない。在って当然だからな。それに肉体の死というものも理解出来ん。単なる物質の機能停止だ。そもそも魂ある者に限ってだが、貴様らは肉体が機能停止したあと精神体として生きる記憶がないのだろう。哀れな生き物だ”
「知らない故に生を全うする。未来に希望を見出すのだと俺は思う。希望とは人から生まれた概念だ。困難に打ち勝つための自分を奮い立たせる概念だ。悪魔は持ち得ないし神が与えたものでもない。人が生んだ未来への期待だ。神や悪魔はそれを利用しているに過ぎない。もし人が己の未来を知っているとしたら、困難に打ち勝つ気力や辛抱強さは持ち得ないだろう」
“ほう、どうやら貴様との会話は退屈せずにすみそうだ。知者アリオク”
「光栄だ。それで先ほど貴方が言っていた外宇宙から飛来した存在がやってきた目的、そしてそもそも外宇宙から飛来した存在とは何者か。それをご教示頂きたい」
“いいだろう。他の者どもを席に付かせろ。僕の話を無視することは許さない”
「!」
アリオクは急いで皆を席に付かせた。
不快音に襲われる恐怖から皆我に返り、おとなしく席についたのだ。
“では僕を解放してくれた無知者スノウと僕の話し相手となった知者アリオクに報いて色々と教えてやろう。外宇宙から飛来した存在。名前は知らぬ。興味もないからな。だが、あやつらが何者かは知っている。外宇宙に存在する吸収者。物質世界で欲を満たすために生き続ける哀れな鉱物生命体だ。文明のある星々を見つけては襲いその文明を奪い自らの力とする。生まれは小さな彗星だった。僅かな炭素と水で構成された存在だ。その水に自我が芽生えた。だがその自我は極めて本能的であり生きる欲求のみであった。そこにとある文明が作った人工知能搭載の宇宙船が不時着し、水はその力を取り込んだ。彗星は知性を得、科学を知った。そして自らの意思で方向を変えることが出来るようになった鉱物生命体は、それから様々な星々を渡り歩いてはその文明を奪い自らの糧にしていった。そこに突如電異界から ”%$*?&“ が現れた”
「今何と言った?」
「”%$*?&“だ。そうか貴様らには聞き取れない言語か。貴様らの言語で無理やり表現するなら ”イヌト” だ」
「イヌト‥‥電異界から来たイヌト‥‥」
“スノウ、貴様の記憶にあったヘギャザテやガッハーレリはイヌトの一部だ。あれは危険だ。鉱物生命体はなすすべなくイヌトの支配下となった。そしてイヌトの指示に従って様々な星を破壊し始めた”
「どんな指示なんだ?」
“全てを無に帰す、だ”
「!!‥‥全てを無に帰す‥‥」
(そうだ‥‥ヘギャザテ‥‥確かあれは触れたものを全て無の状態へと変えていた。あれはイヌトという種族なのか‥‥電異界とは何だ?!)
「アヌ、イヌトとは何なんだ?電異界とは?」
“イヌト。厄介な存在だ。宇宙に別の宇宙を生み出し、この宇宙を消し去って自分たちが唯一無二の存在になろうとしていると僕は理解している。別の宇宙というのが電異界。電異界がどのようにして生まれたかは知らん。それを突き止めようとしている最中に外宇宙から飛来した存在に捕まってしまったのだからな”
「それで隕石船にいたのか‥‥」
「イヌト、電異界、外宇宙から飛来した存在、それらのことは分かった。だが、外宇宙から飛来した存在、言うのが面倒な長さだな。グレイアンと名付けよう」
シルゼヴァが割り込んできた。
「グレイアンがティフェレトを襲った目的は何なのだ?イヌトの指示か?」
“僕は違うと考えている”
「ではやつらの目的は何だと思っているのだ?」
“魔力結晶だ”
「魔力結晶?」
“そうだ。魔力結晶とは魔物の成れの果て。カルパへと還るカルパと同様の性質を持つ結晶体だ。そしてグレイアン、あやつらには魔力を使うことが出来ない。だが、スノウ、貴様が使ったマクロニウムに魔力と魔法を込めて隕石を破壊したことによってグレイアンは魔法を知った。魔法と科学の融合によって更なる力を得ることが出来ると考えたわけだ”
「その目的は?」
“グレイアンをイヌトから解放するためだ”
『!!』
“何を驚いている。貴様らは支配されたい種族なのか?”
「いや違う。だが、圧倒的な力に歯向かうという反応をグレイアンがするとは思えなかっただけだ。合理的に行動し生存することだけを目的にしているように見えるグレイアンが、支配を嫌がる感覚を持っているとは思えないんだ。イヌトに従っていさえすれば生存し続けられるのであればそれはそれでグレイアンとしては満足なんじゃないのか?」
“ほう、貴様にしては論理的な整理だな無知者スノウ”
ガタン‥
フランシアが怒りで今にもアヌに飛びかかろうとしていたが、ワサンが必死に止める。
「あれ、殺していい?」
「ダメだ!いくらスノウに暴言吐いたってスノウが我慢しろって言ってんだから我慢しろシア」
「我慢?マスターを侮辱するものを殲滅することを我慢する理由があるの?」
「ある。それをスノウが望んでいないからだ」
「くっ‥‥」
怒りを露わにしているフランシアを無視しアヌは話を続けた。
“グレイアンは本能だけで生きているわけじゃない。高い知能があると説明したはずだ。人工知能を取り込んでいるとな。グレイアンは決して支配を受け入れているわけではない。魔法と魔力を取り込んでさらに力を得たい。これは至極当たり前の思考だろう”
「人工知能‥‥AIか」
アヌの話に聞き入っているスノウに対して苛ついた表情のシルゼヴァが会話に割り込んできた。
「話が逸れた。戻すぞ。グレイアンの目的がイヌトとやらからの支配から脱却であるなら、ティフェレトで人族を魔物化することが魔法や魔力を得ることはその目的を果たす上で必要なこととなる。何故魔物化が魔法や魔力を得ることに繋がるんだ?」
“貴様は想像力が足りないようだなシルゼヴァ”
「ちっ!」
シルゼヴァは苛立ちを必死に抑え込んだ。
“魔物の成れの果てが魔力の結晶だと言ったろう。魔力の結晶を物理法則の攻撃現象と紐付け、攻撃現象のエネルギーとする場合、物理法則で得られる攻撃効果の数倍から数十倍の火力が手に入る。グレイアンが狙っているのはそれだ。だが、肝心の魔物の数が少なかったわけだ。貴様ら冒険者たちが定期的に狩っているのもあって全てを取り込んでも到底イヌトに対抗しうるだけのエネルギーにはならない。となれば作ってしまえばいとなる。そこで目をつけられたのが蛆のようにわいている人族だ。僕の力を使って人族を魔物に変え魔力結晶にしてしまえばよい。加えて有機生命体の中で生成される魔力を分析し、自らの技術にしようと画策していたのだ”
「魔力結晶が攻撃現象に対し高効率だというのか?」
“無論だ。貴様らは大気に溶け込んでいる魔力を使って魔法を発動しているが、それだけでも高火力であり、物理法則ではあり得ない効果も発動しているだろう?例えば治癒や魂を喰らうといった魔法だ。それを結晶化したものをベースに発動するとどうなるか。何倍も効率が良いし、魔力を帯びていない大気であっても魔力を活用できるようになる。これは大きなメリットだと思うが"
「スメラギさんは既にそれやってるな‥‥」
スノウが割り込んできた。
その言葉にシルゼヴァはまた話が逸れてしまうとあからさまに苛ついた表情を見せた。
"貴様の記憶を読んで既にスメラギについては知っているが、其奴が行ったのは単なる代用だ。エレキ魔法と称した電気力を科学応用したに過ぎん。僕が言っているのは魔力を科学に応用すると言うことだ"
「そういうことか‥‥」
「話を戻すぞ。これ以上話を逸らすなスノウ。それでは何故、グレイアンは人に成り代わってティフェレトで生活しているのだ?人族を魔物化するだけなら、魔物に変えられた人族に成り代わって生活する必要などないだろう?」
“分からんのか無知者め。魔物を魔力結晶化するには時間が必要なのだ。時間が必要という意味は自我が消えてなくなる時間だ。グレイアンは人族を魔物にしたが、それだけでは魔物が自我を失って魔力結晶化するまでに相当な時間を要する。それだけではない。魔力結晶化できるのはその中でもほんの一握りなのだ。考えてみろ。普通に魔物が結晶化したのを見たことがあるか?結晶化するには長寿命を生き抜き肉体に魔力を蓄積凝縮させ死を持って自我を消し去る必要があるのだ”
「なるほど。魔力結晶を見たことがないのはそういうことか」
”そこで考えたのが、貴様らがグレイと呼んでいるもののコアと魔物化された人族の自我を紐づけて吸い上げることだ。グレイが人族に成り代わって人族の生活を続ければ続けるほど早く魔物化された者から自我を奪うことが出来る仕組みだ。日々の生活をグレイが再現することにより、その記憶を吸い取るように奪い、記憶が奪われるたびに魔物化された人族は人であった頃を忘れ自我を失っていくというわけだ”
「自我を失う。ソニックが元の姿に戻ったあと自我を失いかけていたのはどういう理屈だ?」
“質問ばかりだな。貴様からの質問に答える義理はないのだぞシルゼヴァ。だがまあいい。知識習得に貪欲な者は嫌いではないからな。ソニック、ソニアを魔物に変えたのは貴様らが昆虫グレイアンと呼んでいた存在だ。本来であればその昆虫グレイアンがソニック、ソニアへと変化し徐々に自我を失わせる。だが、貴様らがコアと共に破壊した。ソニック、ソニアと繋がっていたコアをだ。繋がったコアが破壊されたことでソニックとソニアの自我が弾けた。一気に精神世界の深淵へと落とされたのだ”
「つまり、手っ取り早く魔物化された人族から自我を剥ぎ取ろうとするならコアを破壊すればよいってことか?」
“そうだと言っているだろう。2度も言わせるな。ちなみに何故それをグレイアンがやらないのか、についてはコアはコアで必要だからだ。コアは鉱物生命体の一部、つまり生命体であり、全の中のひとつでもあるということだ。ここまで説明すれば察しがつくと思うが、グレイアンを下手に刺激し追い詰めればどうなるか。無知者の貴様らでも分かるだろう”
「魔力結晶を手っ取り早く入手するために全てのコアを破壊する‥‥自分たちの一部である全てのコアを犠牲にしてでも‥‥」
ザン!!
シルゼヴァの言葉でレヴルストラの面々に衝撃が走った。
「止めなければ!」
「アヌ!止めるためにはどうすればいいの?!」
エストレアがアヌに詰め寄って言った。
“貴様はエストレア。女王として魔物化された人族を戻そうと焦っているだけの無能な支配者。僕を解放したスノウに感謝するのだな。止めるためにどうすればいいかを教えてやる”
全員アヌの言葉に注目した。
“コアを破壊せずに停止させることだ”
「どうやって?!」
“ティフェレトの地上に落ちた隕石は単なるグレイアンの巣ではない。コアを管理しているハブだ。それを破壊すればいい。だが、同時に破壊が必要だ。破壊に時間差が生まれれば母船である隕石船よりコア全破壊の指示が出る。そうなれば、グレイたちのコアの自爆機能が働き全グレイがその場でコアを失い機能停止となり、それらに紐づく魔物化された人族の自我崩壊が急速に進み魔力結晶化する”
『!!』
スノウ達は目を見開いて驚きの表情を見せた。
(ルナリ!お前が気にしていたのはこのことだったのか?!)
スノウは地上に残ったルナリ、シンザ、エルティエルに対し届かない訴えを送った。
・・・・・
――ヴィマナが隕石船に向かって飛び立った直後――
ヴィマナを見上げている姿があった。
「無事に飛び立ったみたいだね」
「そうだな」
「しかしあれだけ大きなものが空を飛ぶなんて信じられないね」
「それだけ膨大なエネルギーを要するということだ。エルティエルが手に入れたマグマ結晶体とは凄まじいエネルギーを内包した貴重な物質だったわけだな」
褒められているエルティエルは不機嫌な表情だった。
自分もヴィマナに乗って宇宙へ飛び立ちたかったのだがそれが叶わなかったからだ。
「そう拗ねるなエルティエル。これも重要な任務だ」
「そうかしら。貴方の懸念ってだけで残らされたとしか思えないのだけど」
「ははは‥‥エルティエルさん、だいぶ気にされてますね」
「もう止めて。気持ち切り替えるから。それで私たちはどこに向かうわけ?」
「隕石をもう少し調べたい。残された隕石は3つ。グコンレンの北50キロメートル付近の小規模隕石、ロロンガ・ルザの跡地から南に3キロメートル付近の中規模隕石、メルセン平原南の極小規模の隕石だ」
「メルセンの極小隕石はエスティさんが破壊したんじゃ?」
「グレイアンを破壊しただけで隕石まで破壊出来たわけではないらしいのだが、今ケリーに見に行ってもらっている。あくまで確認するだけで近づくなと言ってあるがな」
「ケリーはてっきりヴィマナに乗っているかと思ったけど残ったんだね」
「ギリギリでスノウから託されたのだ。スノウはケリーをまだ小さな幼ハルピュイアとして見ているのだろう。本人はだいぶ拗ねていたが、最後には納得した。我の懸念がハルピュイアの里にも危機として及ぶ可能性があると説明したことでな」
「そっか」
「それで?ケリーと同様に拗ねている私の質問にも答えてくれる?」
エルティエルは嫌味混じりに言った。
「我らはグコンレン北50キロにある小規模隕石に向かう」
「分かったわ。すぐにでも出発よね?」
「もちろんだ」
「じゃぁ早速行きましょう。気が紛れるようなことがないとイライラが治らないし」
「ははは‥‥」
シンザは苦笑いした。
そして3人は目的地に向かって出発した。
いつも読んで頂きありがとうございます。




