一方その頃、魔王城
――魔王城・執務室
執務を終え、ゼノムが紅茶を口にしていたそのとき――。
バンッ、と勢いよく扉が開き、ロウズが慌ただしく飛び込んできた。
「魔王様! ロスト様の居場所が判明しました!」
「……本当か、ロウズ?」
ゼノムが目を細めて問い返す。
「はい。調査部隊を総動員し、ようやく発見に至りました」
ゼノムは頷いた。あの手紙を読んだ直後から、彼は直ちに部下たちへロストの捜索命令を出していたのだ。
「それで……兄上は、どこに?」
「はい、場所は――こちらです」
ロウズは執務机の上に地図を広げ、一本のペンである地点に印を付けた。
「この山岳地帯になります」
「ここか……確か、大きな山が連なる僻地だったはずだな」
「はい。部下の報告によれば、ロスト様はその地で蟻人たちと共に家を建て、農作業などをしながら静かに暮らしているとのことです」
「……なるほど。そこにいたか」
ゼノムは紅茶のカップを置き、立ち上がる。
「で……“あれ”は? 手紙にあった『妹』とやらは、本当にいたのか?」
不機嫌さを隠そうともせず、ゼノムはロウズを鋭く睨んだ。
「は、はいっ! ロスト様の傍らには、確かに人間と思われる少女がおりました。年の頃は十六、七といったところだそうで……。おそらく、手紙に記されていた“妹”で間違いないかと……」
「……そうか」
ゼノムはゆっくりと椅子に腰を下ろすと、静かに命じた。
「ロウズ。しばらくその少女を監視しろ。兄上とどう接しているか、どんな関係か……そして――兄上に、どんなことを“している”のか、詳しく調べて報告するのだ。いいな?」
「は、はいっ! 畏まりましたっ!」
ロウズはゼノムの放つ気迫に押され、勢いよく敬礼すると、逃げるように執務室を飛び出していった。
――執務室に静寂が戻る。
「……妹、か」
ゼノムは呟いた。顔は伏せられているが、手にしたティーカップにはいつの間にか細かなヒビが入っている。
「なぜ兄上が、人間の小娘を“妹”にしたのか……理解に苦しむ。が――」
ドス黒いオーラがゼノムの体から溢れ出す。
「万が一、兄上が破廉恥な真似をしていると判明したならば……その小娘――決して、ただでは済まさんっ!!」
怒りに満ちた叫びと共に、ティーカップがバキィッと砕け散った――。
――第350代目魔王、ゼノム・モナーク。
本人は周りには隠しているつもりではあるが、魔王軍全体に知れ渡っているほどの極度のブラコンである。
ちなみにロストは、ゼノムがブラコンであることは知らない。




