舞台裏〜重役の会談・1
更新が遅い中でもブクマをつけていてくださりありがとうございます!
「どういうことですか?」
「どうもこうも無い。そもそもこっちとしても『どういうことだ』と問い合わせても取りつく島もないんだから。お前らもこんなところでこんな高齢者を捕まえとらんで若いのと絡んでこい。そもそもこっちはある意味管轄外だ」
「やだなー、そのまま『ハイ、そうですか』となるはずないですよ」
「ははは、お前ら少しは引けや」
「アンタが笑ってごまかすからでしょーが」
HAHAHA☆なんておかしなイントネーションを付けながら軽快に笑うのは近衛隊を纏め上げる (本来なら威圧感を振り撒いている傍迷惑な)副隊長―――アイゼンベルグ元侯爵は全くもっていい笑顔で答えてくれる。
非常に腹立たしい古狸め。流石は古参の貴族とでも言うべきか、流石はケインの血縁とでも言うべきか。
近衛隊は確かに管轄が広い。
しかし部隊長クラス以上になればお腹真っ黒な御仁だらけだ。このオッサ……元侯爵含め。
というか、全部隊の副隊長なんか拝命してらっしゃるアンタは寧ろ筆頭だろうが。
なーんて見てしまうのは昔からの付き合いというのもあるのだろうが。何しろ赤ん坊の頃から俺達3人を知っているのだこの人は。
おーおー、ケインの奴何時もなら率先して絡みに行く癖に今日は大人しく―――大人しく?―――1歩後ろからにやにやしている。
そういう顔はこのオッサンとよく似ている。流石2世とまで言われているだけあるな。
そして今回みたいなパターンに強気に出れる方法も熟知しているからこそ下がっているのだ。
「アイゼンベルク副隊長、失礼は承知していますがある意味我々は親切でしょう?」
「――これ、ご老体は労るもんだぞ?」
「ご冗談を。『二つ名』持ちの貴方が」
「……ちっ、益々アイツに似てきおったな」
「ええ、光栄ですね」
兄貴はにっこりと笑いながら『逃がしませんからね?』とじりじり間を詰めていく。
一見何の変哲もない行動なのに何故か追い詰められるあのオーラ、本当に国王陛下ソックリ。
そして時に兄貴は父上以上に容赦ないのだ。
「親切でしょう?我々はちゃんと貴殿方の意向に則って裏側で片をつけて差し上げたのですから」
「「「………………」」」
やっぱり兄貴は容赦ない。
普通に相手に真っ正面から行くとは……お腹真っ黒にはキツいだろう。
がしがしと頭を掻きながら「ったく流せばいいものの……」とか呟いているの聴こえていますよ?ん?聴かせているのか?
しかしこちらとしては放置する訳にもいかないのだ。
ヒルダにしろエレンにしろ、外から見れば都合のいい『駒』だ。
ヒルダは公爵令嬢という札を、エレンは平民という札をそれぞれ今現在手にしている。云わば『騎士団をうまく利用し、且つ、切り捨てられても痛手にならないであろう駒』――――現状間違ってはいない。
近衛隊の『彼奴ら』はそこを突いたのだ。
そして近衛隊の『御偉いさん』はそれを知った上で更にそれを利用したのだ。
最も、後の彼らは正確には試したと言っていい。
それも当然といえば当然だろうが―――兄貴にはさぞ腹立たしかっただろう。
ケインはどーせ爆笑しているだけだろうが。
「さて、アイゼンベルク公?それだけ近衛隊を『遊ばせて』いるのですから当然引っ掻けたいのでしょうが、これだけ騎士団にご迷惑を掛けているのです。勿論、我々にも、納得いくように、ご説明いただけますね?―――ああ、当然我々の隊長には直接説明をお願いします」
「げっ……いや、お前らが言えば済むだろうが」
「お願いします」
「いや一応ワシ先輩なんだが?」
「お願いしますね?」
「……ハイ」
「……諦めろじーさん、そりゃ無理な相談だ」
ケインの笑い声(一応堪えようとしているが全く無駄な努力)に俺も心から賛同する。
兄貴を敵に回しても百害あって一利無し、だ。
オッサン達のやり方が不味かったのだから甘んじて怒られてくれや。
「ったく何でワシが……貧乏クジだ……」とか言っているが俺は何も聴こえていない。
「そもそもやり方が不味いだろう。一番簡単だが何故こんな下策を使ったんだ近衛隊は」
「ケイン、言葉」
「げっ……」
「いい、いい。どうせここでの会話は『無かったこと』だ。普段通りで構わん」
あーあ、もうありゃ投げやりだな。
その方が楽だと俺もケインもさっさと聞く体制に入った。兄貴も割り切ったのだろう、先を促す。
「そうだ、下策だろう?―――だからこそ、お前達はおかしいと思う。他にもいるな。だが、そう思わないのは誰だ?」
「……そりゃおつむの弱い彼奴らだろう?」
「……それは短絡的だケイン。」
「他にも居ますが……まぁ善くも悪くも『利き目』を自負する『中立派』―――ですか?」
「それもだが、それだけじゃないな」
勿体ぶるのか話したくないのか、あー、と唸りながら腕を組む。
「意外と思うだろうが―――現状を崩したいのは『中立派』、ある意味正解だ。近衛隊の『彼奴ら』は寧ろエサで我々にとっても『時期』が来たということ、ただそれだけだ。だがな。本命は実はもっと単純だ―――第3王子殿下。予定通りに行っていれば、な。本来はここまで下策になるほどとは思わなかったが」
「……ヴィヴィアン?あいつまだ学園ですけど……」
「馬鹿者、だからこうなったんだろうが」
ぽかんと疑問を言うと即座に否定された。
いやだって、居ないじゃん愚弟。
ケインも同じような顔をしていたが―――兄貴だけは違った。
「ヴィヴィアンが学園から卒業『しなかった』から、予定が狂った、ということですか?」
「いい線だが惜しいな」
ああ、本来なら愚弟、前年度で近衛隊に入隊する予定だったからな。蹴ったけど―――もう暫く勉学に励むとかいう、聞いた全員が内心『ぜってーちげーだろ』っつー突っ込みを入れたとかいう理由を引っ提げて。
確かにアイツは王宮に戻ってくるはず『だった』。予定を外したことに違いはない。
しかしそれは正解ではなく『惜しい』という。
つまり。
「ヴィヴィアン殿下が『マクベス公爵令嬢』と婚約破棄をしたあの瞬間から、予定は狂いだした。ヴィヴィアン殿下にとっては下策に。アイオーディン殿下にとっては朗報かもしれないですがね」
にやりと笑う好好爺は人の悪い笑顔で兄上を見る。兄貴は一見動揺していないように見えるが一瞬だけ瞳が揺らいだ。
試されている―――それは知っていた。
兄貴は勿論、俺も、愚弟も。
足りなかった情報はばら蒔かれていたのに、それに気づけなかった。
ヴィヴィアンが愚弟だと思ったあの時から実は始まっていたのだ、この茶番劇は。




