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薔薇の刻印(スティグマ)  作者: 多岐濟
二章~蕾、綻びの時を待つ~
32/49

》22話

「アイン、それって重要事項なのでは?」

思わず尋ねるといいや、と首を振られる。

「重要ではあるけれど多分直結して考える者は多くないよ」

「そうなのですか?」

「そもそもひとつひとつはよく見なければ分からないレベルだからな。当然放置していいということはないがまだ補うことが出来る範囲だ。それにな?」

「それに?」

何となくおうむ返しを期待されたような気がしたので問い掛けると。

にこり。

何とも爽やかに笑ってきた。


……その笑顔、恐いんですけど。


「こういうことは率先して引き受けておくんだぞ?『後々』のことを考えて、な」


「………………」


……アインもだけど、隊長やハル、ケインですら。この騎士団の人って底知れないわよ。

何となく今深く考えてはいけないような気がするので自分の直感に従うことにする。こういうことは深追いしてはいけない。学園で痛いほど知ったのだ、私は。



「とりあえず優先するべきは『何処で処置が行われのか』調べることと、『修繕』を行うことですね」



さっさと頭を切り替えて次の作業のことを考える。藪はつついちゃダメよね、何が飛び出てくるのか分かりはしないもの。

「切り返し早いぞ、ヒルダ」という苦笑いも聞こえませんよ。ええ、私は聞こえない。


「先ず俺達が優先するのは『急ぎではない』案件だ」

「急ぎではない?」

「そう」


首を傾げると実は、と続けてくる。


「急ぎの案件はとりあえず隊長が捌く。最速でなければならないのもあるが……まぁカムフラージュだ」

「カムフラージュ……」

「そう。俺達は所謂『新人と指導者(チューター)』だ。―――誰が目を配るだろう?」

「………………」


そんな素敵なスマイルを私相手にご披露頂かなくても……というくらいいい笑顔です、ハイ。

頭痛くなりそう。


「私ということは、エレンも、ですか?」

「そう。流石ヒルダ、察しがいいな」

「いえ、もうそのままですが……ああ、それで右海区(ここ)に来たのですね」

「ああ、右海区(ここ)は元々リージェス子爵のお膝元だからな。そう難題があるわけではないし、子爵自身の眼が光っている」

「……あの」

「ん?」


何だか以前から思っていたけれど、何となく確信する。


「アインは子爵家と懇意になさっているの?随分と子爵を買っていらっしゃるのね」

「え?―――ああ」


私の問い掛けに一瞬の間が開いたが、アインは何かを納得したように呟いた。


「すまない。ヒルダは知らなかったのかもな。俺達も今更頓着していなかったのだが―――リージェス子爵はハルの叔父で後見人なんだ。あまり公には知られていないんだが」

「え、ハルの叔父様……?リージェス子爵が?ということは、先日のご令嬢は」

「ああ、マルトゥリーデ子爵令嬢はハルの従兄妹だ。とはいえ世間はただの幼馴染みだと認識している節はあるがな」

「……世間は狭いのですね……」

「いや、此処が狭いだけだろう」


アインは苦笑いを浮かべているが、不意にある事実に思い至る。



―――ハルは、王族の中でも地位が一番低い王子だ。

生母の身分が元々低いからというものだが、あまりにアインやヴィヴィアンの生母の地位や存在力が強い。まして―――ハルの生母は、とうに亡くなっている。

ハル自身は第一妃(アインの生母)に引き取られているが、そこからの事情はあまり公になっていない。



「知らない事が多いみたいですね」

「まぁ……な」


何故か苦笑いを浮かべながらぽん、と頭を撫でられる。


「ヒルダはそもそも愚弟(ヴィヴィアン)の婚約者でもあったからな、情報を手にするには制限もあっただろう」


……ええ、それはそれでいいのですが。

どうしても気になる。

その行方が。

そして気になれば問わずにいられない。



「その通りかもしれませんが―――ねぇ、アイン?それはいいのですが」

「ん?」

「何故いちいち私の頭を撫でる必要があるのですか?」

「………………」



じっと目を見れば、何故かにこにこと笑顔。

その笑顔、黒くないけれど。……あの?



「アイン?」

「嫌か?」



笑顔のまま問われれば、え、と返答に詰まった。



「嫌とかではないですが、あの……」

「嫌でないなら大丈夫だろう?」



…………え、待ってちょうだい。理屈が分からないわ。



「あの、大丈夫とかダメとかではなくて、私も一応女性ですから」

「ああ、大丈夫。髪型が崩れるような撫で方はしていないから」

「いえそうじゃなくてですね……」

「ほら、細かいことを気にしていると予定を回りきれないから。次の調整はヒルダ、やってみろ。ただし基本の『壱の型』だけでだ」

「あの、回ることには賛成ですが……どうして私の肩を掴んでいるのですか。自分で着いていけますって……!!」

「大丈夫大丈夫、次の目的地はそう遠くないから。ああ、ヒルダ。木属性の『壱の型』の扱いは大丈夫だろう?」

「ええ、それは大丈夫です。それについては使い方も単純なのでコントロールも流石に……ではなくて、だからアイン!?」

「行きますよお嬢様?」

「ちょっと、お嬢様って……じゃなくて!!」




何故か肩をがっちりホールドされたまま次の目的地に向かうことになった私は目を白黒させながらアインに引きずられていった。

しかし、この時の私はまだまだ甘かった。



――――或ろうことか残りの目的地全てそのままエスコートよろしく回る羽目になるなど、その瞬間まだ私は想定もしていなかった。



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