舞台裏〜ある巡回路の脇道
「おい、あいつなかなかやるな」
「ちょっとケインさん、それは立派な覗きです」
「固いこと言うなって……うわーお、そのままがっちり肩を抱いたままとか何だあいつ、普段『何でもないですよ?』な澄まし顔の癖にムッツリかぁ?」
「ケインさんいつか不敬罪で捕まりますね」
「うっさいぞエレン。大丈夫だーって、バレないように防御張っているんだから」
「…………何でこんなしょうもないことに無駄に刻印の力を発揮するんですか貴方は…………」
「ははは、それを見れるなんて良い勉強だろ、エレン」
「というか何でハルさんまで居るんですか。貴方仕事は」
「ん?ああ、大丈夫大丈夫。それのついででもあるから」
「………………」
思わずジト目で彼等を見てしまうのは仕方がないでしょう。巡回の名目で街を廻る僕らが居るのは右海区のとある場所。壁からがっつり覗き披露中のケインさんと、更にさりげなく混ざっているハルさんが居た。
嗚呼、何故にこうなった。
ヒルダさんにアインさんごめんなさい。
僕は一応止めようと努力しました。ええ一応。でもこの二人の前では無力でした。
聴こえないでしょうが心の中で謝罪をしておくことにしましょう。
二人が真面目に(少なくともこっちの二人よりは)巡回しているのをこそこそと付いていく。
はっきり言う。
かなり怪しいですから。
ひとつひとつの『痕跡』にヒルダさんとアインさんは術を発動して『修復』を行っていく。見た目の派手さは無いが術のひとつが丁寧に組まれているのであれならきっと『気付かれない』だろう。
魔術は苦手なのだと零していたが、最初に彼女の術を見たときより格段に上達している。
勿論アインさんのフォローもあるけれど、ヒルダさん一人で考えても最初にかけられている術より強靭なのは一目瞭然だ。
しかし、解せない。
「……何だエレン、岩塩でも咬んだ顔して」
ニヤニヤしながらこっちを見て問いかけるケインさんに、どっと疲れを感じた。
確かに眉間辺りに皺が寄っているような気がしていましたが何でまた岩塩を咬むんですか。
どんな例えですそれは。
「……変な例えをしないでください。そうじゃなくて……何故近衛隊の人間がこうも綻ぶ術を使い続けるのかと思いまして」
「……ん?」
「いいえ、だってあの綻び方だったら恐らく魔術師団や魔導部辺りなら直ぐに使用を却下するでしょうし、近衛隊の部隊長クラスなら直ぐに分かるのではないかと……何でまたあんな術を……」
「エレン?お前何言っているんだ?……んごっ!?」
「はーいケイン、ちょーっとばかし黙れ?」
……あ、ケインさんの口がハルさんに塞がれた。むごむご動いていますが……あの位置だとケインさん、息できなくないですか?
ハルさん、容赦ないです。
「エレン、何に気付いた?」
「〜〜〜〜ッ!!」
「……あ。悪ぃ。……で?エレン」
パッと開放されたケインさんを尻目に否応なく先を促される。ケインさんは無視ですか。いいですけど。
「何にって……あの術式だと足りないですよね?」
「「……足りない?」」
え、だからどうして今度は二人揃って詰め寄るんですか。
目が完全に据わっていますから。
はっきり言って恐いですから。
しかし先を促されるのは変わらないのでおずおずと口を開いた。
「ですから、あの魔術だと『強度の術式』が一本足りないんです。これは基本中の基本様式ですから魔術を発動する際必ず組み込まれる筈なんです。でもあの術式ですとそれがないので簡単に綻ぶんです。当然ですよね。魔術自体が派手で無駄な力を付けていますから気付きにくいですけど、魔術に精通している人間が見たら一発じゃないですか?かなり巧妙に隠されてはいますけ……ど?」
あれ、何で二人の目が丸くなっているのでしょうか?
何もおかしなことなど言っていないですよね?
「……おいケイン」
「……おうよ。エレン、因みにその術式だが『近衛の部隊長クラス』なら見抜けそうなのか?」
「え……まぁ本人の資質もあるでしょうが……苦手な方でも良く確認すればそのクラスならば誰でもいけるのではないですか?」
「…………なるほど?」
顎に手を当てながらニヤリと笑うケインさん。
端から見たら完全に悪役顔ですよ。
あの、僕には全然解らないのですが。
そんな僕を尻目に二人はボソボソと何かを確認して頷き合う。
……何でだろう。聞きたい。知りたい。
……だけど知ったらヤバい気がする。
最後にハルさんが頷いて、二人の視線が僕に戻った。その二人の顔を見て―――僕はビクッと背筋に何か冷たいものが流れたのを確かに感じた。
「でかしたエレン」
「いやー、今日は非常に有意義な巡回だった」
「…………………………。」
出歯亀して黒い笑顔を振り撒いている光景しか記憶にない巡回なんですけど……。
……とりあえずそれについては突っ込むまい。
絶対に突っ込むまい。
「さーて、あいつら次はどっちに行くんだ?……おっ、おいハル。アインのヤツ今度はヒルダの腰に手を宛てていやがるぞ!?」
「えー?……うわ、本当だ。兄上のやつやるなぁ」
「………………」
……ごめんなさいヒルダさん。
僕にはこの二人に突っ込みは愚かこのまま暴走を止めることも出来そうにない。
というか、このまま巡回続けるんですか?
―――――…………え、本気で?




