第7話 悪夢の斬撃
(サイド:デアボ・リカ)
ウチが死んだのは今みたいな、何処か懐かしい死臭の香りがする、気持ちのいい朝やったな…
まあ、死んだゆうても今の段階では、ナンノコッチャやろうけど。
(リカ10才の夏)
ミーンミーン…シュワシュワシュワ…
(蝉かいな、うるさいな…ウチ、この声とアイドリング音がいっちゃん嫌いやねん。)
パンパンパンッ!
(叩かれてんのか、突っ込まれてんのんか、もうどうでもええわ。)
ウチの新しいおオトンは、オカンがパートに出て行った後、いっつも布団の上で、イジメよんねん。
「ええか…人に聞かれたら、顔のアザは転んだって言うんやぞ。」
「分かったから…お父ちゃん、もう叩かんといてぇな。」
生臭い、生き物の死骸の様な匂い…快感に歪む男の顔と抜かれてゆく欲望の塊、流れるのはウチの血。
(アカン…もう、限界や。オカンに言お)
その夜、全部話したんや…あんな事や、こんな事されたって。
パシッ、パシッ!パンパンッ!
母親の往復ビンタに、口の中が十字に切れる。鉄の味と、閉じられず流れるツバが気持ち悪い…
「この、売女!」
(何でウチが、殴られてんねん。おかしいやろ。)
その時やった…コイツラふたりの背中に、ムンクの叫びみたいな、グニャグニャの人影を見たんわ。
「コッチ来いや、バケモン共…」
ウチは自然と怖くなくて、その物体を手で掴み…両親から、引き剥がしたんや。
バリバリバリッ!シュルルル〜
そんでもって、気がつくと…ソレを体内に取り込んどった。
「あれ…何やリカ、その傷。」
人が変わった様に優しい表情になるオカン。
「すぐ、病院連れて行こう。」
見たことの無い、心配そうなオトン。
(そうか、あのお化けがこのふたりを…)
優しい表情のふたりに、心を許しそうになった、その時…
「ハァ、ハァ…あかん、何か来る!」
ズンズンズン…
ウチの目線のずっと下に、両親の頭が…
(何や、デカなっとるんか?)
ガブッ!バリバリッ、モグモグ…ゴクンッ
(まっずっ、また血の味やん。)
ボトッ…
首から上の無い、親達の胴体を手元から落とした時…自分が何をしたのか、思い知らされる。
ピンポ〜ン!ガチャンッ
「一応呼び鈴鳴らしたケド、待つのメンドイんで、勝手に入らせてもらうよ。」
白い修道服の女が入って来る…それが、大天使ドリームとの出会いやった。
「あらら、遅かったか…まぁ、間に合わす気も無かったけどね。オイッ!て、自分で突っ込んでしまった…寒っ」
「キサマ…そこで何を言っている?」
(何や?ウチの声、ボコーダーかかってる。それに標準語やんけ。)
「ハイハイ…今、ボクが助けてア・ゲ・ル。」
ピシンッ!ビリビリビリッ…
その女の、手刀の一線が横切る。
(痛い痛いっ、ウチのお腹裂けてるでぇ。)
オギャ〜!オギャ〜!バブバブ…
(なんや?この、ちっちゃい手ぇ…それにウチ、何バブバブ言うてんねん。)
「よしよし…いい子、いい子」
ウチを抱いてくれた、天使様は温かかった。
元、自分だったモノの巨大な残骸が転がる、血まみれの畳を見下ろす。
(そや…ウチ、バケモンになって、この女の人に腹割かれて…赤ちゃんに生まれ変わったんやった)
「汚れた嘘の肉体は、もう無いよ。ボクとおいで…」
抱きしめられてるその胸は、柔らかくは無かったけど…初めて愛を感じたんや。
(は?愛ってなんやねん、恥っず。)
(リカ13才の春)
「こ、殺す気かいな…」
グオァ…ヌル…ゲベベベッ!
例の、ウチの師匠となった天使ドリームが、数十の死霊憑きを操り…ウチを襲わせる。殴っても蹴っても、元々死んでるそいつらは、ビクともせぇへん。
「リカ、お前の実力はそんなモンか?両親を、喰い殺した時の力はどうした?」
「ウチのトラウマ、逆撫でせんといてんか!」
怒りに震えるウチは、丹田の辺りからふたつの勾玉が合体し、回転するのを…ひとつのビジョンとして感じる。
「なんや?コレ…」
「猫背になって、その推進力を指先まで、持って来なさい。」
「オラァ〜ッ!」
バリバリバリッ!
ひとりの死人の身体から、両手で悪霊を引き剥がせた…
「そうそう…その感覚で、腕を分身させて。」
「ハァ〜!(何かカッコ悪いな)オリャ〜!」
シュンシュンシュンシュン!バキバキバキッ!
ウチの両腕は、無数に複製され…全ての死霊憑きから、霊体を分離させた。
「スゥ〜…ハァ〜」
呼吸を整えた瞬間…無意識に吸った空気に紛れ、死霊が侵入してきた。
ギュゥィィィィィ〜ンッ!
(アカン、またカラダが変わる…嫌な記憶が、恨みが、溢れてくるねん)
「制御しなさい、リカッ」
「アカンねん…また、バケモンに…ハハ、ハハハハ〜!」
(我ながらきっしょい笑い方すんな…またや、またあん時と一緒。)
ピシュッ、カシーン!
「な、何や?」
ウチの口に、おしゃぶりが飛んで来て、変化が治まった。
「その力、コントロール出来る様になるまで、その暴走制御おしゃぶりを装着してなさい…ボクがおまじないを掛けてある、ロストテクノロジーさ。」
また巨大化しかけたウチのカラダは…元の可愛い姿に戻ってた。
「なんや、赤ちゃんみたい…」
「その効力を維持するために、今後語尾にバブバブをつけなさい。」
「なんでやねん!うっ、痛たたた…」
(全身に激痛が…そうか、体内の死霊が暴れとんねんな。)
「し、しゃ〜ない…バブバブ。」
「何故なら…死霊は、赤ん坊には優しいんだよ。」
「新しいウチ…今日からは、皆んなから愛される様な人間になるんやでぇ。バブ〜」
そう思ってた…その後、師匠が惨殺されるまでは。




