第11話 迷宮の悪魔
「そこまで…」
カツカツカツ…
闇の中から、陽炎の揺らぎを携えて…銀髪の長身女性が現れる。腕は8本、額に第三の目、スーツ姿の巨乳。ふたつの目には、白目が無く…赤い口紅は、右方向だけ耳の上まで引かれている。
「ようこそ…我が王子、残忍様のご家族一行」
紳士的な一礼をする女。
彼女の姿を見て、それぞれ形を現す妖怪達。レイコに持ち上げられた壁男、腹を刺したふんどし男(一反木綿)、ゼノを強襲した猫女(娘)、リカを押しつぶした赤ん坊男(子泣きジジイ)…一斉に攻撃を中止し、離れて整列する。
「お迎えに参りました。ヒムラと申します…残忍一味の下っ端で〜す♡」
「下の名前は?」
ゼノの血を拭きながら、腹の傷を自動修復したレイコは、睨みながら尋ねた。
「サタンよ…」
レイコと、彼女の霊力で完治したゼノとリカの三人は、薄暗い校舎の中…ヒムラの後をついて行く。
「レイコちゃん…この女、ヤバイで。バブ」
警戒するリカ。
「知ってる。ケドね、今戦ったらアンタ達は殺されて…私は、良くて相討ちかもね。」
妙に慎重なレイコ。
「本来善良な妖怪を、あんな風に使うなんて…」
畏怖の念を抱くゼノ。
ギギギギ、ギィ〜!
一番奥の、鉄の扉を開くヒムラ。
「どうぞ、姫様。」
レイコを先頭に案内する…
「ハッ…残忍様、なんてお姿に。」
実験道具だらけの部屋、残忍は…ララにブチのめされた、ままの姿で気絶していた。が、気配に気づき目を覚ます。
「よ…よう(鼻血を拭きながら)、ゼノと拳精様、あと?」
「ウチは、リカや。デア・ボリカ…アンタのお母ちゃんの愛弟子や。バブバブ」
ララの顔におしゃぶりのリカが、自己紹介する。
「そうか、ララを乗っ取ったか。で、ここに?」
「オメー殺しに来たんだよ、バカ兄貴。」
斧を構えるレイコ。
「切るトコ間違えると、ヤバイセリフやなバブ」
関西人では無いレイコには、リカの言ってる意味が分からない。
「少し話そうか?」
残忍が、奥のソファーに腰掛けると…その横にピッタリ、ヒムラが立って寄り添う。
「まぁいいわ…辞世の句、聞いてあげる。」
殺気満々のレイコを、肩を撫でてなだめるリカは、ふたりと共に…不気味な研究資材の並ぶ、テーブルの手前の椅子に腰掛けた。
レイコは、怒気を混じえて口を開く。
「で、私達の父ゴッドは何処?アンタが取り込んだって、ゼノから聞いたけど…あの偉大な人がそんな事になるなんて、信じてないのよね。」
「父の姿を、まともに見た事があるか?」
「な、無いわよ。でも、私達を作ってくれたって…お母さんが。」
「だろ?彼は概念なんだ。物理的存在じゃ無い。で、正しくは取り込んだんじゃ無く、自分の内側に発見した…て言うのが、正解かな?」
(リカちゃんのプチ解説コーナー)
なんやしらんケド、ややこい話なってきたんで、ちょっと説明入れさせてもらいます。
これは、ウチが師匠の大天使ドリームに聞いた話…レイコちゃんとゼノ君を作ったゴッドと呼ばれるお父ちゃんは、肉体を持たない概念やったらしい。〈科学〉と呼ばれる、エセ魔術を使って、ふたりを創造した後…遍在意識になって、この空間に蔓延する存在になった…つまり、意志を持った空気みたいになったって訳。説明下手でゴメンちゃい。
「分かりにくく言うとこうだ。古代から神と呼ばれていた、全知のホワイトホール…つまりゼロポイントを、自分の中に発見したのさ。」
リカの説明に、付け加える様に話す残忍。
「て、事は…一度死んだんですか?確か命を失う事によって、その領域に達する事が出来るって、聞きます。」
ベアードに与えられた知力で、状況をいち早く認識するゼノ。
「すぐに復活したよ、ベアードって言うかブラックホールの息子…いわゆる混沌の欠片を利用してな。」
ゼノの胸元のひとつ目からのイメージが、そこにいる彼等全員の思考に、流れ込む…
(銀河を飲み込む強大なブラックホール、アザトホース…TON618と呼ぶ者もいるが。その分身たる我バックベアードは、地球の太陽を餌にして、そのエネルギーを喰らっていた時…死による上昇途中の残忍に捕らえられたんだ。何故なら、奴と通じる神聖体…その相反する智慧に抗えなかったから。)
「そう、父ゴッドをハートの内に持つ俺は、ベアードを凌駕し…彼の妖力で、人としての形を取り戻し復活、つまり再来した。そして、このサタンと共に最終戦争を勃発させる事を思いついたのさ。」
「最終戦争は、もう始まってるよ。お前達は、神の選別からハズレたんだ。」
腰斧の、大天使からのインスピレーションで、事を語るレイコ。
「神による、天国と地獄への振り分けか…そうだな。でも、勝つのは悪魔側だ…拳精様。」
「試してみるか?さっき言ってた事が、事実なら…神は、私の中にもいるよ。それに、アンタはまだ無限の叡智に辿りつけていない…ハートポートの開き方が、中途半端なのよ。」
椅子から立ち上がるレイコ…続いて、イヤイヤ戦闘体勢を取るゼノとリカ。
「待て…八月に、アザトホースが重力を奪いにやって来る。だから、一旦休戦し…協力して欲しい。」
この場での戦いを、拒否する素振りを見せる残忍。
「何の話だ?」
攻撃をためらうレイコ。
「レイコちゃん…ここは。バブ」
彼女をたしなめ、猶予を稼ごうとするリカ。
「姉さん。」
「ゼノが言うなら…ハ〜」
弟に弱いレイコは、ため息をつき…再び椅子に深く腰掛ける。
「妹弟達、あと偽革女…共に闘う、勇気はあるか?」
「(レイコ、ゼノ、リカ、3人声を揃え)んなもん、あるかい!」




