第10話 絶望最前線
「そう言えば、あの時もこんな感じだったわね。」
血まみれの手を拭きながら、遠くを見つめるレイコ。
「回想に入るつもりだね、姉さん…周りがモワモワしてきたよ。」
ゼノの言葉通り、時間はあの時に遡ってゆく。
(第8話、ラストの時間軸)
ウチが首切られて、レイコちゃんの炎に焼かれ…
ブスブスブス…
燻る焼けカスの音がする。
(この娘が師匠の娘、レイコちゃんか…可愛いな。弟もええ子そうや。もう少し前に会いたかったな…バブ)
「リカ、おいで…」
彼女は、ウチの胴体に手を突っ込んだ。
(何やコレ?頭にあった意識はもう、そこに無くて…実体がここに、固まってるカンジや。)
グシャ…ズルズル…ベチョベチョ…
お腹から引きずり出されたウチは、赤ちゃんやった。
(温かいな…まるでママや、バブバブ)
「よしよし…いい子、いい子。私達が、育ててあげるからね。」
レイコちゃんは、前の身体から出てきた赤ん坊のウチを、優しく抱きしめ…ナデナデしてくれた。
「オッパイあげよっかな?」
「姉さん、先に母様を助けなきゃ。」
(そうや…師匠は?)
「心配ないわ。肉体なんて借物だもの。ママは、ここに…」
ウチをゼノ君に預け、腰の斧を取り出すレイコちゃん。
「ゼノ…ボクはここだ。これからは、親子ずっと一緒だよ。」
語りかけるその声は、紛れも無く師匠だった。
「斧だから…これからは、ハッちゃんって呼ぶわね。」
微妙なセンスのレイコちゃん。
「ボクの愛弟子、リカをよろしく。」
朝日に照らされた刃先は、ウチに微笑みかけてくれた…ように見えた。
(再び実時間)
「んで、リカはすぐに大っきくなったんだけどね…でも、また顔変わっちゃったけど、大丈夫?」
レイコは、やや面白がっている様だ。
「心配ない、ここにおる人間皆んな、大体同じ様な顔やからな(笑)バブバブ…ア〜ムッ!チュパチュパ」
何処から取り出したのか、予備のおしゃぶりを口に装着するリカ。
この時間軸ではバラバラになった、母親で師匠のドリームが憑依した斧が散乱している。
「さ、コレ壊れたから…新しいの買いに行こ。」
通りの少し先に看板を構える、百円ショップに目をやるレイコ。
「早くしてね。」
一時しのぎで、リカに取り憑いた霊体の大天使ドリームが、背中から身体半分這い出し、呆れ顔で催促する。
「ベアード、周囲の騒動の記憶消しといて…」
胸元の悪魔に、命令するゼノ。
「時空再編集」
巨大なひとつ目は一瞬、世界をデジタル割れさせて…徐々にドットを修正していった。
新品の斧(結局100均でなく、ホームセンターで買ったいいヤツ)を迎えたレイコ達は、移動を開始する。
「ほな、ウチのカラダの記憶辿って、残忍兄ちゃんのアジトへ向かおか?バブバブ…教えてくれるやんな、ララちゃん。」
「かまいませんことよ…でも、成仏させてくださいましね。」
リカの腹部に顔を現した彼女の霊体は、念を押す。
「アンタ可愛いから、ずっとここにおってもええで。バブ」
「もうっ…」
顔を赤らめるララ。
「くっ、またライバル登場か。」
嫉妬するゼノ。
「アンタには、お姉ちゃんがいるでしょ。」
彼を後ろから抱きしめ、胸を押し付けるレイコ。
(うう…実の姉より、リカちゃんのオッパイの方がいい。)
怖くて口に出せないゼノだった。
ガタンゴトン…
物騒なスタイルの3人のパーティーは、電車に乗って、残忍の元へと進む。靴を脱いで、子供の様に窓にカラダごと向けて、風景を楽しむリカ。その様子を微笑ましく見ているゼノ。彼にもたれかかり、眠るレイコ。いつの間にか、日が沈み…すっかり夜となってゆく。
「姉さん、闇は奴等の得意空間だよ。」
電車を一番最初に降りたゼノは、ふたりの方を向き、後ろ向きに階段を下る。
「私達にとってもね…」
リカと手を繋いで、歩いて来るレイコには何も、恐れるものは無かった。
(残忍のアジトへ)
薄汚いにドブ川を挟んで、小学校と中学校が一体となった新校舎の建設が完了したばかりの学校の校庭…リカに取り込まれたララの記憶を辿る旅は、ここで終わりを告げる。
「バブ…ぎょーさんおるで、レイコちゃん。」
先頭に立ったリカは、周囲のただならぬ気配に圧倒される。
「ろくでもない奴程、多くの者から慕われ…徒党を組むもんよ。」
ある種の真理を語るレイコ。
「警戒モード、発令…」
ゼノの胸元のベアードが、瞳を閉じる。
「行くわよっ…ア、アレ?」
見えない壁に阻まれ、前に進めないレイコ。
「オギャ〜オギャ〜!」
「なんや…ウチの声とちゃう、可愛げの無い赤ん坊の声が。」
ドスン…ズンズンズンズンッ!
背中を、何者かにのしかかられ…地面にどんどんめり込むリカ。
ガリガリガリッ!!
何者かに、顔面を掻きむしられるゼノ。
透明の残像が、辺りで蠢く…
「ふんっ、あのバカ兄貴の手下妖怪達ね。」
動じないレイコは、目の前の壁を持ち上げる。
シュルシュルシュルッ!
うっすらと、姿を現す巨大な壁の化け物を頭上まで上げた時…彼女のカラダに別の白い布が絡みつき、締め付けた。
「危ないっ、レイコちゃん…グハッ!」
土の中に半分押し込められたリカは、吐血し…
ボキボキボキッ!
その見えない重さに、背骨を折られる。
ガリガリガリガリッ!
こちらでは長い爪先が、ゼノの眼前を交差する。そのスピードに全く追いつけず、切り傷だらけになり…膝をつく。
「起きてくれ、ベアード。」
「スースー」
寝息が聞こえる。
グサッ!ズブズブ…
レイコに絡みついていた布の魔物は、ドリル化し…回転しながらその腹部をえぐる。
「フフフ、私達絶対絶命…でも、ここの奴等は大した事ないわ。」
楽しそうに微笑むレイコだったが…その奥に潜む残忍とも違う、もっと強大な敵の気配に身震いする。
「但し…アイツには、勝てないかもね。」




