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世界は不条理で出来ている  作者: 高遠
第一章 始まりのはじまり
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仲間たち 3

別視点になります。


憎くてたまらない殺したくてたまらない人間に俺達は助けられた。





毎日毎日クソみたいな暴力と実験と称した拷問にテストと言われた殺し合いをさせられてきた俺達に話し掛けてきたのは、俺達以上に苦しめられる魔眼実験を受けた半竜人の男だった。

そいつは、水色よりも薄い瞳と気味の悪い紫の瞳を暗い色に染めて言った。

『ここから、逃げる気はないか?』と。

そんなのは当たり前で、もう何度も逃げ出そうとして失敗してきた。

その事を伝える前に実験の合図が鳴った。

周りは、もう剣や魔法を放っては酷い音を響かせていた。

『今から三月程したらある実験が行われるんだ。その時、警備は上の闘技場に向けられる。それが狙い目。』

剣で打ち合いながら合間合間に言葉をいれられて俺はつい言ってしまった。

「俺達は、なにをしたらいい?」と。

そいつは、暗い瞳に鋭利な光をまとわせて言った。

『ただ、彼女を守って欲しい』と。

なんのことか分からなかったがまた合図が鳴って殺し合いは終わった。

それから何度か話をした。

話せるのは、殺し合いがある日と合同実験がある日だけだったがそいつは、必ず上手くやるだろうと思えた。

それほど、そいつの瞳は鋭かった。

作戦の七日程前に何故、自分の身を犠牲にしてまでその女を助けたいのかと聞いた。

すると、そいつの暗い瞳はやけに優しい瞳に変わり驚くほどやわらかく微笑んだ。


『何度も助けられたからだよ。

小さな身体を震わせながら僕が殴られる度に庇ってくれてね...痛いのには慣れてるはずなのに泣きながら痛いね、ごめんね。守れなくてごめんねって言うんだ。優しい子だろ?

そんな子にこんな場所にいてほしくないんだ。

あんな小さくて細い優しい子に...僕以上の痛みと苦痛を与えるゲス野郎共にこれ以上いじくり回されてほしくないんだ。

それに...壊れてほしくないんだ。その優しさを僕にくれた優しさを...他の奴にも与えて欲しいと思ったし、こんな世界に、あんな子がいるんだって知ってほしい。

僕ら亜人は、虐げられて苦しまされて痛みや苦痛を味あわされてばかりだ。

でも、もしあの子の優しさを知れば夢を見ると思うんだ。

自分の世界には、あんなに綺麗な心を持つ人がいるんだって。

僕らに向ける眼差しに、一片も負の感情が見られないそんな子がいるならそんな世界も造れるんじゃないかって。

自分の一族が虐げられない世界が....亜人がひどい目にあわない世界が....そう思ったんだ』


語られたのは詭弁と言うより夢物語だった。

俺達をみる目に負の感情がない人間なんかいないし今の話を聞く限りその少女とやらは人間だ。

同じ目にあっているのが同族なら同情もするし怒りも沸くが人間ならざまぁみろとしか思えない。

そう思ったのが分かったのかそいつは、笑った。


『信じなくていいよ。

彼女の良さを僕だけが知っているっていうのも嬉しいし魅惑的だ。

でも、作戦はしっかりやってくれよ?

失敗したら僕は無駄死にしたことになる。

彼女のことは、きっとラットがなんとかするだろうし。

君達は、ただ作戦日に暴れてくれればいい。鍵は、さっき渡した奴で開くからここにいる亜人達を出してクズ共を殺せばいい。』


そう言ってそいつは、また笑った。

あのやわらかい微笑みではなく、寒気がするような美しい笑みだった。

それから、きっちり七日後。

それは、起こった。

鍵を開けて全員(といっても二十名位だが....)を逃がしてそこにいた警備兵と研究者を殺して外部闘技場に向かった。

貴族の余興に使われるその闘技場は、血と死体で溢れていた。

貴族も警備兵も魔術師も研究者もみな血にまみれて死んでいた。

他の奴等に研究者が居たら殺すように言って血が目立たないように服と出たら使えるように金を探すように伝えて散らばせた。

闘技場の真ん中には、そいつがいた。

肩から腰にかけて深く斬られたらしく血で真っ赤に染まっていた。

普通なら苦悶の表情があるはずなのにそいつは穏やかに笑っていた。

幸せそうに笑っているそいつをみて羨ましいと思った。

こんな目にあってもそんな風に笑って死ねるなんて、とひどく羨ましくて顔が歪んだ。

雨が小さく降っているようなシミがタイルに落ちていく。

それに気づかないふりをしてそいつを背負った。

レントゥス(・・・・・)は、重たかった。

人間の死体ばかり転がる施設内を歩いていると目の前にエルフの男がいた。

そいつは、治癒と看破を使う奴でいつも研究に反対していた珍しい男だった。

俺達に同情的な嫌なやつと思っていたがレントゥスの作戦に協力したのはこいつだった。


『....レントゥスは...死んだか...』


俺の背中をみてそいつは呟いた。

重たい空気がまとわりついたようなその呟きに周りの空気まで重たくなった。

ふと、目を動かすとそいつの腕の中に小さな子供がいた。

それは、真っ赤に染まっていた。

....死人を抱えたやつが二人も揃うとはなと笑おうとして笑えなかった。


『....早く出なければ....ここを知る者はほとんど上層部にいる貴族や軍人だ。

バレればすぐに消されるぞ』


くすんだ長い金髪を少し揺らして鋭い眼光で俺をみながら言ったそいつ。

もっとなよっとしていて頼りないと思っていたがどうやら違うようだ。

それに頷き返すと小さく低い遠吠えをふく。

耳が良い奴等は気付いただろう。

早くここを出なければならない。

レントゥスを抱え直して歩き出すとそいつも歩き出した。

両手で抱えている子供は、そいつにとってなんなのだろう。

同族だろうか...エルフにしては、普通な顔立ちだ。

眉間に皺がよったのが分かった。


『何故人間なんか持ってんだ』


低い声が重たく響く。

後ろから仲間が集まってくるのがわかる。

その前にそいつを捨てなければそいつは他の奴等に八つ裂きにされるだろう。

子供を....死体に八つ当たりする奴はいないとは思うが絶対とは言いきれない。


『お前らはこいつに助けられたんだ。

感謝することはあれど殺すことはないだろう』


頭がガン、となにかで殴られたような気になった。

まさか、と思った。

レントゥスが言っていたのはそいつが持っている子供のことなんじゃないかと。


『ハイガ?』


後ろから来た仲間に呼ばれて我に帰りそいつが持つ死体には触れないように言って施設を抜け出す。

油を撒いて火をつけて燃やしても俺達はこのことを忘れない。

そう思いながら森をただ走った。

施設は、王都の端に作られていたらしく逃げるのは楽だった。

そいつが用意したらしい大きな荷馬車に乗り込んでまた走った。

仲間たちは、疲れきったように馬車の中でぐったりしていた。

御者台にいるそいつは、まだ死体を抱えているのだろうか。











どこかの寂れた町の宿につくとそいつは俺達に外套を被って出るように告げた。

大人しく馬車につまれた外套を被り外に出ると懐かしい空気がした。

馬車の中で泣いた仲間を思い出して成る程なと思った。

鼻の奥がつんとして痛いのに目があつくてたまらない。

その感覚を振り払い宿に入るとそれぞれ部屋の札を渡された。

大部屋は無いらしく六人部屋が一つ五人部屋が二つと二人部屋が二つ、一人部屋が三つと説明された。

それを仲間に伝えて部屋をわけた。

俺は、二人部屋に入り用意された替えの服を着る前に水魔法で血を洗い流した。

服を着てから同じ部屋のユランにラットと話し合うから後を頼むと頼んでラットの一人部屋に向かった。

レントゥスは、一人部屋に寝かせてある。

早くどこかに埋めるか焼いてやるか決めなければならない。

ラットの一人部屋を開けると誰もいなかった。

隣を開けると居た。

子供の着替えをしていたようだ。

どうやら子供は生きているらしい。


『説明してもらおうか』


扉の前に立ちラットを睨み付けるとそいつはため息をついて話始めた。

子供の名前はクノギといい落ち人いう種族らしい。

落ち人は、総じて弱いが賢く聡明だと言われている。

その共通点は、落ち人は....歴史の変わり目に落ちてくるということだった。

そのほとんどは、人間に味方していて落ち人は人間の勇者と言われていた。

その落ち人は、人間によって殺されるより酷く死ぬより苦痛な目に合い、今ここにいる。

秘泪の魔族の左目を埋め込まれた十歳くらいの子供は、唯一の友を己の手で殺して壊れ研究者と貴族を惨殺した。

惨いことをすると思った。

小さい子どもに背負いきれない業を背負わせ堪えきれない苦痛を味あわせ更に耐え難い罪を負わせた。

ラットは、難く目を閉じていた。

子供は、大人に守られるべき存在だ。

獣人の間では、十歳以下の子供は集落で大切に守られ闘い方を学び生きる為の技を教えられる。

だからか、人間は子供の獣人を欲しがる。

稀少性が高いだのよく泣くだの言って惨いことをする。

それを同族にもするのかと嫌悪した。

それとも落ち人は、人ではないということなのか。

レントゥスが守りたいと言った少女は、ベットの上で顔色悪く眠っている。










朝方、軽く身体を動かして宿に戻ると子供の部屋から動く気配がした。

そっと扉を開けると白い髪がたよりなさげに揺れ黒い瞳が自分の手をじっと見つめていた。

薄暗い部屋の中でその子供は、泣いているようだった。

なにかを耐えるようにぐっと我慢しているようで見るに堪えなかった。

声をかけると驚いたようにこちらを見上げた。

その紫の左目はレントゥスの右目と同じものだろうか。

すると、パンと冷めたスープをみて食べ方が分からないと言った。

その瞳は、遠く悲しく忘れてしまったものを掴もうともがいているようだった。

頭がガン、となにかで殴られたような気がした。

自分達より酷い実験だったというラットの言葉をただの比喩だと思っていたがそれは事実だったことを知った。

俺達には、まだラットがいて食べ物や水には困らなかったし傷も治った。

殺し合いもあったが皆どこか手加減していた。

その代わりに研究者達に暴力を振るわれたりしたがそれから庇う仲間もいた。

だが、こいつには、守ってくれる人間もいなかった。

周りは、悪魔ばかりで唯一友とも離されて自分の手で殺して....

子供の手首を掴むとそれは骨しかないようで細くて力をいれたら折れそうだった。

出来るだけ優しく掴みベットに座らせると部屋を出る。

自分より不幸なやつがいて少し安心した自分に吐き気がした。

あんな小さくて細い子供に自分は....クズ共と同じことをしようとしたのだ。

人間にも亜人にも突き放された子供は、どうなるかなんて火を見るより明らかだ。

小さくため息をついて子供のことを説明する為に皆を集めることにした。


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