会談 and 解析
「という経緯の末、お前ん家に邪魔してるわけだ」
「…………」
竜への説明を終えた夕凪は、少し威張り気味に胸を反らした。
対して、竜は眉間にしわを寄せて黙り込む。
彼なりに夕凪の説明を要約すると、こうだ。
帰り道の途中で、黒づくめの言った言葉を思い出し、自分の家では『課題』を出来ないことに気づいた彼女は深く落ち込んだが、近所の八百屋の息子である友人、不破竜がパソコンを持っていたことを思い出し、そこに転がり込んできた、と。
竜はそこまで理解すると、顔を上げて夕凪を見た。
「一つだけ、訊いていいか?」
「なんだ?」
竜の神妙な顔に威圧され、少し後ろに下がる夕凪。
そんな彼女に、竜は二言。
「お前、アホだろ」
「なんで?」
キョトンとした表情をする夕凪に、竜は溜息を一つ吐いた後、一泊置いて問いかけるように言う。
「なんでいきなり現れた不審者と普通に会話しているんだ? そして、なんで不審者から普通に物を受け取っているんだ? 今時、そんな怪しい人物とは目を合わせる奴すらいないぞ?」
「いや、だって話しかけられたし……」
「知らない人に話しかけられても、決して相手にするなって、幼稚園の時に習わなかったか?」
「そんな悪い人に見えなかったし……」
少しずつ、自分の言葉に対して反論する夕凪の声が少しずつ小さくなっていくのを、竜は感じていた。だが、彼は彼女に正論のみを語り続ける。
「人を見かけで判断するな。そりゃあ、俺の家の右隣に住む桑田さんは見るからにヤクザ風の強面だが、中身は度の過ぎたお人好しだ。 逆に左隣の富士さんは見た目美人で人当りのいい感じのご婦人だが、中身はどす黒い陰険な詐欺師だ」
「…………」
「だが、初対面の人間に対しての印象はやはり見かけだろ? このクソ暑くて日差しのキツイ季節に、夕方とはいえ黒一色の服装で帰宅途中の女子中学生に話しかけてくるような人間は、本人には悪いかもしれんが、完璧に警察沙汰ものの不審者だ」
「まぁ、確かに……」
「そんな人間と普通に会話していたお前は、つまり度を抜いたアホだ」
「ぐっ…………」
竜の口上が終わり、それを全て聞いて反論の余地の無いことを理解した夕凪はがっくりと肩を落とした。
狭い室内を、沈黙が包み込む。
しばらくして、竜は再び溜息を吐いた。
いつものことだった。
夕凪が自分の所業のあらましをこれ見よがしに語り、竜がそれについてあれこれと意見し、最終的に夕凪がふてくされるか、うつむいて黙り込む。二人が面と向かい合って話しをした時の帰着点は、幼稚園の時から全く変わらない。
「で、なんだ……」
そして、沈黙に弱い竜がこの後に取る行動も、全く変わっていない。
頭を掻きながら、竜は同情の目で夕凪を見つめ、言った。
「俺は、お前のようなアホを救うために、何をすればいい?」
「リュウってさ……」
沈黙していた夕凪はそう呟いて、顔を上げて竜を見た。
彼女の表情には、呆れと諦めで疲労の色が浮かんでいる。
「ホント、人の心をメッタ刺しにするの、上手いよな……」
「俺は自分が正しいと思うことを口にしているだけだ」
「なるほどな……って、それはつまり、あたしがアホだっていうのが」
「正しいってことだ。俺の中では」
「……うん。まぁ、いまはいいや」
もう色々と諦めたぜ、という風なジェスチャーを出しながら、持ってたディスクケースを竜に差し出す夕凪。
相手がそれを手に取るのを確認し、彼女はこう告げる。
「それが、あたしのようなアホを救うために必要なものだよ」
「なるほど」
夕凪の言葉を聞いた竜は、口元を吊り上げて笑みを作る。そして、ディスクケースを開いて中身を取り出しつつ、
「アホであることを自分でも認めたな」
「潰れろ」
竜の呟きに対し、夕凪は正拳突きで答えた。
しかし、竜はそれを片手で受け止めると、空いている手でディスクをパソコンに取り入れ、読み込み作業を始めた。
程なくして、画面上に何かのプログラムが欄列するウィンドウが表示される。
竜はそれを一通り眺めた後、キーボードを何度か叩いていく。
ちなみに、一連の動作は夕凪の拳をしっかりと握った状態であり、その間、自分の手を解放しようと押したり引いたり、空いている手足で攻撃を仕掛けたりしてくる夕凪の行動を全て把握・対処していたりする。
しばらくして、
「夕凪」
「なんか出た、あぁああっ!?」
受け止められて掴まれたままの拳をどうにかして取ろうと四苦八苦する夕凪を解放して、竜は画面を指差す。
この時、いきなり解放された夕凪は勢いよく後方に倒れ、ベッドの側面の堅い部分に後頭部を打ちつけ、悶絶していたりする。
竜はその様子を一瞥すると、
「早く見ろ」
「この状況を見て助けようとか思わないのかぁ!?」
「自業自得だ」
「もとをただせばあんたのせいですけどね!」
竜に向かってありったけの怒号を浴びせながら起き上がる夕凪。しかし、竜が余裕の表情でそれらを受け流すのを確認した夕凪はふてくされた表情になりつつ、彼の背後から身を乗り出してパソコンの画面を覗き込んだ。
「ったく…………、ん?」
舌打ちしながらディスプレイ上に浮かんだディスクの内容を見て、夕凪は眉をひそめた。




