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夢幻商人と少女の戦争  作者: 沼野河童
Second:Vision 夢幻商人 ~Yunagi encounted Vision’s Seller~
12/13

母娘 and 幼馴染

「開・眼ッ!」


 そう声高らかに叫ぶと同時に、夕凪は被っていた布団を押しのけて立ち上がる。

 そして、


「朝っぱらからどやかましいっ!」


 ドアを開け放つと同時に放たれた苦情と座布団が夕凪の顔面に飛来した。

 夕凪はそれを膝を落とすことでかわそうとして、


「当たる、がっ!?」


 いつの間にか下から突き上げるように迫っていた膝に、自らぶち当たる形で激突した。

 ドォッと、仰向けに倒れる夕凪を見下ろす形で、朝っぱらからの騒動に巻き込まれた被害者(現在は加害者)、もとい夕凪の母がその姿を露わにした。


「ったく、またご近所に迷惑をかけるような大声を出しやがって。そんなハイテンションな女に育てた覚えは無いけどねぇ……」

「あ、あたしも……、起床直後に膝蹴り叩き込むような女性に育てられた覚えは無いわ……」


 顎から脳天を貫いた激痛に涙目(眠気から来るものではない)になりながら、夕凪は着地点に布団があったことに感謝しつつ、再度身体を起こすと自分の母に目を向ける。


「そんな娘を母は見下してこう告げた」

「おいちょっと待て母上、なんでいきなり語り口調? そして文章表現がおかしくないか?」

「『さらに言うと、あたしはオンナとして育てたつもりなのに、どうしてそんなにオンナらしくないのかしら』、と」

「おい母上、それはドコを見ての発言だ。性格か? それともB地点か?」

「両方よ」

「家出してやるっ!」

「出かけるなら朝ごはん食べてからにしなさい」


 そう言って燈村家の母は、押入れから旅行用のバックを引っ張り出して荷造りを始めた夕凪を無視して、部屋を出て行った。

 取り残された夕凪は、きっかり一〇秒後、部屋の外に向けて、


「頼むから綺麗に流さないで突っ込んでよ!」


 と、思いっきり叫んだ。

 何のことは無い、燈村夕凪にとっては、いつもどおりの騒々しい朝であった。




「で、今日はなにか予定があるのかしら?」


 朝御飯を食べ始めて少し経った頃、母は夕凪にそう問いかけてきた。

 夕凪は味噌汁をすすり終えると、ほっと一息ついた後に答える。


「ああ、不破ん家行ってくる予定」

「ついに勉強の教えでも請うのね」

「それはない」


 母親の口から『勉強』という単語を引き合いに出され、若干動揺しつつも、平静を装って返答する夕凪。そんな娘の態度の変化を見逃す生みの親ではない。


「ふーん……」


 と、彼女は思わせぶりな反応を返すと、おもむろに下りていた左腕を耳元まで引き上げる。

 その手には、燈村家の家庭用電話の子機が握られていた。


「じゃあ、実際はどうなのかしら? リュウちゃん」

「ふぐっ、ごふッ!?」


 予想外の母親の行動に驚いた夕凪は、飲み込もうとしていた牛乳で激しくむせる。

 一方、受話器の向こうからは、脱力感を感じさせる声が送られてきた。


『……あの、『とおる』です、おばさん』

「あら、そうだったかしら? でもいいじゃない、リュウちゃんの方がカッコよくて」

『夕凪みたいなこと言わないでください』

「あら、あの子なんかと一緒にしてほしくないわね」

「本人が近くにいる時にする発言か、それ? 実の娘なんですが」


 電話先の相手ににっこり笑顔で応対する母親の言葉に静かに突っ込む娘。

 それに対し、意外にも母はふぅ と息を吐きながら、


「冗談よ。ごめんなさいね」

「まぁいいけど……」

「あんたには謝ってないわよ?」

「誰に対して謝ったのさ!?」

「電話の向こうのリュウちゃん」

「実の娘より近所の息子さんかよ!」


 あとその呼び方を変えないあたり、謝罪の意図は感じられねぇよ! と、空になったコップを持つ手を振り回して全力でツッコむ夕凪。その言葉を聞き流し、母は夕凪が食べ終えた空の食器を片付け始める。

 肩と耳の間に挟んだ電話で会話を続けながら。


「しかしまぁ、貴重な夏休みにわざわざこの子の勉強を見てくれるなんて、ありがたいわね」

『終業式の日にうっかり覗いてしまった夕凪の成績の酷さを思い出すと、夜もうなされるんで……』

「ほんと出来の悪い子よね。誰に似たんだか……」

『どこで拾ってきたんですか? あのオトコンナ』

「あのさ、わざわざ本人にも聞こえるようにスピーカフォンにして会話するなよそこの二人。てかオトコンナってなんだ!?」

「『オトコとオンナを融合して生みだされた存在』」

「それ言い方変えればただの赤ちゃんじゃねぇかっ!」


 ていうか、なんでそこまでコンビネーションいいんだよ、母と八百屋の息子! と突っ込む娘、夕凪。

 と、


「まぁ、おふざけもこれくらいにして、と」


 そう言って、母は電話の子機を夕凪に押し付けるように手渡す。どうやら、後は二人で勝手に話してろ、ということらしい。

(夕凪が言えた義理じゃないが)母親は結構破天荒な性格のため、確信はなかったが、このまま放置しておくと、また二人の会話中の餌食にされかねないと思い、夕凪は手にした電話機を耳元まで持っていった。


「で、なんだよ。 今日の予定の打ち合わせなら、そっちに邪魔するまであと三〇分位ってところだが?」


 あくまで自分に都合のいいように訪問時間を告げる夕凪。

 しかし、


『いや、それなんだが……』


 電話の向こうの不破の反応が少しおかしいことに気付く。なんと言うか、少し言いにくいことでもあるという感じだ。


「おい、なんかあったのか?」

『…………………………』

「まさか……あのゲーム、クリアしたんじゃないよな?」

『いやそれはない』


 唯一思い当たる事柄を問いただしたが、あっさり否定する不破。


「じゃあいったい……」

『口頭だけでは説明しづらい。俺の部屋で直接話そう』


 それだけ言うと、夕凪の返事も待たずに通話は切られた。

 夕凪は一方的に切られた電話を怪訝な表情でじっと見つめ、不破が何を言いたかったのかを考えてみる。


「ふむ…………………………、分かんね」


 ……モノを考えるには頭が足りなさすぎた。


「まぁ、行ってみればわかるか」


 夕凪はそう呟くと、考えるのを止め、電話を所定の位置に戻して、歯を磨くために洗面所へと向かうのだった。


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