絶世の美少女
三度目の転生。意識が戻った瞬間に俺を包み込んだのは、これまで経験したことのない過剰なまでの「色彩」と「芳香」だった。
まず目に飛び込んできたのは、視界のすべてを覆い尽くすほど巨大な天蓋付きのベッド。おそらくは本物のシルクだろう。肌に触れている感覚がないほど滑らかなシーツが、全身を優しく包み込んでいる。四隅の柱には精緻な天使の彫刻が施され、見上げれば天井には神話の一場面を描いた壮麗な壁画。その中央で輝く水晶のシャンデリアが、昼間だというのに淡い光を放っていた。
部屋の広さは、実家の居間の五倍はあるだろう。磨き上げられた大理石の床には、それっぽい文様が織り込まれた分厚い絨毯が敷かれ、壁際には金箔で縁取られた巨大な書棚と、見たこともないほど豪奢なハープが鎮座している。
ここは天国か、それとも死後の安らぎか。アカシアの奴、手配を間違えたんじゃないだろうな。
俺は震える手でシーツを掴み、上体を起こした。その瞬間、肩から滑り落ちた「何か」に心臓が跳ねる。
「……え?」
視界の端を、プラチナブロンドの長い髪が流れた。月の光を糸にして織り上げたような、非現実的なまでの輝き。
そして、何より俺を驚愕させたのは、上半身を起こした拍子に感じた、ずしりとした「重み」だった。
薄手のシルク越しに、これまでの人生で一度も味わったことのない、柔らかく、豊かな膨らみが二つ、俺の胸元で存在を主張している。動くたびにそれはたゆたい、俺の意思とは無関係に揺れた。
男としての記憶が、その異物感を激しく拒絶する。……嘘だろ。俺は、女になったのか。
「ベロニカお嬢様! お目覚めになられたのですね!」
甲高い声に顔を上げると、ベッドの傍らに控えていた三人の女性が、一斉に俺の元へ駆け寄ってきた。一人は寝台を整え、一人は銀の盆に載った薬湯を捧げ、もう一人は俺の顔色を覗き込む。
全員が、黒のドレスに純白のエプロンを纏ったメイドの姿をしていた。
「お加減はいかがですか? すぐに医師を呼びますか?」
「お顔色がすぐれませんわ。リナ、早く温かい毛布を!」
「姫様、どうか無理をなさらないで……」
矢継ぎ早に投げかけられる言葉。
ベロニカ。それが、この身体の名前。
「ちょ、ちょっとタイム」
自分の喉から、信じられないほど可憐な響きが漏れたことに戦慄し、俺は慌ててシーツの中に潜り込んだ。
名前:ベロニカ・サンスラサクス
職業:王女(サンスラサクス王国 第一王女)
体力:50
魔力:300
スキル:カリスマ・探知・二刀流・リワインド
ステータスを確認し、メイドが三人もついている状況に合点がいった。
体力「50」という数値は、女性だからか。魔力の「300」は過去最高だが、今はその恩恵を感じる余裕さえない。
スキルに『カリスマ』が加わっているのは王女という立場ゆえだろう。そして、これまでのスキルも継承されている。
「姫様、王様がお待ちです。そろそろお支度を」
不安げな声でメイドがシーツに触れる。王様ということは父親か、さすがに行きたくないとか言ってられないか。
俺はシーツから這い出し、精一杯の「王女らしさ」を演じるべく、凛とした表情を作った。
「き、着替えればいいの?」
慣れない言葉遣いに奥歯が痒くなる。
「私たちにお任せ下さい」
メイドたちは手慣れた動作で、俺をあっという間に全裸にした。
顔が焼けるように熱い。今の自分の身体だとはいえ、年頃の少女の裸を直視するのは、男として耐え難い羞恥だった。
それに、もしトーチャーの時のように、彼女自身の意識がどこかに残っているのだとしたら。見知らぬ男の魂に裸を見られるなんて、死ぬより屈辱に違いない。
俺は固く目を瞑り、メイドたちに身を任せた。
「完了いたしました」
メイドの合図に目を開けると、目の前には豪華な装飾の施された大きな姿見があった。
そして、鏡の中にいたのは、神の悪戯かと思えるほどの絶世の美少女だった。
「マジか……」
思わず声が漏れた。




