転生する理由
もう三度目。ここがどこだかハッキリと分かる。
異世界受付──
俺はまた死んだということか。
あのフードの男、今度は俺を殺しに来た。
「ターゲット変更」確かにそう言った。
ということは、やっぱり最初の狙いは未来だったんだ。
でも、なぜだ? なぜターゲットが俺に変わった?
誰かの恨みを買った覚えはない。
いや、そもそも俺の死に戻りは時間も巻き戻っているはず。
ターゲット変更って言葉は道理に合わない。
奴も俺と同じようにループしていないと出ない言葉だ。
混乱する頭に甲高い声が響いた。
「ちょっ、また戻ってきたの?」
アカシアは、目を丸くしている。
俺が彼女の立場でも同じだろう。
「異世界での俺の記録ってどうなってます?」
異世界を救った覚えはないけど、地球に戻っているのは確かだ。
最初の転生で死んだと同時に地球に戻ったことを考えると、アルスと同様にトーチャーも……。
それにノエル……あれが幻聴でなかったら二人は恋人同士だった。
全部俺のせいで……くそっ。
「なにこれ、大声で叫んだあとに転生失敗って書いてあるわ」
アカシアはホログラムを見ながら半笑いだった。
大声……やっぱり、頭の中のトーチャーと一緒に叫んだ後か。
「じゃあ、トーチャーって人はやっぱり死んだのか?」
脳神経を刺激していたタコチンが、俺とトーチャーの感情の高ぶりに反応して悪さを……。
「う~ん、あなたが転生したトーチャー・ルルエンドはまだ生きているみたい」
「良かった」
「でも、脳死状態っぽいわね」
「は?」
不穏な言葉に耳を疑う。
「どうにかできないんですか?」
「脳にどんな異常があるか分かれば回復魔法でなんとかなったりするかも? しらないけど」
回復魔法……そうか、タコチンが脳を傷つけただけなら、その傷を治せば。
「俺を回復術士に転生させて下さい」
「無理よ。転生先はランダムって言ったでしょ」
「じゃあ、せめてトーチャーの近くにいる誰かに転生させてください」
命がけで回復術士を探して治療してもらう。
「それも無理……だけど、私の管轄内だから、可能性はなくはないわね」
管轄内?
「その管轄って、どのくらいの広さなんですか?」
「ええと、そういえば聞いてないわね……知らないわ」
あいかわらずの適当さで腹が立つ。
「俺は真剣にお願いしているんです。トーチャーを助けたいんだ」
あの監禁場所から出ようってトーチャーと約束したんだ。ノエルのためにも約束を果たしたい。
「あなたね、この間は別の人を助けたいとか言ってなかったっけ?」
怒りの感情が伝染したのだろうか、アカシアの声色が変わった。
「誰かのため、誰かを助けたいって言うけど。自分はどうなのよ」
「俺……俺は……」
自分の死のこと、未来のこと、転生したアルスやトーチャーのこと。
頭の中がごちゃごちゃで、訳が分からない。
俺は、誰だ……。
「酷い顔ね。このままじゃ、死ぬより辛いんじゃないの?」
「……」
図星……なのかもしれない。
転生しもトーチャーを助けられる保証はない。
それどころか、また他の誰かを犠牲にしてしまうかもしれない。
やっぱり、最初の転生から戻った時点で止めるべきだったんだ。
俺は、ここで死ぬべきなんじゃないのか?
未来……ターゲットが俺に変わったということは、未来が狙われることは、もうないかもしれない。
もう、自分の死も、他人の死も見たくない。経験したくない。
「あんまり自分を責めちゃダメよ。石化も脳死も、死んだわけじゃないんだから。それに、あなたが転生してなくても、あの人たちはそういう運命だったかもしれないし」
アカシアが励ましてくれたのは分かったけど、それよりも……。
「石化? 死んでないって、もしかしてアルスは生きているのか?」
「あれ? 言ってなかったっけ? あなたが転生したアルスとそのパーティーメンバーは現在も石化中。破壊されたりしなければ石化を解除して復活できるわ」
「ほんとうに?」
「なによ、さっきまで死んだ魚の目みたいだったくせに」
「じゃあ、助けられる可能性があるってことだな?」
「だからぁ、あんたは自分のことを……」
「転生させてくれ」
アカシアの言葉を遮り、俺は叫んだ。
「今すぐ、俺を異世界へ」
助けられる可能性があるのなら、俺は行く。




