綾崎Log
【私記:RE:ER・27449】
転生管理機構《Re:incarnation》暫定運用要綱(抄)
記録者:主任研究員 綾崎 純一(日本・統合危機対策学際研究室)
滅びの運命にある地球から人類を救うための唯一の方法。
──異世界転生。
その情報収集は順調だった。
魂を有する全ての生命体は、転生の資格を持つ。
理論上、全人類の魂を異世界へ送り出すことは可能だ。
だが、それは異世界側の望むところではない。
転生の目的。神族と呼ばれる存在は優秀な魂を兵器として欲し、魔族との永劫の戦に投じる。魂の選定には性格、思想、宗教といったノイズがつきまとうが、地球産の「優秀な魂」がもたらす戦果は、彼らにとって絶大。
ゆえに、効率的な供給が必要となる。
無作為な死を待つのではなく、必要な人材を、必要な時に送り込む実行役。
それが、フードの男。女神の使い──異世界からの干渉者「フォーミスト」。
魔法、魔力、転生させる者、スキルを与える者……地球の常識など彼らにとっては意味をなさない。
異世界から地球へ来る能力は容易なモノではないだろうが、それも可能なのだ。
私は彼に標的の情報を与え、見返りに転生後の魂の動向を得る。
罪悪感など、とうに摩耗した。
世界では一秒に二人が死ぬ。その中に、私が選別した「検体」が混じっていたところで、統計上の誤差に過ぎない。
フォーミストとの接触で、極めて重要な知見を得た。
それは、地球と異世界とでは時間軸が異なるというものだった。
転生者の帰還事例から鑑みるに、その可能性は把握していた。
それが、今回の転生対象者で明らかになった。
時間軸の相違。
いわゆるタイムループと呼ばれる現象。
それは、異世界で成功を収めた転生者が帰還する際に選択できる三つの特権に関連している。
1、異世界での永住
2、地球での死の直後に五体満足で帰還
3、地球での死と同時刻に誕生した命へ宿る(輪廻転生の概念と酷似)
地球へ戻る道を選んだ場合、異世界でどれだけ時間が経過しようと、死んだ直後の時間となる。
新たな生命としてのやり直しでも、それは適用される。
当初ターゲットとなったのは、資源エネルギーを研究している若い女性だった。
フォーミストは、何時ものように事故を装い、異世界に送るはずだった。しかし、その際に不手際があり、別の者が転生対象者として選ばれた。
不要な魂なら転生させなくても良かったはずだが、フォーミストが選んで殺したという事実が決定的な動機となった。
フォーミストは女神に報告し、本来のターゲットであった橘 未来の殺害を延期した。
だが、異常はその直後に起きた。
その男が異世界での目的を達せぬまま、地球の死後直前に帰還してきたのだ。
私の端末には、その情報記録が、同じ時刻に「三つ」重複して届けられた。
時間の巻き戻しが、情報のバグとして可視化された瞬間だった。
納戸 輪祢
その名には見覚えがある。
私の知人と同一の姓を持つその青年は、今や「標的」以上の興味深い観測対象となった。




