タコチン
頭の中が疼くような感覚で目を覚ました。
ここはどこだ? ジメジメして、薄暗い部屋だ。
確か、ガレスに襲われて。
「トーチャー。目を覚ましたか」
そのガレスが腕を組み、訝しげな顔で椅子に座っている。
「お前っ、なんのつもりだっ……」
やりかえすつもりはなかったけど、殴ってきた理由を問い質そうとして身を乗り出したつもりだったが、体は動かなかった。
両手足に鉄製の拘束具がはめられている。
それに、頭にも何かが乗せられている。自分で見ることはできなかったけど、こめかみ辺りにヌメヌメとした感触を感じた。
「おいっ、なんだよこれ。外してくれ」
「悪いなトーチャー。だが、償いはしてやる。お前の稼ぎの一部はあの店の女主人に送ると約束する」
女主人……ノエルのことか。でも、俺の稼ぎって、どういうことだ。
「それが言いたかっただけだ。じゃあな、もう会うこともないだろう」
「おいっ、待てよ。行くな、外せ」
ガレスは背を向け、右手を挙げながら視界から消えた。
どういうことだよ、ここは一体どこだ?
「おやおや、やっとお目覚めですか」
そう言って現れたのは、背が低く、酷い猫背で鼻の長い老人だった。
「誰だっ」俺が叫ぶと、老人はキキキと笑った。
「長い付き合いになるでな、自己紹介をしておこう。わしの名はレベルテ。この施設の所長じゃ」
「なんの施設かわからないけど、解放してくれないか? なんかの間違いだ」
「トーチャーという名じゃったな。間違いではないぞ。お主は選ばれたのじゃ、光栄に思うがええ」
選ばれた? なんのことだ。
「神から与えられし、探知のスキル。それをわしが最大限に活かし、王国のため、果ては世界のために役立てようと思っておる」
鉱山でガレスに誘われたことを思い出す。「自由も、金も、地位も手に入る」と言っていた。じゃあ、ここはどこかの国なのか? いったい俺はどれくらい気を失っていたんだろう。
「悪いが協力はできない、解放してくれ。俺は家に帰りたい」
きっとノエルも心配している。
「おやおや、おや、これは誉れあることなのですよ。敬愛すべき我が国の王は、あなたに永久名誉国民を授与せよと仰せられました。これは、あなたの全ての親族が末代まで安寧に過ごせる約束事。つまりは特権。素晴らしいことなのです……(本人には、ほとんど意味がありませんが)」
最後の言葉は聞き取れなかったけど、ガレスの言ったとおりのことなんだろう。けど。
「すみません。お金も、地位も要らない。俺は静かに暮らしたい」そう、ノエルと。
「フム、フムフムフム。たまにいるんですよね、そういう人」
レベルテは、呆れたような口ぶりで言った。
「あなたにはもう拒否する権利はありませんので、王の慈悲をありがたく受け取りなさい」
頭を小刻みに上下させ、納得したように笑った。
「放せと言っている。こんなふざけた扱いがあるかよ」
強引すぎるだろ。こんなの絶対に受け入れない。
「コレコレコレ、あまり感情を露わにするでない。タコチンが暴れてしまうじゃろ」
レベルテは持っていた小さな杖で、俺の頭の上を指した。
タコチンとはいったい……俺の頭の上に何が乗っているんだ?
「オクトパスレベラー、通称タコチン。小型のタコ系魔族じゃ。取り付いた生物の脳に寄生するかわゆいやつじゃよ」
脳に寄生……頭の中の疼きはそいつのせいなのか?
「じゃから、頭の血の巡りが激しくなったら脳細胞に入り込んだタコチンの触手が悪さをして、最悪の場合、脳死してしまうでな」
話を聞いているとだんだん気分が悪くなってきた。
「そのタコチンは、なんのために俺の頭の上に乗っているんだ」
「おお、おお、よくぞ聞いてくれた。これはわしの発明した魔道具なんじゃが」
レベルテは、楽しそうにスチームパンク的なゴーグルを取り出した。
「タコチンと魔道具は意思を共有できるんじゃが、なんとタコチンは寄生した脳を活性化することができるんじゃ。それはつまり、普段使われない脳細胞を無理矢理起こし、宿主の潜在能力を最大値まで引き上げるということ。じゃから、お前のような特殊なスキル持ちに寄生させると、このゴーグルを介してスキルを共有できるということなんじゃが……理解できるかのう」
説明下手か、全然意味が分からない。
「簡単に言うとじゃ、このゴーグルさえ付けておれば、どんなに離れた場所におってもお前の探知スキルを使えて、レアストーンをゲットできるってことじゃ」
そんな魔法みたいな……でも、そういえばここは異世界だった。
妙に納得した後、俺は自分の置かれたこの状況に身震いした。
「これから毎日、係の者がお主に飯を食わせ、下の世話をし、健康に生きていけるようにするでな。な~にも心配はいらんよ」
レベルテは真面目な顔で、そう言った。




