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不遇スキル【撤退】しか持たない商家の三男、死ぬたびに最適解を見つけてダンジョン攻略  作者: 昼ライス


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第52話 東の封印

毎日20時投稿

槍が、深く沈み込んだ。


巨大蜘蛛の甲殻を越え、その奥へと突き抜ける。


これまで何度も弾かれてきた感触はなかった。


槍術で掴んだ力の流れが、そのまま一点に集まる。


確かな手応え。


次の瞬間、巨大蜘蛛が絶叫した。


巨体が暴れる。


脚が壁を叩き、天井の糸が一斉に崩れ落ちる。


炎が揺れ、視界が赤く染まる。


だがロイは槍を離さない。


押し込む。


最後まで、通す。


やがて。


巨大蜘蛛の動きが止まった。


脚が一度、大きく震え――。


そのまま、崩れ落ちた。




静寂が戻る。


燃え残った炎が小さく揺れ、焦げた糸がぱちぱちと音を立てる。


ロイはしばらく動けなかった。


息を吐く。


ようやく、体の震えに気づく。


「……終わった、か」


「うん」


リアの声も、いつもより静かだった。


巨大蜘蛛の体が、ゆっくりと光に変わっていく。


そして、その中心に一つだけ残った。


黒く、鈍く光る牙。


人の腕ほどもある大きさだった。


「ドロップ……?」


ロイが拾い上げる。


見ただけで分かる。


普通の素材ではない。


表面には微かに紫色の光が走り、触れただけで痺れるような感覚があった。


「毒、だね」


リアが言う。


「強いよ、それ」


ロイは牙を眺めた。


硬い。


そして軽い。


このまま武器として使えるほどの強度がある。


「……槍の穂先に加工できそうだな」


思わず口に出る。


貫通力だけではなく、毒による追加の致命傷。


巨大蜘蛛を倒した報酬としては、これ以上ない。


ロイは静かに袋へしまった。




周囲を見渡す。


戦闘の痕跡は激しいが、不思議と空気は軽くなっていた。


圧が消えている。


これまで感じていた重さが、嘘のように薄れていた。


「……帰還ポータルは?」


通常なら、ボスを倒した後に現れるはずだ。


案の定、広間の隅に帰還ポータルが出現した。


しかしリアは帰還ポータルには目もくれず、奥に続く細い通路へと飛んでいった。


これまで気づかなかった道だった。


「こっち」


リアが先に飛ぶ。


迷いのない動きだった。


ロイは一瞬だけ考え、後を追う。




通路の先は、これまでのダンジョンとは明らかに違っていた。


壁の質が変わっている。


人工的な、滑らかな石。


迷宮というより、遺跡に近い空間だった。


中央に、それはあった。


壊れかけた装置。


淡い光が、不安定に明滅している。


「……なんだ、これ」


ロイは思わず呟く。


魔道具のようにも見える。


だが、規模が違う。


人が作ったものではないと直感で分かった。


リアがゆっくりと近づく。


「ちょっとだけ、待ってて」


そう言って、装置に触れた。


光が強くなる。


空気が震える。


しばらくして――。


明滅していた光が、静かに安定した。


重かった空気が、完全に消える。


ダンジョン全体が、息を吐いたようだった。




「……何したんだ?」


ロイが聞く。


リアは少しだけ笑った。


「大丈夫。もう、ここは暴れないよ」


それ以上は説明しない。


ロイも、深くは聞かなかった。


今はただ、終わったという実感の方が強かった。




帰り道。


地上へ戻ると、空気がやけに軽く感じられた。


東ダンジョンの入口は、いつもと変わらない。


だが、中にあった圧は消えていた。


ロイは一度だけ振り返り、そして街へ戻った。




数日後。


冒険者ギルドは、異様な熱気に包まれていた。


「来たぞ!」


「東を抜けたやつだ!」


視線が一斉に集まる。


ロイは思わず足を止めた。


ギルドマスターが前に出る。


「ロイ・マルクス」


重々しい声が響く。


「東ダンジョン、最深部到達および完全攻略を確認した」


ざわめきが広がる。


東ダンジョンは初心者向けとはいえ、完全攻略は容易ではない。


しかも、単独でかつ――。


「よって――」


ギルドマスターが続ける。


「史上最速の東ダンジョン攻略者として、ここに表彰する」


拍手が起こる。


歓声が混じる。


ロイは少しだけ戸惑いながら、頭を下げた。


実感はまだ薄い。


だが確かに、終わったのだ。


あの巨大蜘蛛との戦いも。


繰り返した死も。


すべてが、ここで一区切りついた。




ギルドを出ると、夕暮れだった。


リアが隣でくるりと回る。


「お疲れさま」


「ああ」


ロイは空を見上げる。


久しぶりに、何も追われていない気がした。


東ダンジョンは攻略した。


もう大丈夫だ。


そう思えた。


だからこそ――。


その静けさが、少しだけ不思議だった。


いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

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本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


作者の新作です。

現代日本×ヒーローSF

 「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」

蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。

もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。

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