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不遇スキル【撤退】しか持たない商家の三男、死ぬたびに最適解を見つけてダンジョン攻略  作者: 昼ライス


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第48話 届く距離、届かない相手

毎日20時投稿

中層へ降りる足取りは、これまでよりも静かだった。


焦りはない。


急ぐ理由もない。


浅層ではゴブリンを数体処理し、中層に入ってからは狼と二度戦った。


どちらも危なげはない。


呼吸は乱れず、視界も安定している。


戦闘が終わったあとも、体に余裕が残っていた。


「もう完全に慣れたね」


リアが言う。


「ああ」


ロイは短く答えた。


強くなったというより、崩れなくなった。


以前は一度の戦闘で余裕を削られていた。


今は違う。


戦いながら考えられる。


次の動きまで見える。


それだけで、戦闘の質は大きく変わっていた。




中層の奥へ進む。


狼の気配が徐々に減っていく。


ここから先の変化は、もう知っている。


足を止め、壁を見る。


細い糸が一本、光を受けて揺れていた。


「……ここから先だな」


確認するように呟く。


本来、中層には存在しないものがいる領域。


深層から漏れ出した蜘蛛の縄張り。


ロイは槍を握り直した。


目的は討伐ではない。


確認だ。




気配はすぐに現れた。


壁を這う音。


糸が擦れる微かな振動。


中型蜘蛛。


以前、自分を殺した個体と同種だ。


ロイは構えを崩さない。


距離を維持する。


踏み込まない。


焦らない。


糸が飛ぶ。


横へ避ける。


脚の振り下ろしを槍でいなし、すぐに距離を戻す。


呼吸は安定している。


視界も狭くならない。


すべてが見える。


以前とは違った。


余裕がある。


攻め急がず、崩れない位置を保つ。


時間をかけて隙を待つ。


脚の動きが鈍った瞬間、槍を突き込む。


確かな手応え。


中型蜘蛛が崩れ落ちた。




しばらくその場に立ち、周囲を確認する。


息は乱れていない。


腕の震えもない。


「……問題ないな」


「余裕だったね」


「ああ」


ロイは頷いた。


勝てた理由は単純だ。


無理をしなかった。


崩れなかった。


それだけだ。




さらに奥へ進む。


糸の量が増え、空気が変わる。


ここから先は、前に死んだ場所に近い。


ロイは足を止めた。


――いる。


姿は見えない。


だが分かる。


中型蜘蛛とは明らかに違う重さ。


巨大蜘蛛の気配。


縄張りの中心。


ロイは一歩も踏み込まない。


距離を測る。


逃げ道を確認する。


頭の中で、以前の戦闘をなぞる。


今なら、ある程度は対応できる。


そう思えるだけの余裕はあった。


だが――。


「……今じゃない」


小さく呟く。


「行かないの?」


リアが聞く。


「ああ」


ロイは首を振った。


「勝てないわけじゃない」


正直な感想だった。


動きは見えている。


糸にも対応できる。


だが、それだけでは足りない。


問題は別のところにある。




もしここで死ねば、このループは終わる。


ここまで積み上げた装備も、資金も、全部消える。


買い揃えた消耗品も。


稼いできた時間も。


次に戻った時、また最初からだ。


そして――。


まだ急ぐ必要はない。


タイムリミットまでは、まだ一か月以上ある。


「今、挑む理由がない」


ロイは静かに言った。


勝てるかどうかではない。


勝負をする意味があるかどうかだ。




来た道を戻る。


背中を向けても、巨大蜘蛛は追ってこない。


縄張りの奥から動かないのだろう。


出口の光が見えたとき、ようやく肩の力を抜いた。


「慎重だね」


リアが言う。


「商人だからな」


ロイは小さく笑った。


「損をする勝負はしない」


今はまだ、その時ではない。




ダンジョンの外に出る。


夕方の空気が冷たい。


巨大蜘蛛までの距離は、確実に縮まっている。


だが、あと一歩足りない。


「もう少しだな」


ロイは呟いた。


何が足りないのかは、まだはっきりしない。


だが分かる。


このままでは、決め手に欠ける。


次にあそこへ行くときは――。


終わらせるために行く。


ロイは街へ向かって歩き出した。

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作者の新作です。

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