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不遇スキル【撤退】しか持たない商家の三男、死ぬたびに最適解を見つけてダンジョン攻略  作者: 昼ライス


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第46話 金の使いどころ

毎日20時投稿

目を覚ました朝、ロイはしばらく天井を見つめていた。


体は無傷だ。


痛みも残っていない。


だが、あの瞬間の感覚だけははっきりと覚えている。


足を取られた感触。


呼吸が乱れた瞬間。


判断が、ほんの一瞬だけ遅れたこと。


「……あれだな」


小さく呟く。


「なにが?」


リアが顔を覗き込む。


「呼吸だ」


ロイはゆっくりと起き上がった。


体力が足りなかったわけじゃない。


動きが遅かったわけでもない。


戦闘が長引いた時、呼吸が乱れた。


その瞬間、視野が狭くなった。


判断が遅れた。


結果は、あれだ。


「分かってるなら、次は大丈夫じゃない?」


「……そうでもない」


ロイは首を振った。


分かっていることと、できることは違う。




その日から数日。


ロイは再びダンジョンへ潜り続けた。


浅い層でゴブリンと戦い、中層手前で狼と戦う。


呼吸を意識する。


吸って、吐いて、力を抜く。


最初はうまくいく。


だが戦闘が続くと、どうしても乱れる。


意識している間しか保てない。


気を抜いた瞬間に崩れる。


「難しいね」


リアが言う。


「ああ」


ロイは短く答えた。


技術として身につけようとしている。


だが、戦闘の最中に常に意識し続けるのは難しい。


考えることは多い。


距離、足場、敵の動き、退路。


そこに呼吸まで加わると、どこかが疎かになる。


「……限界があるな」


ダンジョンの出口で、ロイは呟いた。




街に戻ったのは夕方だった。


市場はまだ賑わっている。


冒険者が素材を売り、商人が値段を交渉している。


いつもと変わらない光景。


だが、ロイの視線は自然と別の方向へ向いていた。


ギルドの奥。


スキルスクロールを扱う店だ。


「行くの?」


リアが聞く。


「……ああ」


ロイは少しだけ迷ってから歩き出した。




店の中は静かだった。


棚に並ぶ筒状のケース。


中に収められているのは、どれも高価なスキルスクロールだ。


「何を探している?」


店主が声をかけてくる。


「呼吸……戦闘補助系のものを」


店主は少し考え、一本を取り出した。


「これだな。《呼吸制御》」


ロイは手に取る。


説明を読むまでもなく、分かった。


戦闘中の呼吸の乱れを抑える補助系スキル。


派手さはない。


攻撃力も上がらない。


だが、生存率は確実に上がる。


「地味だが、長く潜るやつは好む」


店主が言う。


「初心者はあまり買わないな。分かりにくいから」


ロイは苦笑した。


確かにそうだ。


以前の自分なら選ばなかった。


もっと分かりやすい強さを求めていたはずだ。




値段を聞く。


高い。


今まで稼いできた金の、ほとんどが消える。


一瞬だけ、迷いがよぎった。


装備更新。


予備のポーション。


将来のための貯金。


商人としては、金を残すのが正しい。


だが――。


ロイは静かに息を吐いた。


思い出す。


糸に絡め取られた瞬間。


死んだ後、すべてが消えたこと。


金も、装備も、何も残らなかった。


「……意味ないな」


「ん?」


「貯めても、死んだら終わりだ」


リアが小さく笑った。


「やっと気づいた?」


ロイは頷いた。


金は残すためのものじゃない。


生き残るために使うものだ。


「これをくれ」


迷いはなかった。




スクロールを開く。


文字が光り、視界に溶け込む。


息を吸う感覚が、少しだけ変わった。


体の奥に、静かなリズムが生まれる。




*************************************

ロイ・マルクス

固有スキル:《撤退》


習得スキル:《足運び》《投擲補助》

《危機察知》《呼吸制御》

*************************************




「どう?」


リアが聞く。


ロイは軽く息を吐いた。


深く、自然に。


「……楽だな」


無理に整えなくても、呼吸が乱れない。


体の力みが抜けていく。




翌日。


ダンジョンで狼と戦う。


違いはすぐに分かった。


息が上がらない。


視界が狭くならない。


余裕がある。


攻撃を見てから動ける。


「変わったね」


「ああ」


ロイは短く答えた。


強くなったわけではない。


だが、崩れにくくなった。


それだけで戦いは変わる。




ダンジョンの出口へ向かいながら、ロイは巨大蜘蛛を思い出していた。


あの速さ。


あの距離。


まだ足りない。


だが――。


「次は、もう少し奥まで行けるな」


リアは何も言わなかった。


ただ、いつものように隣を飛んでいる。


巨大蜘蛛までの距離は、確実に縮まっていた。


いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

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本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


作者の新作です。

現代日本×ヒーローSF

 「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」

蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。

もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。

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