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不遇スキル【撤退】しか持たない商家の三男、死ぬたびに最適解を見つけてダンジョン攻略  作者: 昼ライス


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第44話 慣れるための戦い

毎日20時投稿

ロイが最初に向かったのは、ダンジョンではなかった。


武器屋だった。


朝の市場はまだ人が少ない。荷車の音と、店を開ける準備の音が通りに響いている。


この光景も、もう何度目か分からない。


だが今回は少し違った。


知っている未来があるからではない。


やることが決まっているからだ。


「いらっしゃい」


店主が顔を上げる。


当然だが、初対面だ。


「槍を一本」


「初めてか?」


「ああ」


短いやり取り。


差し出されたのは、以前と同じ型の槍だった。重さも、長さも、手に馴染む。


だが感覚は違う。


前はこれから始まるという重さだった。


今は、やり直しの軽さがあった。


投擲ダガーも数本買う。


防具は最低限。


動きを妨げない革装備だけにした。


今回は深層に行かない。


目的が違う。




ダンジョンへ入ったのは、その日の昼だった。


薄ぼんやりと光る通路。


湿った空気。


変わらない光景。


「懐かしい?」


リアが笑う。


「そんなに時間は経ってない」


ロイは肩をすくめた。


だが、体の感覚は少し違った。


知っている場所を歩く安心感。


そして――今回は、避けない。




最初の戦闘はゴブリンだった。


二体。


以前なら距離を取って確実に処理していた数だ。


だが今回は、一歩踏み込む。


槍の間合いに入る前の動き。


腕の振り。


足の運び。


すべてを見る。


突き、引き、避ける。


危なくなれば離れる。


倒すまでに時間がかかった。


だが、それでいい。


「前より近いね」


「ああ」


息を整えながら答える。


怖さは消えていない。


だが、距離が分かる。


それが重要だった。




三日目。


ロイはすでに中層手前まで降りていた。


無理はしていない。


だが戦闘回数は明らかに増えていた。


狼との戦闘も、以前とは違う。


逃げる前提ではなく、受けてから離れる。


噛みつきの速度。


踏み込みの癖。


視線の動き。


体で覚えていく。


腕に浅い傷が増えた。


だが致命傷ではない。


「ちょっと危なくない?」


リアが言う。


「まだ逃げられる」


ロイは短く答えた。


その判断だけは絶対に外さない。




五日目。


中層に入る。


糸の量が増え始める。


巨大蜘蛛の領域までは行かない。


中型蜘蛛ともまだ戦わない。


今日は狼だけだ。


三体同時。


囲まれる形になった。


以前なら即撤退していた。


だが今回は違う。


一歩下がり、攻撃を受け流す。


足運びで距離を作る。


槍で牽制しながら位置を変える。


呼吸が荒くなる。


判断が遅れかける。


その瞬間――離脱した。


通路へ逃げ込み、追撃を振り切る。


「……はあ」


壁に手をつき、息を吐く。


心臓が速い。


怖かった。


だが――。


「分かった」


「なにが?」


「ここまでなら死なない」


境界が見え始めていた。




一週間が過ぎた。


体の疲労はある。


だが動きは軽くなっている。


戦闘そのものへの抵抗が減っていた。


危険が消えたわけではない。


むしろ、よく分かるようになった。


どこからが危険か。


どこまでなら踏み込めるか。


そして――。


巨大蜘蛛の速さを思い出す。


あれは、まだ遠い。


「まだ足りないな」


ロイは呟いた。


「うん」


リアも否定しない。




ダンジョンの出口が見える。


夕方の光が差し込んでいた。


今日はここまでだ。


無理はしない。


積み上げることが目的だからだ。


だが、次はもう少し踏み込める。


そう確信していた。


「次は?」


リアが聞く。


ロイは少しだけ考えてから答える。


「もう少し危ないところまで行く」


その言葉に、リアは何も言わなかった。


ただ、小さく笑っただけだった。


いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

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本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


作者の新作です。

現代日本×ヒーローSF

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もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。

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