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不遇スキル【撤退】しか持たない商家の三男、死ぬたびに最適解を見つけてダンジョン攻略  作者: 昼ライス


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第43話 経験不足

毎日20時投稿

「ロイ、寝坊だぞ!」


扉越しに聞こえた父の声で、ロイは目を覚ました。


天井が見える。


見慣れた、実家の天井だった。


朝の光が窓から差し込み、部屋の中を淡く照らしている。


数秒、何も考えずに瞬きを繰り返す。


体に痛みはない。


呼吸も正常だ。


胸を押さえる。鼓動は早くない。


だが――記憶だけは、はっきり残っていた。


糸に絡め取られた感触。


引き寄せられる感覚。


そして、牙が食い込んだ瞬間。


「……戻ったか」


小さく呟く。


久しぶりの感覚だった。


初めて死んだ時ほどの衝撃はない。混乱もない。ただ、確認するように現実を受け入れていた。


「おはよう」


横から声がした。


リアが、いつもの位置で浮かんでいる。


「起きた?」


「ああ」


ロイはゆっくりと上体を起こした。


痛みは完全に消えている。


だが、あの時の距離感だけは体に残っていた。


巨大蜘蛛との距離。


一歩遅れた瞬間。


あれは、装備の問題ではなかった。




「そういえば」


リアが思い出したように言う。


「先に見た方がいいんじゃない?」


「ああ」


ロイは頷く。


意識を集中させる。


視界の端に、見慣れた表示が浮かび上がった。




*************************************

ロイ・マルクス

固有スキル:《撤退》


習得スキル:《足運び》《投擲補助》

《危機察知》

*************************************




ロイは静かに息を吐いた。


「……残ってるな」


「だから言ったでしょ」


リアが肩をすくめる。


死に戻っても、スキルは消えない。


何度も確認してきたことだ。


それでも、こうして改めて見ると安心する。


積み上げは消えていない。


失ったのは、時間と装備だけだ。




部屋を見回す。


槍はない。


革鎧もない。


油瓶も、火属性魔石もない。


当然だ。


ここは誕生日の朝。


まだ冒険者として動き始める前の時間だ。


「全部やり直しか」


「でも、早くなるでしょ?」


リアが言う。


「ああ」


それは間違いない。


ルートも、敵も、危険な場所も知っている。


だが――。


ロイは少しだけ目を細めた。




巨大蜘蛛との戦いを思い出す。


作戦は間違っていなかった。


火も油も有効だった。


誘導も成立していた。


それでも死んだ。


「……経験だな」


自然と口から出た。


「経験?」


リアが首を傾げる。


「ああ」


ロイは頷く。


「分かってなかった」


速さ。


間合い。


圧。


頭では理解していた。


だが、体が知らなかった。


初めて真正面で受けた時、判断が一瞬遅れた。


その一瞬で終わった。




装備を整えようとして、手が止まる。


まだ何もない。


これから買うのだ。


最初から。


だが、今回は急がない。


「すぐダンジョン行くの?」


リアが聞いた。


「行く」


ロイは答える。


「でも、奥には行かない」


巨大蜘蛛のところへは、まだ行かない。


同じことを繰り返すだけだ。




中層には敵がいる。


いくらでも。


今までなら避けていた戦闘。


無駄な消耗になるからだ。


だが今回は違う。


必要な消耗になる。


「戦う回数を増やす」


ロイは静かに言った。


「慣れるまでやる」


距離に。


速度に。


攻撃の重さに。


死ぬかもしれない距離に。


「今回は、強くなるために使う」


撤退のスキルは、やり直すためのものだ。


ならば使う。


経験を積むために。




リアがくすりと笑う。


「やっと修行回だね」


「そんなつもりはない」


「でもやることは同じだよ?」


ロイは苦笑した。


否定はできない。


今までのループは攻略だった。


今回は違う。


積み上げるためのループだ。




部屋の外から、再び父の声がした。


「ロイ!本当に遅れるぞ!」


「ああ、今行く!」


返事をして立ち上がる。


窓の外は、いつも通りの朝だった。


世界はまだ終わっていない。


時間も、まだある。


だから急がない。


次に巨大蜘蛛と向き合う時は――。


今度こそ、一瞬の遅れもなく動けるように。


ロイは扉を開けた。


いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


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現代日本×ヒーローSF

 「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」

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もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。

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