第38話 火の有効性
毎日20時投稿
東ダンジョンの入口に立った時、ロイの足取りはこれまでとは少し違っていた。
迷いがない。
急いでいるわけでもない。
ただ、目的がはっきりしている。
「今日は試すだけだ」
小さく呟く。
腰袋の中には、油瓶と火属性魔石。毒消しポーションもいつもより多い。
「倒すためじゃないんだよね」
リアが確認する。
「ああ」
ロイは頷いた。
「使えるかどうかを見る」
それだけでいい。
無理はしない。
中層へ降りる。
空気は相変わらず重かった。
糸の量はさらに増えている。通路の端だけではなく、天井から垂れた糸が重なり、場所によっては視界が半分ほど塞がれている。
「……ひどくなってるな」
「うん」
リアも周囲を見回す。
小蜘蛛が何匹も壁を走っているのが見えた。
以前なら処理していた数だが、今は無視する。
目的は別にある。
通路の途中、糸が密集している場所でロイは立ち止まった。
「ここで試すか」
油瓶を取り出し、床と壁に軽く撒く。
量は多くない。
あくまで確認だ。
次に、火属性魔石を取り出す。
手のひらの中で赤く淡く光る。
「……いくぞ」
魔石を油の上へ投げた。
次の瞬間、小さな火が走る。
ぱち、と乾いた音。
火は一気に糸へ燃え移った。
「おお……」
リアが思わず声を漏らす。
細い糸は一瞬で焼け落ちた。
垂れ下がっていた束が崩れ、視界が開ける。
煙は少ない。
火もすぐに弱まる。
「……切るより早いな」
ロイは焼け落ちた通路を見渡した。
槍で一本ずつ払うより、圧倒的に速い。
進路が一瞬で確保される。
これは使える。
だが同時に分かることもあった。
油を使う量が多い。
火が広がる範囲も完全には読めない。
「連続では使えないな」
「うん。ここ、燃えすぎたら危ないし」
リアの言う通りだった。
便利だが万能ではない。
その時、気配が動いた。
壁の奥から、中型蜘蛛が姿を現す。
「……来たか」
ロイは槍を構えた。
距離は十分。
以前なら、ここから糸に囲まれて動きを制限されていた。
だが今は違う。
焼け落ちた場所が、空間を作っている。
蜘蛛が糸を吐く。
だが足場が少ない。
踏み込みが鈍る。
「いける」
ロイは前へ出た。
槍を突き、すぐに引く。
蜘蛛が回り込もうとする。
ロイは油を少量撒き、魔石を転がした。
火が走る。
蜘蛛が一瞬動きを止めた。
その隙に踏み込む。
外殻の隙間へ突き込む。
鈍い感触。
中型蜘蛛が大きく揺れ、壁にぶつかる。
追撃はしない。
距離を取り、動きを待つ。
数秒後、蜘蛛は動かなくなった。
静寂が戻る。
ロイはゆっくり息を吐いた。
「……楽だな」
正直な感想だった。
強くなったわけではない。
だが戦い方が変わった。
糸に支配されないだけで、ここまで違う。
「中型なら、もう大丈夫そうだね」
「ああ」
頷く。
対策があれば勝てる。
それがはっきりした。
だが、すぐに現実が戻ってくる。
油瓶を見下ろす。
すでに一本使い切っていた。
「消費が重いな……」
「長くは持たないね」
リアも同意する。
そして、二人とも同じことを考えていた。
巨大蜘蛛。
あれほどの巣を焼くには、これでは足りない。
帰路につきながら、ロイは考えていた。
中型蜘蛛は対処できる。
糸も、ある程度はどうにかなる。
だが――。
「あれには足りないな」
自然と口に出る。
「うん」
リアも否定しない。
「あれ、全部燃やすには足りない」
火は有効だ。
だが決定打ではない。
出口の光が見えてきた。
ロイは歩きながら、小さく呟いた。
「……もう一つ、必要だな」
方法か。
装備か。
あるいは、戦い方そのものか。
巨大蜘蛛に届くには、まだ足りない。
だが、前に進んでいる感覚はあった。
確実に。
いつもありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、
★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。
本作は毎日更新中です。
明日もお待ちしています。
作者の新作です。
現代日本×ヒーローSF
「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」
蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。
もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。




