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不遇スキル【撤退】しか持たない商家の三男、死ぬたびに最適解を見つけてダンジョン攻略  作者: 昼ライス


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第33話 毒

毎日20時投稿

中層へ降りてから、ロイはいつもより慎重に歩いていた。


足取りは速い。


だが視線は常に動いている。


天井。壁。足元。


糸の位置を確認しながら進むのは、もう完全に癖になっていた。


「昨日の場所、行かないの?」


リアが横を飛びながら聞く。


「ああ。今日は避ける」


前回見つけた巣の方向を思い出す。


あれは今戦う必要のある相手ではない。


情報は得た。規模も分かった。それで十分だ。


無理をする理由はない。


「進めるところを進む」


「うん。いいと思う」


リアは素直に頷いた。




小蜘蛛が二体、壁を伝って近づいてくる。


ロイは止まらない。


投擲ダガーを一本投げ、片方の動きを止める。もう一体を槍で払う。倒れたのを確認してすぐに歩き出す。


以前より戦闘が短い。


無駄がない。


だが、それでも進みは遅かった。


糸の量が増えている。


足場を選ばなければならない。


「……やっぱり増えてるな」


「うん」


リアも周囲を見回している。


静かだった。


狼の気配が遠い。


その代わりに、空気が重い。




異変は、突然だった。


横穴から、何かが飛び出した。


「――っ!」


反射的に後退する。


目の前に現れたのは、小蜘蛛ではなかった。


大きい。


人間と同じくらいの体躯。


長い脚が石壁を掴み、低い姿勢でロイを見ている。


「……中型か」


思わず呟く。


昨日見た抜け殻と同じ大きさだった。


「ロイ」


「ああ、分かってる」


逃げる距離ではない。


すでに間合いに入っている。


戦うしかない。




蜘蛛が動いた。


速い。


だが狼ほどではない。


ロイは槍を突き出す。先端が外殻をかすめ、蜘蛛が横へ跳ぶ。


すぐに距離を取り直す。


「……読めるな」


動き自体は単純だ。


直線的に踏み込み、噛みつく。それだけ。


槍との相性は悪くない。


再び踏み込んできたところを突く。


今度は深く入った。


蜘蛛が後退する。


「いける」


そう判断した。


狼より少し厄介な程度。


そう思った瞬間だった。




足が止まる。


「……!」


気づくのが一瞬遅れた。


足首に糸が絡んでいる。


細いが、引っ張られる感覚がある。


蜘蛛が踏み込む。


ロイは無理やり体を捻って避ける。


牙がかすめた。


だが、完全には避けきれなかった。


左脚に鋭い痛みが走る。


「っ……!」


浅い。


傷は深くない。


だが次の瞬間、違和感が走った。


足に力が入らない。


感覚が鈍い。


「……毒か」


舌打ちが漏れる。


視界がわずかに揺れる。


呼吸が浅くなる。


蜘蛛が距離を詰めてくる。


まずい。


このままでは動けなくなる。




ロイは後退しながら腰袋を探った。


瓶を掴む。


栓を歯で抜き、そのまま飲み干す。


毒消しポーション。


苦い液体が喉を焼くように落ちていく。


「……効け」


蜘蛛が再び踏み込む。


ロイは無理に攻めない。


距離を取る。


時間を稼ぐ。


数秒。


それだけでいい。


痺れが少しずつ引いていく。


足に力が戻る。


「……よし」


息を整える。


ここからだ。




正面からでは分が悪い。


ロイは腰袋から小瓶を取り出し、地面へ投げた。


油が石床に広がる。


蜘蛛が踏み込む。


脚がわずかに滑る。


その一瞬。


ロイは踏み込んだ。


槍を低く構え、体重を乗せる。


外殻の隙間へ突き込む。


鈍い手応え。


蜘蛛の動きが止まる。


さらに押し込む。


脚が暴れ、石壁を引っかく音が響く。


やがて力が抜け、巨体が崩れ落ちた。




静寂が戻る。


ロイはすぐに距離を取った。


動かないのを確認してから、ようやく息を吐く。


「……危なかったな」


足を見下ろす。


傷は浅い。


だが、毒が回るのは早かった。


「ロイ、顔色悪いよ」


「分かってる」


苦笑する余裕はあった。


だが心臓の鼓動はまだ速い。


ほんの一歩遅れていたら、動けなくなっていた。


そうなれば終わりだった。




蜘蛛の死体を見下ろす。


強い敵ではない。


だが――。


「事故るな、これ」


自然と口に出た。


一度噛まれるだけで終わる可能性がある。


今までの敵とは質が違う。


「これ、増えたらまずいね」


リアの声は軽くなかった。


「ああ」


ロイは否定しなかった。




帰路につく。


今日はもう十分だった。


勝った。


だが余裕はなかった。


慎重だったはずなのに、噛まれた。


それが何より重かった。


中層の奥で、何かが確実に増えている。


そう確信しながら、ロイは出口へ向かった。



いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

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本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


作者の新作です。

現代日本×ヒーローSF

 「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」

蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。

もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。

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