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不遇スキル【撤退】しか持たない商家の三男、死ぬたびに最適解を見つけてダンジョン攻略  作者: 昼ライス


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第32話 踏み込む理由

毎日20時投稿

東ダンジョンの入口をくぐった瞬間、ロイは一度だけ深く息を吐いた。


空気はいつもと同じだ。


薄く光る石壁。湿った空気。遠くから聞こえるかすかな物音。


何も変わっていない。


――はずだった。


「……行こう」


自分に言い聞かせるように呟き、歩き出す。


以前より、少しだけ歩く速度が速い。


焦っているわけではない。無理をしているわけでもない。ただ、止まる理由が減っただけだ。


戦う必要のない相手は避ける。無駄に立ち止まらない。進める時に進む。


それだけの違いだった。


「今日はちょっと早いね」


リアが横でくるりと回る。


「無駄を減らしてるだけだ」


「ふーん」


軽い返事だったが、どこか納得したような声だった。




中層へ降りる。


すぐに違和感があった。


「……また増えたな」


天井を見上げる。


糸の量が、昨日よりさらに増えている。細い糸が重なり、場所によっては薄く膜のようになっていた。


槍の柄で払いながら進む。


切れる。


だが数が多い。


「小蜘蛛、増えてる?」


「だろうな」


ロイは短く答える。


すでに珍しい光景ではない。小蜘蛛の出現そのものには慣れてしまっていた。


問題は別にある。


視界が狭い。


進路を決める前に確認することが増えた。


それだけで、進行速度が少しずつ削られていく。




最初の戦闘は、狼だった。


一体。


距離は十分。


ロイは踏み込み、突き、すぐに距離を取る。余計な追撃はしない。倒れたのを確認してすぐに周囲を見る。


以前なら、ここでもう少し奥まで確認していた。


今は違う。


止まらない。


「無駄が減ったね」


「時間がないからな」


口に出してから、自分でも少し驚いた。


以前なら言わなかった言葉だ。


だが、否定する気にはならなかった。




その先で、小蜘蛛が三体現れた。


数は多い。


だが脅威ではない。


ロイは投擲ダガーを一本投げ、動きを止める。近づいてきた個体だけを槍で処理し、残りは深追いしない。


戦闘時間は短い。


「前より早い」


「全部倒す必要はない」


リアが小さく笑う。


「商人っぽい」


「無駄な仕入れはしない」


そう言いながらも、ロイの視線は奥を向いていた。


進める時に進む。


それが今日の方針だった。




しばらく進んだところで、ロイは足を止めた。


「……なんだ?」


空気が違う。


静かすぎる。


モンスターの気配がない。


その代わりに――。


「糸、太くない?」


リアの声が少し低くなる。


ロイは天井を見上げた。


今まで見てきたものとは違う。


糸が太い。


細い線ではなく、縄のように重なっている部分がある。


「……小蜘蛛じゃないな」


思わず呟く。


ここまでの量は作れない。


通路の奥へ進む。


足音を抑え、慎重に。


そして、すぐに理由が分かった。


壁の一部が、糸で覆われている。


巣だ。


明らかに今までとは規模が違う。


そして、その中央。


床に落ちていたものを見て、ロイは眉をひそめた。


「……抜け殻か」


脚の一部だった。


長い。


人の腕ほどの太さがある。


乾いた外殻が割れ、内側が空になっている。


「これ……」


リアの声が小さくなる。


「大きいね」


「ああ」


小蜘蛛ではない。


狼よりも大きい。


人間と同じくらいの体格を持つ個体。


ここまで上がってきている。


それだけは分かった。




ロイは周囲を見回した。


気配はない。


だが、いる。


どこかに。


この巣を作った個体が。


「……戻る」


即座に判断する。


「戦わないの?」


「情報だけで十分だ」


無理をする理由がない。


位置も分かった。規模も分かった。


それでいい。


ここで戦えば、ただの無駄になる。


ロイは静かに来た道を引き返した。




帰路は早かった。


戦闘も避ける。


今日はこれ以上進まない。


それでいい。


だが、頭の中では計算が変わっていた。


小蜘蛛の増加。


糸の密度。


そして中型の個体。


進行が遅れている理由が、はっきりしてきた。


「ロイ」


「ん?」


「さっきの、上から来てると思う?」


リアが言う。


「深い方から」


ロイは少しだけ考えた。


「……たぶんな」


否定する材料がない。


むしろ、そう考える方が自然だった。




出口が見える。


外の光が差し込む。


ロイは歩きながら、小さく呟いた。


「……少し、急ぐか」


慎重さは捨てない。


だが、止まっている時間はもうない。


東ダンジョンの奥で、何かが確実に動いている。


それだけは、もう間違いなかった。


いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

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本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


作者の新作です。

現代日本×ヒーローSF

 「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」

蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。

もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。

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