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不遇スキル【撤退】しか持たない商家の三男、死ぬたびに最適解を見つけてダンジョン攻略  作者: 昼ライス


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第31話 守りたい場所

毎日20時投稿

町の空気は、ダンジョンのそれとはまったく違っていた。


石畳を踏む音。荷車の軋む音。遠くで交わされる商人同士の声。焼きたてのパンの匂いまで混ざっている。


当たり前の光景だ。


けれどロイは、ダンジョンから戻るたびに少しだけ足を止めてしまう。


――ここは、まだある。


そんな確認をするように。


「どうしたの?」


肩のあたりを飛んでいたリアが覗き込む。


「いや」


ロイは首を振る。


「なんでもない」


本当に、なんでもないはずだった。


だが、胸の奥に残る感覚は消えない。


この町が崩れた光景を、ロイは知っている。


石壁が崩れ、人が逃げ惑い、空が黒く覆われたあの日を。


誰も知らない記憶だ。




家に戻ると、ちょうど夕食の準備が始まっていた。


「おかえり」


母が振り返る。


「今日は早かったな」


父が帳簿から顔を上げた。


「ああ。少しな」


嘘ではない。


最近は早めに切り上げることが増えている。


「ダンジョン、最近どうなんだ?」


父が何気なく聞いた。


「前より冒険者が増えてる気がするな。素材の流れも少し変わってる」


商人としての視点だ。


ロイは少し考えてから答える。


「まあ、少し変わってきてるかもな」


「危ないのか?」


「いや。そこまでじゃない」


実際、嘘ではない。


危険ではない。


ただ、やりにくいだけだ。


それをどう説明すればいいのか、ロイ自身も分かっていなかった。




食卓には、いつもの顔が揃った。


長男のルイは仕事の話をしながら食事を進め、次男のレイは途中でロイの装備をちらりと見た。


「バックラー、使ってるな」


「ああ」


「役に立ってるか?」


「この前、助かった」


狼の牙を受け止めた感触を思い出す。


あれがなければ、腕をやられていたかもしれない。


「そうか」


レイは満足そうに頷いた。


それ以上は何も聞かない。


だが、視線だけが少し長く残った。




食事が終わり、他の家族が席を立った後だった。


「ロイ」


レイが声をかけてきた。


「少し歩くか?」


断る理由はなかった。




夜の町は昼より静かだった。


店の灯りがまばらに残り、人通りも少ない。


並んで歩きながら、しばらく誰も口を開かなかった。


「……焦ってるだろ」


先に言ったのはレイだった。


ロイは少しだけ足を止める。


「そんな顔してる」


「してるか?」


「してる」


即答だった。


誤魔化す意味はないと分かる。


「別に、焦ってるわけじゃない」


「嘘つけ」


レイは笑った。


「お前、昔から分かりやすいんだよ」


そう言われると、反論できない。


「急ぐ理由があるなら、それはいい」


レイは前を向いたまま言う。


「でもな」


少しだけ声が低くなる。


「死ぬなよ」


ロイは何も答えなかった。


「急いでるやつは、大体そこを忘れる」


「……分かってる」


それだけ返す。


本当に分かっている。


死ねない。


死んではいけない。


――本当は、何度も死んでいるのだとしても。




部屋に戻ると、リアがベッドの上に座っていた。


小さな体で膝を抱えるような格好をしている。


「いい家族だね」


「……ああ」


短く答える。


「ここ」


リアが部屋を見回す。


「なくなったんだよね」


ロイは否定しなかった。


言葉にする必要もない。


あの日、この町は終わった。


家も、人も、日常も。


全部失われた。


「だから急いでるんでしょ」


リアの声は、責めるものではなかった。


ただ事実を確認するような声音だった。


「……ああ」


ようやく認める。


慎重に進んでいるつもりだった。


だが本当は違う。


間に合わなかった未来を知っているから、焦っている。


「でもさ」


リアがふわりと浮かび上がる。


「守りたいなら、無茶はだめだよ」


「分かってる」


ロイは苦笑した。


「分かってるつもりだ」




翌朝。


装備を整え、家を出る。


いつもの道。


いつもの町。


変わらない景色。


ロイは一度だけ振り返った。


守りたいものが、ここにある。


だから進む。


慎重に。


だが、止まらずに。


東ダンジョンの入口が、朝の光の中で静かに口を開けていた。


いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

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本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


作者の新作です。

現代日本×ヒーローSF

 「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」

蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。

もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。

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