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不遇スキル【撤退】しか持たない商家の三男、死ぬたびに最適解を見つけてダンジョン攻略  作者: 昼ライス


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第22話 小盾の使い方

毎日20時投稿

中層に入ってから、戦闘そのものは減っていた。


敵が減ったわけではない。ロイの動きが変わったのだ。危険な配置を避け、戦う必要のない相手は無視する。戦うと決めた相手だけを確実に処理する。


結果として、消耗は減り、探索時間は伸びた。


理想的な状態だった。


「最近、安定してるね」


肩の横でリアが言う。


「まあな」


ロイは短く答えながら通路の先を確認する。


気配は二つ。


狼だ。


距離はある。問題ない。


以前なら、ここで一度距離を取り、片方を誘い出してから戦っていた。だが今は違う。位置も悪くないし、通路も広い。


処理できる。


そう判断した。


狼が二手に分かれる。


一体が正面から、もう一体が少し遅れて側面へ回る動き。


読めている。


ロイは槍を構え、正面の個体に意識を集中させた。


飛び込み。


突き。


手応えは浅いが、動きは止まる。


そのまま踏み込もうとした瞬間、二体目が視界の端で動いた。


速い。


「――っ」


反射的に左腕を上げる。


牙がアームバックラーにぶつかり、衝撃が腕に走る。


防げた。


だが――。


体勢が崩れる。


踏み込みが止まり、足が半歩後ろへ流れる。


その一瞬の隙を、最初の狼が見逃さなかった。


低く唸り、再び距離を詰めてくる。


「……まずいな」


小さく呟く。


正面は防げる。


だが、同時には無理だ。


バックラーは一方向しか守れない。


当たり前のことだった。


だが、実際に崩されて初めて実感する。


盾があることで、踏み込みが一瞬遅れていた。


避けるより、受ける選択をしていた。


それが今、位置を悪くしている。


「ロイ、下がって!」


リアの声が飛ぶ。


ロイは即座に判断を切り替えた。


倒す必要はない。


ここは引く。


足運びを意識し、横へ滑るように距離を取る。追ってくる狼の前に投擲ダガーを放ち、動きを止める。


完全な隙は作れないが、それで十分だった。


さらに後退。


狼たちは追ってこない。縄張りの境界を越えたのか、低く唸るだけで距離を保っている。


しばらく睨み合いが続き、やがて狼は奥へ戻っていった。


静寂が戻る。


「……はぁ」


ロイはようやく息を吐いた。


腕がじんじんと痺れている。バックラーには新しい傷が増えていた。


「大丈夫?」


「ああ。怪我はない」


だが、気分は良くなかった。


明確な失敗だった。


「今の、前なら戦わなかったよね」


リアの言葉に、ロイは苦笑する。


「……そうだな」


以前の自分なら、一体ずつ誘い出していた。時間はかかるが、安全だった。


だが今日は違った。


守れると思った。


だから踏み込んだ。


「盾は便利だね」


リアが言う。


「便利だな」


ロイは素直に認める。


「でも――」


言葉を切る。


バックラーを見下ろす。


「前に出る理由にはならないな」


守れるのは一方向だけ。


体勢を崩せば意味がない。


むしろ、受けられるという意識が判断を遅らせる。


それが今日の失敗だった。


「ロイっぽい結論」


リアがくすっと笑う。


「まあな」


ロイは槍を持ち直す。


今日はこれ以上奥へ進まない方がいい。無理をする理由はない。


撤退。


それが正解だ。


来た道を戻りながら、ロイは歩幅を少しだけ意識していた。


盾は保険だ。


戦い方を変えるものではない。


そう自分に言い聞かせる。


通路の天井に、細い糸が張られていることにも気づかないまま、ロイは出口へ向かって歩いていった。



いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

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本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


作者の新作です。

現代日本×ヒーローSF

 「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」

蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。

もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。

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