第22話 小盾の使い方
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中層に入ってから、戦闘そのものは減っていた。
敵が減ったわけではない。ロイの動きが変わったのだ。危険な配置を避け、戦う必要のない相手は無視する。戦うと決めた相手だけを確実に処理する。
結果として、消耗は減り、探索時間は伸びた。
理想的な状態だった。
「最近、安定してるね」
肩の横でリアが言う。
「まあな」
ロイは短く答えながら通路の先を確認する。
気配は二つ。
狼だ。
距離はある。問題ない。
以前なら、ここで一度距離を取り、片方を誘い出してから戦っていた。だが今は違う。位置も悪くないし、通路も広い。
処理できる。
そう判断した。
狼が二手に分かれる。
一体が正面から、もう一体が少し遅れて側面へ回る動き。
読めている。
ロイは槍を構え、正面の個体に意識を集中させた。
飛び込み。
突き。
手応えは浅いが、動きは止まる。
そのまま踏み込もうとした瞬間、二体目が視界の端で動いた。
速い。
「――っ」
反射的に左腕を上げる。
牙がアームバックラーにぶつかり、衝撃が腕に走る。
防げた。
だが――。
体勢が崩れる。
踏み込みが止まり、足が半歩後ろへ流れる。
その一瞬の隙を、最初の狼が見逃さなかった。
低く唸り、再び距離を詰めてくる。
「……まずいな」
小さく呟く。
正面は防げる。
だが、同時には無理だ。
バックラーは一方向しか守れない。
当たり前のことだった。
だが、実際に崩されて初めて実感する。
盾があることで、踏み込みが一瞬遅れていた。
避けるより、受ける選択をしていた。
それが今、位置を悪くしている。
「ロイ、下がって!」
リアの声が飛ぶ。
ロイは即座に判断を切り替えた。
倒す必要はない。
ここは引く。
足運びを意識し、横へ滑るように距離を取る。追ってくる狼の前に投擲ダガーを放ち、動きを止める。
完全な隙は作れないが、それで十分だった。
さらに後退。
狼たちは追ってこない。縄張りの境界を越えたのか、低く唸るだけで距離を保っている。
しばらく睨み合いが続き、やがて狼は奥へ戻っていった。
静寂が戻る。
「……はぁ」
ロイはようやく息を吐いた。
腕がじんじんと痺れている。バックラーには新しい傷が増えていた。
「大丈夫?」
「ああ。怪我はない」
だが、気分は良くなかった。
明確な失敗だった。
「今の、前なら戦わなかったよね」
リアの言葉に、ロイは苦笑する。
「……そうだな」
以前の自分なら、一体ずつ誘い出していた。時間はかかるが、安全だった。
だが今日は違った。
守れると思った。
だから踏み込んだ。
「盾は便利だね」
リアが言う。
「便利だな」
ロイは素直に認める。
「でも――」
言葉を切る。
バックラーを見下ろす。
「前に出る理由にはならないな」
守れるのは一方向だけ。
体勢を崩せば意味がない。
むしろ、受けられるという意識が判断を遅らせる。
それが今日の失敗だった。
「ロイっぽい結論」
リアがくすっと笑う。
「まあな」
ロイは槍を持ち直す。
今日はこれ以上奥へ進まない方がいい。無理をする理由はない。
撤退。
それが正解だ。
来た道を戻りながら、ロイは歩幅を少しだけ意識していた。
盾は保険だ。
戦い方を変えるものではない。
そう自分に言い聞かせる。
通路の天井に、細い糸が張られていることにも気づかないまま、ロイは出口へ向かって歩いていった。
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