第百五十三話 ピンクのアフロヘアな女性1
冒険者ギルドではこの街でしばらく滞在する手続きをした。ギルド内では俺たちが歩いていると近くにいる冒険者たちは二歩ぐらい距離を置こうとしてきて、受付に手続きをしてもらおうとしたら、お嬢様みたいにニコニコしているリオノーラさんを見て顔を引きつらせていた。
あの女はここで何をやらかしたんだか。
「おい!これはなんなんだ!」
リオノーラさんがこの街で何をしていたのかが気になっていると、狼顔の男性がタケノコの刺さっている棒を手にして、味蕾碌、という看板を掛けている真っピンクなお店に怒鳴っているのを見つける。するとその目に悪そうなお店からピンク色のアフロヘアな女性が出てきた。顔立ちやスタイルは整っていて、生の肩がでていてへそ出しルックなんていうかなりセクシーな格好であるのにもかかわらず、目をそらそうと思うどころか特徴的な髪形に思わず見てしまう。
そんな女性は瞳をお星さまにさせて、タケノコが刺さっている棒を見つめた。
「ふわっほー!いいねえ!いかしてるね、いかしているよ!自分の天才性が恐ろしい」
「天才性が恐ろしいじゃねえ!これは何なんだって聞いてんだ!」
「え?ライトニングゴーレムの魔石にラピットグリズリーの毛皮でコーティングして、絶縁性の高いアースキリンの背骨を柄にするなんていう悪魔的発想のもとに作られた槍だ。ここ十年でライトニングゴーレムの魔石を加工しようと考えた魔具師は星の数ほどいただろうが、初めての成功例ともいえるものでもある。ああ、これは憶測ではなくて確定事項。なぜなら、ライトニングゴーレムの魔石を利用できるようになれば、帝国製魔道具の出力を十倍以上に跳ね上げることができるという論文が出回っているのにもかかわらず、成功例を耳にしたことがないからだ。そんな技術革命と言っても過言ではないその槍は――」
「そういう難しい話はいいんだよ!見た目の話だ、見た目!」
話が本当なんだったとしたら凄い槍なんじゃないかと思いつつも、ラピットグリズリーの毛皮が白と茶色の縞模様になっているせいで、白い部分が切れ目みたいに見えてしまい先端がタケノコにしか見えない槍がそんな代物には見えない。狼顔の男性はそんなデザインをした槍のタケノコ部分を見せつけるようにアフロヘアな女性へ突きつける。
「何が問題なんだい?ライトニングゴーレムとラピッドグリズリーなんていう凶悪モンスターを素材しているだけあって威圧感があるじゃないか」
「俺も最初はそうなると思っていた!でも、どう見てもタケノコにしか見えねえよ!……人生の集大成が詰まった槍ができるって話をしていた弟子にこの槍を見せたら、どんな顔をしたか分かるか?」
狼顔の男性は肩を落とし哀愁漂う顔つきで問うた。
「ふむ。あまりの凄さにしょんべんをちびらしたんじゃないか?」
「……女がしょんべんなんて下品な言葉を使うんじゃねえ。……て、そうじゃなくて、何とも言えないような笑顔で俺に目線を合わせないようにしながら、さ、さすがは師匠の人生をかけた槍です、って言ったんだ!いつもは目ぇキラキラさせながら流石ですって尊敬のまなざしを向けるあいつがだ!」
「よかったじゃないか、ほめてもらえて」
「よくねえ!」
狼顔の男性はぜぇぜぇと肩を揺らしながら叫んだ。
アフロヘアな女性は唇でへの字を作る。
「……デザインというものは人の感性によるものだから、たまたま!君とお弟子さんには合わなかったようだが、性能に関しては問題ないんだろう?」
「それは――」
「問題ないはずだ。私が手掛けてきた魔道具の中でもトップスリーに入る出来栄えだったのだから」
狼の男性が答える前にアフロヘアな女性は指で三を作りながら被せるように言う。このデザインの槍を振り回して戦いたいかとアンケートを取ったら難色を示す返答が多数なような気がするが、反論する様子を見せないことから性能だけは良いのかもしれない。タケノコにしか見えないけど。
「なんだい!その槍の完成形とでもいえるようなパーフェクトランス……!を返品するって言うのか!」
パーフェクトランスと言葉にするとき、無駄にネイティブっぽい言い回しなのがちょっと腹立った。
「いや……」
「言っておくけれど、私はそれで完成されていると確信しているから一切手を加えるつもりはないからね」
きっぱりと言い切る。狼顔の男性はしばらくの間唸りタケノコ槍を親の仇でも見るようにしていたら、突然、クソ、と叫びながら肩を落としトボトボとした足取りで去っていった。
そんなやり取りを見た俺の感情は、可愛そうになんていう他人事チックなものではなかった。なぜなら、明日は我が身だから。
「ほら、行くわよ」
「いやだ!」
自分事であるはずなんだけれども、健康診断に注射を嫌だと駄々をこねていた見知らぬおじさんがしていたみたいな声だなと思った。
ちょっと恥ずかしくなりながらも、それでも嫌だった。
「ん?君たち、私の工房に用でもあるのかい?」
関わり合いになりたくないと思っていたアフロヘアな女性の方から声を掛けられる。
逃げたい気持ちでいっぱいだったが、なんとも言えない――気持ちわかるけれどもここにお願いするのがいいはずだからという顔のクローディアさんを見て、駆けだしたいという欲求が萎んでいく。
クローディアさんに話し合いを任せられないかなと甘えた考えがよぎる。妙に甘い今のクローディアさんなら受け入れてくれそうな提案ではあるが、だからこそ頼むのが嫌だし自分のことを他人に任せるのはさすがに不味いよな……となって、おずおずとアフロヘアな女性へ返答した。
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