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第百五十一話 情けない


 悲愴な顔をしたクローディアさんからの肩を貸すという申し出を断り、自分の体なのに自分のものではないような感覚に陥りながら意識的に足を動かして学園までたどり着く。

 警戒するように辺りを見回す者や、緊張が解けた揺り戻しか顔を緩ませている者、その場にへたり込んでいるものなどがおり、魔物の影がないことからしてもおそらく戦闘は終決しているのだろう。

 そんな人たちがいる中で、フィリスさんが眼鏡を掛けた風紀委員の人と話をしているのを見つかる。さっきは血を被っていたはずだが、浄化魔法でも掛けてもらったのだろうか、返り血はきれいさっぱり消え去っていた。


「君、先ほどは事態の収拾に務めてくれて――」


「どうしたんですかその腕は!?」


 そんな会話している様子をぼおっと眺めていると眼鏡を掛けた風紀委員の人が俺に気づいて話しかけてきたのだが、割り込むようにしてフィリスさんが俺の右腕があった場所を見つめて駆け寄ってくる。まるで自分の身に起きたことのように取り乱しており、それが何だか居心地が悪い。

 眼鏡を掛けた風紀委員の人はそんな様子のフィリスさんから何かを察したのか、また後で礼をします、と告げて去っていった。

 俺はどう乗り越えようかと考えながら、弱弱しいフィリスさんへ向く。


「いやあ……やらかしちゃいまして」


「やらかしちゃいましてって……そんなことよりも早く治療しないと!」


 頭を右手で掻こうとして出来なかったから左手を使って頭を掻きながら誤魔化していたら、思っていた以上の鬼気迫る勢いが返ってきて困惑する。

 

「セオドアさん!その腕は!?大丈夫ですか!?」


「すぐに治療魔法が得意な方を呼んでまいりますわ」


 ポールさんやエリザベスさんといった、いつものBクラスの面々が駆け寄ってきた。エリザベスさんは察しが良く治癒師を探しに学園の方へと走っていく。

 もう治らないとは言いだせる雰囲気ではなくて……俺はエリザベスさんに無駄足を踏ませてしまったことがちょっと申し訳なくなる。


「セオ兄さん!今回は私、結構頑張ったから……」


 メイベルも俺がいることに気づいたみたいでいつも甘えてくるみたいな感じで近寄ってきたのだが、周りにいる人たちの雰囲気を察したのだろう、言葉が尻すぼみになっていく。俺の右腕があった場所を見て目を見開いた。

 

「その腕……私が治す。ヒーリング」


 メイベルはそうつぶやくと、俺の右腕があったところが瞬く間にきらめき出した。ヒーリングは治癒魔法のはずなのだが、いっこうに治る気配がない。


 ……メイベルでもダメってことは、本当に治らないんだな。


「なんで……なんで治らないの!」


「なんか、治らないらしい」


「……どうして」


「俺もよく分かんないんだけど、呪念とかいうのが込められているらしくて」


「呪念……私の専門外……」


 メイベルが今にも泣きだしそうな顔をする。やめてほしい。

 メイベルは目元を拭ってから、感情の読めない表情で俺のことを見る。


「ねえ、なんでそんなことになったの」


「……ちょっと下手を打ってさ」


 こっちの感情を読み取ろうとしているような鋭い瞳を向けられて思わず本当のことを言いそうになるが、事の顛末をありのままに説明すれば騒ぎが大きくなることを容易に想像ができるので、フィリスさんへしたみたいに何があったのかをぼやかす。

 

「ねえ、なんでセオ兄さんがあんな怪我をしているか分かる」


 今度は俺ではなく、さっきからずっと地面を見つめていたクローディアさんにターゲッティングした。

 クローディアさんは少ししてから俯いていた顔を上げる。なんだか凄く嫌な予感がした。


「私が悪いのよ……。私が不用意だったせいでセオドアの腕はなくなったのよ!」


「……つまり、セオ兄さんの腕がこうなったのはあなたのせいってこと?」


 メイベルの声色は事件の犯人を追い詰めるかのようで温かみが一切ない。


 やめろ。


「そうよ!あたしがいたから!あたしのせいでセオドアはあんな腕になっちゃったのよ!」


 やめろ。


「具体的には何があった」


「セオドアがぐったりしているからちょっと手を貸そうと思って近寄ったらまだ生き残っていた魔物がいて、あたしがそいつに不意を突かれそうになったところにセオドアが庇ってくれて……!」


 やめてくれ。


「なに悲劇のヒロインぶっている。お前のせいでセオ兄さんは――」


「やめてくれよ!!!」


 思いっきり叫んだ。めちゃくちゃに喉が痛いけど、そんなことはどうでもよかった。

 もう自分の腕が戻らないという事実をまざまざと突きつけられ、俺が勝手に庇っただけなのにクローディアさんは悲観した顔をして、そんなクローディアさんをメイベルが攻めようとして、そしてそんな状況を作り出しているのが俺だというのがどうしても耐えられなかった。

 顔を上げると、腫れ物を扱うようにしているポールさんとか、いつも通りにこにこしているリオノーラさんとか、痛ましそうに俺のことを見つめるフィリスさんとか、棺桶に入る直前のなのではないかと疑ってしまうほど青白い顔をしたクローディアさんとか、ぽかんと口を開きながらどこか傷ついているように見えるメイベルが映ってたまらなくなる。どう言葉にしていいのか自分でも分からないナニカを吐き出したくなるけど、それだけは避けたかった……。とにかく頭を冷やしたい。


「ほっといてくれ」


 俺の名前を呼ぶ声を左から右に流しながら学生寮へと向かう。クタクタな体を引きずりトボトボとした足取りで歩いていたのだが、それは向こうからの厚意を待ち望んでいるのではないかと思えて、残っている余力を尽くして走った。


お読みいただきありがとうございます

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