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第百五十話 マジックバトルが終わった帰り道で3


「そんなのありかよ……!」


 生えた翼が見せかけなんて都合のいいことは起きてくれないらしく、青白い人は宙に浮かぶ。そして、機動力を生かし縦横無尽に動き回りながらブレードで斬りつけてくる。俺は魔力の刀身をかち合わせたり、回避行動を取りながらなんとかしのいだ。


 このままだとじり貧だぞ……!


 ブランドンさんが通ってきた幅の狭い路地が視界に入って走る。機動力に差がある以上、身動きを取れる空間を狭めた方がましなはずだ。

 向こうの攻撃をいなしながら路地に足を踏み入れ、空から迫ってきた青白い人に魔弾を撃ちこむ。当然の如くブレードではじかされてしまうが胸が隙だらけだ。俺は心臓目掛けて魔力の刀身を突き刺した。


 うっせえ!


 思わず耳を塞ぎたくなるような悲鳴を耳元でする。鼓膜が破れそうな大声にクレームをつけてやりたくなるが、もう口がきけない奴に文句をつけても仕方がないか。

 

「なぁ!?」


 完全に決着がついた、そんな心のゆとりが生まれた瞬間に青白い人のブレードが振り上げようとしているのが見えて、慌てて思いっきり右足で蹴り上げた。


「弱点じゃなかったのか……」


 俺に蹴り飛ばされ地面に転がった青白い人は倒れこむ動作を逆再生させたように起き上がり、左胸にぽっかりと空いた徐々に塞がっていく。


「帝国で戦ったでかい図体の化け物と同レベルの再生能力を持っているってか!お約束と違うじゃないか!」


 文句をつけたところで事実が変わることはなく、青白い人はブレードとなった腕を横なぎに振った。

 

「お構いなしかよ、あいつ!?」


 青白い人は建物を斬りつけ、斬られた建物は斜めにずれ落ちた。


 流石に中に人がいるなんてことはないよな……!クソ!そんなこと気にしながら――気にしなくてもあんなバケモン相手できないぞ!


 とりあえず距離を取るために路地の奥の方に逃げ、青白い人は追ってきている様子はない。建物が崩れたことで目くらましになってくれたんだろう。

 俺はおそらく青白い人がいる方向を見る。


「……このままっていうわけにはいかないよな」

 

 フィリスさんに任せることも考えたが魔物の対処で手いっぱいだろうし、そもそも引き付ける過程で被害が起きる可能性がある以上、俺が立ち向かうしかない。


 ここで逃げるという選択肢が浮かばないのは成長したのか、頭が狂ってしまったのか……。いや、もう逃げて後悔したくないのか?

 ……まあ、逃げないのは前提としてもどうする?弱点は分からないし、そもそもないかもしれないわけで……。魔弾を使ったところでどうしようもないだろうから、となると俺にある手札は……。


 右手に握っている剣の柄を見つめた。


「失敗したことを考えたって仕方ねえか!」


 選択肢がほとんど一つしかないようなことに気づいて開き直り、屋根から顔を出す。青白い人が空を飛んでキョロキョロしている所を見つける。俺のことを見失ったあたりをうろうろとしているらしい。

 いったん路地へ足をつけ、ばれないようにヤツがこっちを向いていない瞬間――だるまさんが転んだ、の要領で近づく。もうすぐという距離になったところ、青白い人が後ろを向いているタイミングで思いっきり走り勢いをつけて跳んだ。青白い人の首を斬り落としながらそいつの体を勢いに任せて開けた広場に叩きつけた。


「やったか?」


 やれてないフラグを自分で立ててしまい、案の定、青白い人からブレードになっていない方の手で突き飛ばされる。

 

 なんつう馬鹿力だ!


 宙に浮く体を制御しながら地面に着地する。

 向こうが突進してきて斬り合うが、相手が空に浮いているのもあってやはり厄介だ。

 でも、攻めが単調なおかげで動きに慣れていき、向こうが突進してきたタイミングでしゃがみ両足を斬り落とした。


「はぁ……やっぱり無理か……」


 両足を失ったはずの青白い人は当たり前のように斬り落とされた足を再生させて所を見て、さっき思いついた作戦を行う決心がついた。

 出来る限りの魔力を魔道具に注ぎ込む。


 おいおいマジか!?


 覚悟していたとはいえ魔力がどんどん魔道具に吸い取られていく。

 

「なんも変わらねぇじゃないかよ!……でも、掛けるしかないか!」


 太く長い形状に変わるのではないかという予想が裏切られるが、それでも信じて青白い人に振り下ろした。

 魔力の刀身とブレードとかち合い、ブレードの方がプリンのように溶けていき、そのまま体を切り裂いていた。再生能力を考慮して、出来る限り何度も斬りつける。


「ぁぁ……ぁぁ……ぁぁ……」


 体中に巡る魔力が空になる感覚――体に力が入らないような状態になり、魔力の刀身を出すことさえできなくなった俺は地面に尻餅をつく。

 若干ぼやける視界の先に走って近づいてくる赤髪の少女が見えた。


「あんた大丈夫!?」


「ぁぁ……ぁぁ……はぁ……はぁぁぁあ……。なんとか……」


「……まったく、あんたってやつは」


 クローディアさんは呆れたような、それでいて安堵した様子でため息を吐いた。

 その反応は、なんだか馬鹿で無鉄砲な漫画の主人公にするような感じで、責任とか無茶って言葉が苦手な俺には似合わないものなはずなんだけど。


「ははは」


「……いきなり笑ってどうしたのよ」


「いや、変わるもんだなと思って」


 俺の言っている意味が理解できなかったのか、クローディアさんは心配そうに、無茶しすぎたんじゃないのと、頭に手を当ててくる。

 流石にやばい奴扱いしすぎだろうと思っていたら、なんか嫌な感じがしてクローディアさんのことを突き飛ばした。

 右肩に激痛が走り左手で抑えようとするがあるはずのものがない。痛みが鈍くなる魔法を掛けて右肩に目を向けると無くなっていた。右腕が。

 ただそんなことよりも最悪なのが、そこら中に広がっていた血とかブレードとか細かく分解した体の破片が集まっていき、青白い人が元通りになる。


「……流石にもう素寒貧だぞ」


 腕は治癒魔法で何となるとしても、魔力がカラカラなこの体ではおそらく目の前にいる奴はどうしようもない。もう年貢の納め時なのかと絶望しかけていたら、空から何かが降ってきて青白い人がぺちゃんこになる。

 その振ってきたやつはだいたい三十代中盤あたりだろうか、体つきはがっちりとしており質実剛健という言葉が似合いそうな男だった。

 その男を見たクローディアさんは、ひぇ!?と情けない声を上げひどく怯えた様子で転んだ。確かにモーガンさんとかと近い体型をしているが、クローディアさんらしくない反応だ。


「その髪とその反応……出来損ないか。相変わらずだな。……確かオズボーン家のメイドを……だからここにいるのか」


「ライオネルさん。そんな戦場に立つ覚悟も出来ていなさそうな少女にギラギラとした眼光をむけちゃあだめですよ。かわいそうじゃないですか」


 紫色の髪をした女性がいつのまにか立っていた。ショートヘアなのと雰囲気から一見はなんとなくさっぱりした雰囲気を感じるが、仕草と立ち振る舞いが男の情欲を誘う怪しい色気があった。

 いつものクローディアさんだったら、強気にそんなことないと言い返すはずなのだが、怯えた様子で反論する意思が見られない。


「それにしてもきみ、災難だったね。私たちがもうちょっと早かったらそんな怪我をしなくても済んだのに。というかきみ、よく耐えられるね」


 紫髪の女性は無遠慮に顔を近づけてそんなこと言う。美少女耐性がある程度ついてきたと自認している俺だが、周りにいる少女たちとは違う大人な女性に迫られ照れくさくなり紫髪の女性から顔を逸らす。


「まあ、痛みを抑える魔法を使っているので」


「へぇ、そんなのあるんだあ……便利だなぁ。だから、そんな呪念がこもった一撃を食らっても平気そうなんだ」


「……呪念ですか?」


「うん。……でも可哀そうだなあ、将来有望そうなのに。きみ、右腕が利き手なの?」


「はい」


「あちゃぁ……」


 紫髪の女性はおでこに手を当てながら頭を振る。

 呪念という不吉なワードと紫髪の女性の反応から、言い知れぬ不安を抱きつつも質問する。


「えっと、何か不味いんですか?」


「いやだって、そんな若くして利き腕を失っちゃうなんてさ」


「それってどういう意味なんですか!」


 俺がしようとしていた質問をさっきまで呆けていたクローディアさんが聞いてくれた。食って掛かるような勢いだが、そうでもしていないとまともに意見さえ言えないような精神状態のように見えた。


「ん?あ、立ち直ったんだ。彼の腕を直すって話なら無理だよ。だって、そんな呪念がこもっていたら再生できないからさ」


「へ?」


 魔法で直せるだろうと思っていた俺はほとんど空気みたいな声が出る。


「ああ、やっぱり気づいてなかったんだ。きみ、結構覚悟は決まっていそうだけど、利き手を失うなんて分かっていたらそんな冷静にいられるわけないもんね」


「……ッ!それって本当にどうにもならないんですか!」


「え?いや、私も専門じゃないから知らないけどさ。でも、私が知る限りじゃ治らないとおもうけど?」


「そんな……」


 クローディアさんは俺以上に落ち込む。……ただ俺は現実を受け止めきれていなくて落ち込むことすらできていないだけなのかもしれないが。


「行くぞ」


「ええ?この子たちを助けてあげないの?」


「必要ないだろう。我々のやることはもう終わった」


「ひどいなぁ。……ごめんね、きみたち。私も仕事だからさ」


 紫髪の女性は軽やかな足取りで学園の方へ向かっていく。


「だからお前は出来損ないなのだ。大人しくメイドとしての本分を果たしていればいい」


 男の方も頭を垂れるクローディアさんにそう告げて学園の方へと去っていった。


お読みいただきありがとうございます

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