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『席替えに至る経緯』 管理人側視点

 すると、相づちひとつ打たなかったベッキーとガウチが、待ってましたとばかりにメニューに手を伸ばした。

 いつもの僕なら、この三人の言動に首を傾げていたと思う。

 だって、話し下手を自認するシロワンミ氏が彼なりに一生懸命説明を試みている最中。一番重要な部分に差しかかる寸前。タイミングとしては、最悪。

 話の腰を折るどころではない。どこからどうみても、シロワンミ氏を傷つける行為。交渉決裂を目的にした三人のチームプレー。

 でもそんなことを思う余裕はなかった。というのは、突然僕の脳裏にいくつかの文字が浮かんできたからだ。

『視線』

 最初がそれだった。

 え? と思う間もなく、それは別の文字へパッパッと切り替わった。

『緊張』『食事』

 時間にして、ほんの数秒。でもそれが今の食事発言につながっていることは、明らかだった。

 問題は、どうしてこのような現象が、僕に起きたかだ。

 反射的に思ったことがある。

 僕はカモシンとベッキーに挟まれている。僕の脳が勝手に彼女らの脳波をキャッチ。もしくは彼女らが、意識的に僕に脳波を送り込んできた。

 でも、なぜ? 何の目的で?

思考が止まったところで、気がついた。まずその前に、シロワンミ氏の反応の確認。

 何気なさを装って視線を向けてみると、ほっとしたような表情を浮かべながら、額の汗を手の甲で拭っているところだった。空腹を感じさせるものは、何もない。

 どうやらこの食事タイムは、シロワンミ氏の気持ちを、いったん和らげるのが目的のようだ。

 考えてみれば、彼の目の前に並んでいるのは、このあたりでは有名な経済界の重鎮三人。その上彼は僕を、霊能者か何かと勘違いしている。

 となると、僕たち四人の視線は、強レベルの重圧となって彼に襲い掛かっている可能性がある。

 そんな彼の心境を、カモシンは敏感に感じ取った。そして、とっさに思いついたのが、食事というかたちのブレイクタイム。

 そうだとすれば、彼女らの言動も納得できる。

「どうぞ、お好きなものを、選んでください、シロワンミさん」

 テーブル越しにメニューを差し出したベッキーの肘が、不自然なかたちで僕のわき腹に触れたとき、なぜか『席替え』の文字が、浮かんで消えた。

 え? どうして? の疑問は、そのあとのベッキーの声と表情で解決した。

「あららら、大変、どうしましょう」

 大げさな声。わざとらしく見開かれた大きな目。

「だいじょうぶですか、ちぎれ雲さん。あばら骨が、折れたんじゃないんですか?」

 そこで僕は、確信した。僕もチームプレーの一端を担わされている。

 了解しました。僕の担当は『席替え』なんですね。

 ベッキーに目で語りかけた僕は、シロワンミ氏からよく見えるように身を乗り出した。そして脇腹を押え「アタタタタタ」といいながら、それにつづく言葉を探した。

 しかし、残念。僕の頭の中に、気の利いたせりふをうみだす回路なんあるわけがない。しかたない。僕はそのままの顔をシロワンミ氏に向けた。

「ここにいたら命が持ちません。そっちに避難したいんですけど、いいですか?」

 僕の中途半端でつまらないせりふに、シロワンミ氏も同じようなレベルのせりふで応じてくれた。

「どうぞ、どうぞ、右でも左でも」


 そのような流れの後、僕たちは同じ料理を注文した。

 ミニ野菜サラダ付きの、ナポリタン。

 でも、多数決とか話し合いで決めたわけではない。分厚いメニューの後ろの方に載っていた小さな写真をシロワンミ氏が見つけたのだ。

「懐かしいなぁ」

 とつぶやいたシロワンミ氏に、隣からメニューを覗き込んでいた僕が「じゃあ、僕はそれで」というと、向かい席の三人も「わたしたちも、それを頼もうと思っていたんです」とつづけたわけだが、この食事に至るまでの一連の流れには、目に見えない力が働いていた可能性がある。

 というのは、スパゲッティを口にしながらカモシンが何気なく言った、

「これもある意味、同じ釜の飯を食うよね」

 のあたりから、我々五人に、大小様々な変化が現れ始めたからだ。



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