久しぶりの続き
書きかけの名前に、細く線を引いた。
「まだ予定わかんないから、後にする」
航平はうなずいて、用紙を自分の方へ戻した。
私はスマートフォンを持ち直した。美咲のメッセージの下に、返事を打つ。
『うん、まだ日程も決まってないんだけど。よかったら来てほしくて』
送ってから、もう一通足した。
『その前に、久しぶりに会えないかな』
今度は、画面を伏せずに待った。
『会いたい! 来月なら帰る予定あるよ』
私はその一文を二度読んだ。
『いつ?』
『十二日。夕方から用事あるけど、お昼なら!』
『空いてる!』
まだ来月の勤務表は出ていなかった。けれど、休みは取れる。取ろうと思った。
美咲が、駅前にできたカフェのリンクを送ってきた。
『ここ気になってたんだよね。どう?』
『いいね。ここにしよう』
画面の上に「了解」と書かれたスタンプが出た。
私はカレンダーを開き、十二日の欄に「美咲」と入れた。
「会うことになった」
顔を上げると、航平がこちらを見た。
「よかったじゃん。いつ?」
「来月の十二日」
「楽しみだね」
「うん」
声に出して返すと、ようやく約束になった気がした。
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次の日、母に電話をした。
式に呼ぶ親戚のことを聞くつもりだったのに、途中で美咲の話になった。
「久しぶりじゃない。美咲ちゃん、元気なの?」
「たぶん。まだ、あんまり話してないけど」
「よくうちに来てたよね。お母さん、美咲ちゃんの笑い声、覚えてる」
母は懐かしそうに言った。
「奈緒も、あの子が来るとよくしゃべってた」
私は冷蔵庫に貼った勤務表を見ながら、うん、と答えた。
「あ、そうだ。奈緒の部屋の荷物、今度帰ったら少し片づけてね。机の引き出し、まだそのままだから」
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週末、一人で実家に寄った。
自分の部屋だった場所には、室内干しの洗濯物が並んでいた。机の椅子にかかった父のシャツをどかして、引き出しを開ける。
使いかけの付箋。出なくなったボールペン。期限の切れたクーポン。
奥に、小さな菓子缶があった。
ふたを開けると、写真や映画の半券に混ざって、水色の封筒が出てきた。
『二十五歳の奈緒へ』
美咲の字だった。
高校を卒業する少し前、お互いに手紙を書いたことを思い出した。
「二十五歳とか、もう全部決まってそう」
美咲はそう言っていた。
仕事も、住む場所も、結婚する相手も。
私は封筒を開けた。便箋には、授業中に回していたメモと同じ、丸い字が並んでいた。
『奈緒、結婚してますか?
私はしてるかな。してなかったら、おいしいものおごってください』
思わず笑った。
将来の話に混ざって、当時好きだった歌手の名前や、二人にしかわからないあだ名が書いてある。
最後の方で、指が止まった。
『奈緒の結婚式では、絶対に友人代表のスピーチをするからね。泣いて読めなくなったらごめん』
そんな約束をしたことは、忘れていた。
便箋を折り直し、スマートフォンで封筒の写真を撮った。
『こんなの見つけた。覚えてる?』
美咲宛てに打って、写真を添えた。
少し迷ってから、文章も写真も消した。
来月、会ったときに見せよう。
その方が、きっと話が弾む。
封筒を鞄の内ポケットに入れて、十二日の予定をもう一度開いた。
十一時半、駅前のカフェ。
終わる時間も入れようとして、やめた。




