招待する人
「新婦様のご友人は、何名ほどお呼びするご予定ですか?」
担当の女性は、ペンを持ったまま私を見た。
テーブルには、披露宴会場の写真が並んでいる。白いクロスに淡い色の花。窓の向こうに見える庭。さっきまでは、そこでドレスを着る自分を想像していた。
「まだ、決めていなくて」
「おおよそで大丈夫ですよ。まずは、いらしてほしい方を書き出していただければ」
差し出された用紙には、親族、職場、友人と欄が分かれていた。
「俺は十人くらいかな」
隣で夫の航平がスマートフォンを開いた。
「大学が六人と、高校が四人。あ、でもあいつ、今海外か」
名前を数え直す航平の横で、私は紅茶に手を伸ばした。
「奈緒は?」
「ちょっと、考える」
カップを置き、用紙を引き寄せた。
誰の名前も書けないまま、端に印刷された花の模様を見ていた。
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帰り道、航平は式場でもらった紙袋を揺らしながら言った。
「人数、別に合わせなくていいって」
「うん」
「俺も、全員来られるかわかんないし」
私はうなずいた。
航平はきっと、私にも呼びたい人が何人かいて、その人数で迷っていると思っている。
駅前の信号で立ち止まると、航平のスマートフォンが鳴った。
「大学の友達。式いつって」
「もう聞かれたんだ」
「見学行くって話したから」
画面を見ながら、航平が笑った。すぐに返事を打ち始める。
私は信号が変わるのを待った。
入籍して三週間になる。
友達には、まだ誰にも知らせていなかった。
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夕飯のあと、航平がお風呂に入っている間に、連絡先を開いた。
高校の同級生。
専門学校で同じ班だった人。
前の職場の同期。
名前は、思っていたよりたくさんあった。
最後のやり取りを、一人ずつ確かめた。
『またご飯行こうね!』
『落ち着いたら連絡するね』
どの会話も、その先がなかった。
誰ともけんかはしていない。嫌いになった人もいない。
誘われた日に仕事があったり、返事を後回しにしたり。そんなことをしているうちに、次に連絡する理由がなくなった。
結婚式なら、理由になる。
でも、何年も連絡をしていない相手に、そのときだけ来てほしいと言うのは、どうなんだろう。
画面を下へ送って、美咲の名前で指が止まった。
高校時代、いちばん仲がよかった。
昼休みも帰り道も一緒で、電車を一本見送ってまで話していた。何をあんなに話していたのか、今ではほとんど思い出せない。
最後のメッセージは、三年前だった。
『今度そっち帰る! 時間あったら会わない?』
『ごめん、その日仕事なんだ、、、』
『そっか! また今度だね』
私が送ったスタンプで、終わっていた。
別の日なら空いている。
いつまでこっちにいるの。
どちらか一つでも、あのとき送っていればよかった。
美咲のプロフィール写真を開いた。
知らない海を背に、女の人が二人並んでいる。美咲と、私の知らない誰かだった。二人とも同じ形のサングラスをかけていた。
私は写真を閉じた。
『久しぶり。元気?』
打ってから、消す。
返事が来たら結婚の話をするのに、何も用がないふりをするのは気が引けた。
『久しぶり。突然ごめんね。実は結婚しました』
読み返して、送信した。
旧姓の小川から藤崎に変わったことを、美咲はまだ知らない。
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「人数、わかるところだけ書いちゃおうか」
お風呂から上がった航平が、テーブルに用紙を広げた。
自分の両親と妹の名前を書き、私にペンを渡す。
私は父と母、それから祖母の名前を書いた。
友人の欄に差しかかったところで、スマートフォンが震えた。
『え、おめでとう!!』
美咲だった。
思わず、息を吐いた。
ありがとう、と打ち始めると、もう一通届いた。
『もしかして結婚式の招待?笑』
指が止まった。
からかっているだけかもしれない。美咲は昔から、照れくさい話に「笑」をつけた。
それでも、すぐには返せなかった。
「返事、来た?」
航平が聞いた。
「うん。おめでとうって」
「よかったね」
私はうなずき、スマートフォンを伏せた。
美咲に会いたかった。
結婚したことを、喜んでほしかった。
けれど、今日あの質問をされなかったら、私は連絡しただろうか。
「名前だけ先に書いておけば?」
航平に言われて、用紙に目を戻した。
友人の欄に、美咲の名字を書きかけた。
二文字目の途中で、ペンを止める。
名字が、今も同じかどうか知らなかった。




